異世界人が大嫌い!な少女は美少年になる
ひみこ
第一章 安藤夏樹
第1話 「ボクは絶対に異世界人とは関わらない」
あいつらは必ず美少女とパーティを組む。
別に美少女とパーティーを組むことが悪いと言っているんじゃない。
なぜか現れる美少女が仲間になってくれるというのなら断る理由はないし、長い旅に出て寝食を共にするのだから美少女のほうがいいに決まっている。
だから、そこは問題じゃない。
問題なのは、あいつらが世界を決して救ってくれないことだ。
あいつらは「特別な能力」を持っている。
さらに運命的な仲間――ほぼ全員美少女――と出会う。
大いなる力を持つ神々――全部美少女でときには幼女だったりもする――と特別な関係になったりもする。
あろうことか魔王――当然美少女――に惚れられたりすることもある。
と、まあとんでもない「力」を手にするわけだけど、な・ぜ・か、ダラダラとその「美少女」たちと楽しい日常を過ごしてばかりだったり、地方のどうでもいい揉め事を解決してまわるだけで、いつまで経っても肝心の世界や国の危機は救ってはくれない。そしていつの間にか名前も聞かなくなったりする。
どうしてなんだろうね?
中には最初から世界を救う気などまったくなくて、能力を無駄遣いしながらスローライフを楽しむやつや私的な復讐ばかりに能力を使う、なんていうやつらまでいるらしい。もちろん、美少女を侍らすことだけは忘れずに。
そんなやつらを送り込まれた、ボクたち「この世界」の住人はたまったものじゃない。特別な能力に驚いて褒めるだけの役目をいつまでやらされるのだろう。いつまであいつらの仲良しイチャイチャハーレム旅行の終わりを待ち続ければいいんだろう。
ボクは気づいた。気づいてしまった。
――そんな日は来ない
ある程度の功績を残して、一定の地位を手に入れたあとは、物語が終わるのを恐れて、ひたすらに回り道を繰り返し、ただただ楽しく美少女たちとの日常を繰り返して、そしていつの間にかその物語は忘れられ、永遠に終わりはこない。
あいつらが最も欲しいものは地位でも名誉でも栄誉でもない。ましてや世界の平和を守りたいなんて本当は考えてもない。当然だよね。だってあいつらは世界を救いたくてこの世界に来たのではなくて、勝手に連れてこられただけなんだから。基本、この世界のことなんてどうでもいいんだよね。
ただ「自分の居場所」がほしいだけなんだ。
自分が必要とされ、ちやほやされ、そして美少女にモテモテになるためにならあいつらは喜んでその「力」を使う。きっと元の世界では居場所がなかったりするんじゃないだろうか。
だから自分の居場所――ただし美少女に囲まれた環境に限る――を手に入れてしまうと、途端にやる気をなくしてしまうんだ。
じゃあボクの世界はあいつらをもてなすために在るとでもいうのだろうか。
そんなわけない。
ボクたち「この世界」の人間だって一生懸命生きてるし生活してるんだ。あいつらの能力にただ驚くだけのために生まれてきたわけじゃない。
そしてボクたちにとっては大切な「世界」なんだ。
なのに――あいつらにとってはこの世界やこの世界の人たちがどうなろうと知ったこっちゃないのんだって。自分たちの物語に登場しないこの世界の片隅で生きている人間のことなんて関係ないだもんね。
だってはこの世界はあいつらにとっては「異世界」なのだから。
ボクの世界はもちろん危機に陥っている。らしい。
たぶん、魔王かそれとも災厄か、はたまた邪神かによっていずれ世界が崩壊してしまう、そんな危機に瀕しているはずだ。たぶん、きっとそうだ。そんなことを聞いたことがあると思う。
だけどボクには関係ない。
だって、ボクはただの村人だもん。特別な力を持っているわけでもないし、使命や運命ももらってない。もしあげるって言われても丁重にお断りするけどね。
もしボクがあいつらの物語に登場することがあっても名前もなき村人Aだろうね。いや、AどころかCかDかEくらい。
だから世界の運命を左右するような出来事なんてボクには全く関係ない。
そんな危機に瀕しているボクたちの世界が救われる唯一の希望があいつらだ。
トラック様によってこの世界に転生されてくる異世界人なのだ。
だいたい、この世界に住む人々には世界の危機は解決することが出来るわけない。出来ないからこその「世界の危機」なんだよ。だって、自分たちで解決できるのなら危機でもなんでもないし、とっくに解決してるんだよね。
でもボクは異世界人たちを見て、いつも思うんだ。
トラック様は、なぜいつも、性格がひんまがっていて、ちょっと頼りなくて、そしてかなりスケベな少年ばかりをお選びになるのだろう。
頼りになってリーダーシップを発揮できるような人間は異世界にはいないの?
どいつもこいつもすぐに寄り道して脇道にそれて回り道する。一発でバシっと世界を救えるような人さえ送ってくださったら世界の危機はすぐ解決できてしまうかもしれないんじゃないだろうか。
もしボクが異世界に転生されて特別な力を授かるようなことがあったら絶対にあいつらみたいにはならない。
ボクならそんな特別な能力を手に入れたら世界のためにその力を使う。この世界を救うために与えられた力なんだから当然だよね。美少女のハーレムなんてもちろん要らない。余計な回り道なんかしない、温泉も水着も要らない。まっすぐに世界を救ってみせる。
世界が全然救われないままいつまでもいつまでも焦らされ続ける苦しみはよおくわかっているからね。
でもボクにはそんな力は残念ながら与えられてない。
世界を救う力も王族や神様の知り合いも高貴な血統も何もない。ボクは世界の片隅でなんのドラマもなく物語に登場することもなく、世界の運命とは無関係に生まれて死んでいく。それだけの村人Dなんだ。
どうせ期待しても裏切られる。
願っても叶わない。
だから、決めたんだ。
ボクは絶対に異世界人とは関わらない――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます