第四章:アカバーンの街

第28話:気になるお話

「るかたんさん、お久しぶりです」

「いやぁ、おひさー! 無事で良かったよー」


 るかたんさんは私の手を握って、ブンブンッ! と力強く振り回します。

 見た目通りの元気なお方ですね。

 神様も驚いてらっしゃいます。


⦅え、マジるかたん?⦆

⦅やばっ……⦆

⦅こんなことあるんかい⦆


 私がテーヒョーカ王国を追放されて最初にお会いした方でした。

 少しばかりの懐かしさを感じていたら、足元のルーリンさんが服をクイクイッと引っ張りました。


『フレイヤ、この人は知り合いフェンか?』

「ああ、ルーリンさんは初めてでしたね。はい、友人のるかたんさんです」

「うわぁ、可愛いワンちゃん……!」

『あ、いや、僕はフェンリルで……別に犬でもいいフェン……』


 るかたんさんに身体をこねくり回され、ルーリンさんはふにゃふにゃになってしまいました。

 お腹を出して寝っ転がっています。


⦅みっともなくてワロタ⦆

⦅プライドのへったくれもないな⦆

⦅まるで犬⦆


「気持ちよさそうですねぇ、ルーリンさん」

「くぅぅん……ハッ! ゴ、ゴホッ! こ、これ以上撫でちゃダメフェン!」


 ルーリンさんはしばらくナデナデを堪能していましたが、咳払いすると険しい顔をしながら立ち上がりました。


「あの、るかたんさん。そういえば、先ほど無事で良かったと仰っていましたが……」

「うん、そのことなんだけど。すぐにフレイヤちゃんに伝えたいことがあるの。まぁ、立話もなんだから近くの街に行きましょう」

「はい」


 歩いて向かうのでしょうか、と思っていたら、るかたんさんは鞄から紫色の丸い石を取り出しました。


「移動は面倒だから【テレポ石】を使うね! 行き先はアカバーンの街!」

「あ、あの、それはいったい……」


 聞く間もなく、るかたんさんは紫の石を砕きます。

 瞬時に、私たちを薄紫色の光が包みました。

 目の前が何も見えなくなった、と思ったら見慣れぬ街に着いていました。

 キチッと区画整理された石畳の道、遠くに見えるお城、騎士のような格好をした人たち、空には魔女……。

 今まで訪れた街とはまた違った雰囲気です。


「あ、あれ……? ここはどこでしょうか……?」

『キカイン・ゲンテでもないし、知らない街だフェン』

「ここはアカバーンの街だよ。さっき砕いたのはテレポートできるアイテムなの」

「『へぇ~』」


 るかたんさんは私たちの知らないことを知っていてすごいですねぇ。

 私も見習わなければ。


「さ、まずはベンチにでも座りましょう。あっちに広場があるから」

「は、はい」


 るかたんさんに連れられて、私たちは街の中心部にあると思われる広場にやってきました。

 噴水前のベンチに座ります。


⦅夢の対面⦆

⦅見ているこっちが緊張するわ⦆

⦅フレイヤたん頑張れ⦆


 神様がいつもより熱を込めて応援してくださっている気がしますが、なぜかはよくわかりませんでした。

 るかたんさんは私の手を握り、真剣な面持ちで話し出します。


「さて、フレイヤちゃんを探していたのは他でもないわ。“配信者狩り”のことよ」

「え……? “ハイシン・シャガリ”……ですか?」

「有名な配信者が何人もBANされてるの。規約違反とか何もしていないのに。ネットだと誰かが狩っているんじゃないかってウワサもあるのよ」

「は、はぁ……」


⦅ああ~、なんかそういうウワサ聞いたことあるわ⦆

⦅そういえば、活動休止するブイ増えたよな⦆

⦅つからんにも魔の手が迫っていたとは。許せん⦆


 “ハイシン・シャガリ”に、ばん……キヤクイハンに、ねっト……るかたんさんは、いったい何をお話しされているのでしょう。

 疑問に思う私を置いて、るかたんさんはお話を続けます。

 

「私の友達も、もう何人もBANされて一緒に遊べなくなっちゃった……引退しなきゃいけない人もいるし……。一Vとして、私はこの状況をどうにかしたい。まずは友達が消えたダンジョンに行こうと思うんだけど、なかなか勇気が出なくて……」


 るかたんさんは柔らかそうな手をギュッと握り締めていました。

 その表情も決して明るくはなく、わからない言葉が多くとも事の深刻さが伝わってきます。 


「私に何かできることはありませんか?」

「え……? 協力してくれるの……?」

「はい、もちろんです。私は聖女ですから。まだまだ見習いですけどね」


 彼女の手を静かに握り締めました。

 困っている人が目の前にいる。

 それだけで私の行動理由は十分です。


「一緒にそのダンジョンへ参りましょう、るかたんさん」

「ありがとう……フレイヤちゃんって……優しいんだね」


 手を握ったままお伝えすると、るかたんさんは小さく笑ってくれました。


⦅はぁはぁ……百合百合しているよ……⦆

⦅これはたまらんな⦆

⦅鼻血が止まらない⦆


 やがて、るかたんさんはきりっとした表情になると、改めて力強く私に言います。


「というわけで、急な話だけどしばらく一緒に行動しない? 仲間が消えた原因を見つけたいの」

「ええ、もちろんです。私ももっと、るかたんさんとお話ししていたいです」

『僕も賛成だフェン』


 祈祷の旅は来るもの拒まず去る者追わず、です。

 また新たなお仲間ができて楽しい気持ちになりますね。


⦅え? なに、コラボ?⦆

⦅神展開来たコレ⦆

⦅るかたんコラボとかマジやべぇし⦆


 新しいメンバーを迎え、神様もざわざわと嬉しそうです。


「じゃあ、さっそくウワサのダンジョンに行きましょうか」

「はい」

『いざ始まるとなると、やっぱり緊張してくるフェンね~』

「大丈夫ですよ、ルーリンさん。私たちがついていますので」


 私たちは冒険者が消えるというダンジョンへ向かうのでした。

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