第37話:BAN(Side:顕示②)
「ぐっはああああっ!」
突然、喉元にとんでもない衝撃が走り、ものすごい勢いで椅子ごと吹っ飛ばされた。
後ろの壁に激しく衝突し、一瞬意識が飛びそうになった。
「な、何が…………起こった」
まともに動かない頭を必死に動かして考える。
あの聖女がジークを攻撃したら、俺の身体も同じように吹っ飛んだ。
まさか……ゲーム世界のダメージが現実世界にまで伝わった……?
い、いや、ありえないだろうがよ。
頭を振るものの、根っから否定できないのはなぜだ。
ジークは画面の中でビクビクと痙攣している。
「ク……クソッ……何がどうなってやがる」
いくらコントローラーを操作してもまったく動かない。
しかも、気絶状態とかいう意味不明なステータスまで表示されている。
ふざけんな、こんなの俺でも初めて見たぞ。
バグってんのか?
ミドルエージ×ファンタジーの管理システムにログインする。
だが、いくら見ても異常はなかった。
ちくしょうっ! どうなってんだ!
怒りの限り室内を荒らしていたら、突然、パソコンが勝手に動き出した。
「……は?」
メール画面が開き、文章を書き、諸々のファイルを添付している。
“配信者狩り”をしていた証拠、会社の金を横領した証拠、自社の株を不当に売りさばいた証拠……。
おまけに文章は挑発するような内容だ。
しかも送信先は全社員。
「待て待て待て! おい、コラァ! 何勝手に動いてんだよ!」
急いで電源を引っこ抜く。
マジでふざけんじゃねえぞ。
なにPCまでバグってんだよ。
だが、電源が落ちない。
ど、どうなってんだよ。
焦る俺をせせら笑うように、カタカタカタッと軽快に文字が打たれていく。
〔捕まえられるもんなら捕まえてみろや、無能ども〕
〔誰のおかげで生活できてると思ってんだよ〕
〔配信者のアカウントBANさせるのめっちゃ気持ちいいわ~〕
煽るような文章とともに添付された、悪事を記録した数々のファイル。
こ、こんなのが見られたら破滅どころじゃないぞ。
このままじゃヤベぇ。
「ぶっ壊れろ、このクソパソコンが!」
椅子を思いっきりモニターに叩きつけた。
瞬時にひび割れ暗くなる画面。
へっ、ざまぁみやがれ。
これで大丈夫だろ。
まったく手間かけさせやがってよぉ。
と、思った瞬間、PCの電源が復活した。
カチカチっと残りの入力を済ませ……送信。
「はぁ!?」
マ、マジで送信しやがった。
次々と起こる謎の現象に、頭の理解がまったく追いつかない。
だが、ここまで来たらもうダメだ。
逃げるしかねえ!
大慌てで荷物をまとめ、部屋を出ようと取っ手を掴もうとしたときだ。
何者かに勢い良く開けられた。
「おい、顕示! これはどういうことだ! 貴様のパソコンから送られてきたぞ!」
親父と複数の社員どもだ。
ああ、ちくしょう。
「知らねえよっ! そこをどきやがれ!」
「これ以上、貴様の悪事を見過ごすわけにはいかん! お前たち、この愚息を捕まえろ!」
「や、やめろっ! おい、俺は社長の息子だぞ!」
社員どもがのしかかってくる。
どこで間違ったんだ。
怪我人のフリをして、せっかくるかたんとフレイヤに近づいたのに。
何の問題もなく進んでいた“配信者狩り”は、いったいどこでおかしくなった。
必死に考えていたら、ふと思いついた。
そう、あのフレイヤとかいう聖女キャラの配信者だ。
どうやってかはわからないが、あいつにやられたんだ。
社員の隙間から画面を見ると、呑気に祈ってやがる。
あのクソ配信者がああ! 許さねえっ! 絶対に復讐してやるっ!
怒りと憎悪に焦がれていたら、親父が切り裂くように叫んだ。
「貴様は……我が社からBANだ! いや、家族関係からもBANする! 今すぐ出て行け!」
「な……に……?」
親父の言葉を聞いて背中を嫌な汗が伝う。
会社からBAN……?
家族関係からもBAN……?
な、なんだよそれ。
冗談かと思ったが、親父の顔を見る限りガチのようだ。
「ま、待ってくれよ親父。これはちょっとしたイタズラで……」
「黙れ! 貴様のせいで我が社の評判は最悪だ! 貴様はもう息子とも思わん! お前たち、こいつを警察に引き渡せ!」
「だ、だから、待てって。誤解なんだよっ」
社員に連行され、エレベーターに押し込められる。
下層に向かいながら、自分の計画を思い出す。
俺の作戦は完璧だったろうが。
モンスターに襲われたフリをし、配信者を油断させて狩る。
ヤツらは瀕死のプレイヤーを見ると、必ず手を差し伸べてくる。
そうしないと批判されるからな。
中堅どころの配信者を狩って、いよいよ本命を狙った。
るかたんだ。
ついでに、最近調子に乗っているフレイヤも成敗してやろうとした。
俺はただ、自分より目立っているムカつく配信者を狩って楽しんでいただけなのに……。
「「ほらっ、さっさと歩け! ぼんやりしてんじゃねえ!」」
「うわっ!」
乱暴にビルの外へ押し出された。
季節は真冬。
離れた道路には赤い点滅灯が見える。
そのときになって、ようやく俺は自分の行いを反省した。
こんなことなら、配信者狩りなどしなければ良かった。
――頼む、神様……許してくれ……。
生まれて初めて神に祈ってみるものの何も変わらない。
吹き抜ける寒風に震えながら、パトカーのサイレンを聞きながら、俺はいつまでも立ち尽くすしかなかった。
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