昨日カノジョにフラれていた僕は、シェアハウスのアメージング料理係になりました。いつのまにか掃除係も洗濯係も拝命し、最近やっとプロレスの技を試される係に就任しました。

世界三大〇〇

第1話 ビビビッな僕の日常

 1月下旬の朝。肌寒いキッチン。

僕こと武田晴郎がハミングしながら取り出したのは4つの弁当箱。


 家族3人と、カノジョの分!


 ブロッコリー、ひじき煮、レンコンの素揚げに定番のたまごやきと、

粗熱をとっておいたハンバーグ。表面はカリカリ、中はジューシー。

最後に自家製味噌ダレをたっぷりかけるつもりだったけど……。


 自家製味噌ダレが切れてる! 味噌もない!


 帰りに買い忘れないように、メモに味噌と書いて自分の弁当箱に貼る。

兎に角、アメージング弁当の完成! おっと、箸を忘れるところだった。




 玄関前。


 いつも通り待ち合わせ。相手は隣に住む幼馴染でカノジョの飯富景子。

4歳のころ、僕の作った目玉焼きを美味しいと言ってくれた人だ。


 僕は美少女が目の前にいると緊張して言葉遣いが丁寧になってしまう。

通称、美少女レーダー。そんなおかしなクセを受け容れてくれた景子。


 小学校卒業の日に緊張のなか想いを告白、まさかまさかのOK!

つきあいはじめたのを、まるで昨日のことのように覚えている。


 景子は本当の昨日、名門私立・W大附属高に推薦合格した。

4月から別の学校になるのはさみしい。でも、お隣だから大丈夫!


「景子さん、おはようございます。アメージング弁当にございますよっ!」


 いつも通り弁当を見せて景子にあいさつ。レーダーは今日もビビビッだ。

けど景子の様子はいつもと違う。僕に紙袋を見せつつ、あきれ顔に言う。


「『おはよう、ハロー。いつもありがとう』って言うと思う?

 私、昨日、言ったよねぇ」


 はて、何のこと? 昨日のことなのに全く覚えてない!

やや怒り顔の景子に、僕はぽかーんと開けた大口を見せる。

そんな僕に、景子は紙袋に入ったサンドウィッチを見せる。


「大丈夫ですよ。今日はちゃんとお箸を持ってきましたから」


 景子の怒り顔はさらにひどくなる。


「忘れっぽいってだけじゃなくて、意味を理解してないでしょう。

 『武田君のお弁当はもう要らない』って言ったのよ。W大附属高は給食だし」


「いやですよ、景子さんったら。武田君だなんて他人行儀……」

「……その『景子さん』っていうの、辞めて欲しいんだけど、武田君!」


 僕はフラれた。正確には『昨日カノジョにフラれていた』らしい。




 お昼。教室の隅。

僕は2人の友達、北条康と今川元に、余った弁当の掃除を依頼した。


「いっただきまーす! もぐもぐ……いやーハロー君の作る弁当は美味しいよ」

「そんなに喜んだら失礼というものでござる。だってハロー氏は今日……」


 今川、正確には昨日だ。僕には意味が分からなかったから、

今朝フラれた衝撃が残っているのは事実なんだけど。


「気をつかってくれるのはありがたいけど、遠慮せずに食べてくれ」

「そーだよ。弁当に罪はないし、美味しくいただこうよ! はむっ」


 能天気にハンバーグを口に放り込む北条。

今川はあきれ顔ながらも、北条の提案に乗る。


「まぁ、たしかに。それではいただくでござる。あーん」


 美味しく食べてくれる2人を見ていても、今日はなぜか食欲がない。

箸なんか、持ってきても意味がない。景子が近くにいないとさみしい。


 僕の料理を美味しく食べてくれる誰かを観るのが好き。

景子というカノジョのいた僕は、とても幸せだった。

でも、給食なら仕方がない。僕じゃ役に立てない。


 そんなことを考えてぼーっとしていると、今川。


「ハロー氏、今日の放課後は空いてるでござるか? 

 お弁当のお礼にうわさのカフェにご招待したいでござる」


「あぁっ、駅前の? 元ちゃん、僕も行きたい!

 チェリーパイ、チェリーパイ!」


 うわさというのは美少女店員がいるということ。

『欧米かっ!』っとツッコむのも忘れて、


「飯富殿より美少女とのうわさにござる。

 黒髪ロングストレート、茶髪縦ロール、金髪ツインテでござーるーっ!」


 と、今川が前のめりに語る造形は、全部2次元ヒロインだ。

そんな子、いるはずがない。フラれたばかりだしさすがに静かに過ごしたい。


「今日ばかりは遠慮するよ」

「ハロー氏、薄情でござる。やっと口実ができたでござるに」


 今川よ、正直過ぎる。


「そうだよ、行こうよ。ついででいいからさ!」


 ついで?


 北条は片手にしたメモを僕に見せる。

あぁ、そうだった。駅前スーパーにしかない味噌を買うんだった。




 駅前スーパーに行くついでにうわさのカフェに寄る。

だけどこの日、僕の目に映るのは普通の女子ばかりだった。

ビビビッな2次元的符号の塊のような美少女なんて、妄想の産物でしかない。

何かを期待した僕の間違いだった。


 駅前スーパーに着いたのは、辺りがすっかり暗くなったあと。

味噌コーナーを目前に、僕は1人の女子とすれ違う。


 黒い長髪は三つ編。大きな黒縁メガネ。落ち着いた着こなし。

2次元的符号ではあるが、それはどちらかというと地味な女子。

美少女とは遠くかけ離れた容姿。


 手にしているのは黒い味噌。

『高級ホテルの味』が再現できるのに、売上は毎月4位という地味さ。

あと1つ順位を上げれば特売の対象になるのに残念でならない。

と、いうのもその味噌、特製味噌ダレのベースでもある。


 そのとき、なぜが僕のレーダーがビビビッとなる。

地味な女子を相手に、どうして⁈

________________________

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


新作ということで本日(5月3日)は2本投稿いたします。

2本目は夕方17時過ぎを予定しております。


ブクマや♡、☆やコメントなど、よろしくお願いいたします。

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