第29通目 ペアリング

俺たちは、すっかり手を繋ぐのが当たり前になっていた。


手を離しているときはあってもいつの間にか繋いでいる。


「透夜くん行きたいところはある?」


「うーん、特にはないんだよね。陽芽は?」


「私も特にないかも・・・ぶらぶら散策してみよ」


それから俺たちはゆっくりイオンの中を散策した。


時間の許す限り。



特に何かやることがあったわけではない。


ただ、手を繋いでイオンを散策しただけ。


そして、俺はあるお店の前で足を止めた。


シルバーアクセサリーのお店だ。


よく立ち寄るお店・・・俺はふとあることを考えた。


「ねえ、陽芽。指輪・・・買おっか」


「え!」


俺は、お店の中に入っていく。


そして、以前から気になっていた指輪の元へ行く。


「お、透夜」


「あ、倉元さん。お久し振りです」


お店の奥から見知った店長 倉元彰が出てきた。


茶髪で後ろ手に髪を結んだお兄さん。


「ん?透夜・・・お前、彼女連れか?」


「いいでしょ」


俺は、歯を剥き出しに笑みを浮かべる。


この店長さんとは割と長い付き合いである。


彼是出会ってから3年近く経つのだから。


「最近顔を見せないと思ったらお前」


「おっと、陽芽。この人、ここの店長さんで倉元彰さん」


「えっと、透夜くんがいつもお世話になってます。

天宮 陽芽です。よろしくお願いします」


「陽芽、そんなに畏まらなくていいよ」


「おま、まあいいわ。それで?ペアリングでも買いに来たのか?」


「ええ、前から気になってたあれが欲しいんですけど」


俺がそう言うと店長は奥から指輪を出してきた。


シンプルな造りだが、青い線とピンクの線の入った2つのリングだった。


「透夜は、親指か?」


「あ、左手の薬指・・・」


「あ?ふぅーん、そっか。

二人共サイズ測らせてくれ」


そう言って、店長は俺たちの左手の薬指のサイズを測っていく。


そして、それに合わせてリングを揃えていく。


「凄いな、まさかサイズぴったり在庫あった」


そう言って、青い物を俺に。ピンクの物を陽芽の前に置いた。


それをそれぞれ指に通す。


確かに、ぴったりだった。


「陽芽、この指輪でどうかな?」


「うん、気に入っちゃった」


「じゃあ、店長これ買います」


「マジか、じゃあ3万だけど大丈夫か?高校生」


「もちろんです」


そう言って俺は財布から3万円を出して店長に渡す。


店長は、保証書や衣装ケースなどを用意してくれた。


「それ、付けて帰るか?」


「はい、付けてきます」


「じゃあ、保証書とケースは袋に入れておくな。


手入れは・・・透夜なら大丈夫か」


「はい、大丈夫です」


「透夜、陽芽ちゃん。お買い上げありがとう」


そう言って、店先まで俺たちを誘導させて店長は袋を俺に手渡した。


俺たちは、また手を繋いで店を離れた。


「ねえ、透夜くん。どうして、この指輪が前から気になっていたの?

ペアリングだったよね?」


「ん?なんかわからないけど見た時に一目ぼれしてたんだよ・・・だから、きっと陽芽と身につけるって未来を予見してたのかも」


「えへへ、それなら私も嬉しい。

よかった、他の人と着けようとしてたとかじゃなくて」


「そんな異性の知り合いいないよ」


俺は、異性の知り合いなど一人もいない。


寂しいことだけど、それが真実だから仕方ない。

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