第22話:ムカつくヤツら(Side:???①)

 いつものように会社の自室でミドルエージ×ファンタジーを遊んでいたら、またムカつく配信者を見つけた。

 すかさず、watashi-tubeをチェックする。

 思った通り生配信中のようだ。

 登録者は38万人。

 動画はほとんどがミドルエージ×ファンタジーの実況動画だ。


「……クソッ! こいつも俺より登録者多いじゃねえか! ああー、BANさせてー!」


 今すぐこの配信者を俺の庭から追い出したい。

 だが、さすがの俺でもそんなことは簡単にできない。

 その代わり、複数アカウントで低評価を押しまくって評判を下げてやる。

 もちろん、コメも荒らしてな。

 まぁ、botに任せているから楽ちんだ。

 動画下のbadボタンが増加していくのを見ていたら、心の中に黒い怒りが湧き上がってきた。


「俺はこのゲームを開発した会社の御曹司だぞ! なんで俺より有名なヤツらがいるんだよ!」


 特注のゲーミングデスクを思いっきり台パンするが気持ちは晴れない。

 親父の会社が作ったこのゲームは傑作だ。

 俺が世界で最初にミドルエージ×ファンタジーで配信を始めた。

 いつからか、人の褌で相撲を取るクソ配信者が増えるようになった。

 マジでいい加減にしろ。

 さらに許し難いことに、会社の規約としてこのゲームを配信することは許可されている。

 俺が社長になったら、クソ配信者どもに高額な使用料を請求してやるぞ。


「ネットのモブどもも同罪だな。俺以外の配信で楽しみやがってよ」


 最近はプレイする度にイライラするようになっちまった。

 以前はぶっちぎりで、俺が登録者第一位だった。

 一番早くアプデの情報も知れるし、ゲーム設計にも携わっているから、各ダンジョンの構造も隅々まで把握している。

 特にムカつくのは……。


「この“るかたん”ってヤツと“フレイヤ”ってヤツだ。人が作ったゲームで好き勝手しやがってよぉ!」


 特に後者は珍しいシスターキャラってことで、謎にチャンネルが急成長中だ。

 考えただけでイライラするな。

 こいつらの配信なんか見る気もしない。

 さて、どうやってぶちのめそうか……と考えていたら、部屋の扉が激しく叩かれた。

 返事をする間もなく誰かが入ってくる。


「おい、顕示! お前の作ったプログラムでまたバグが見つかったぞ! お前も早く修正作業に加われ!  修正班が徹夜になりかねん!」


 ああ、うぜえ。

 親父が来やがった。


「なんだよ、うっせえな! 俺がバグなんか起こすわけないだろ!」

「うるさいとはなんだ! このままじゃ、長時間のメンテが必要かもしれん! ユーザーには迷惑をかけるなと、何度も言っているだろう!」

「だから、バグなんかねえの!」


 親父と激しく罵倒し合う。

 俺は社内一、いや、世界一優秀なプログラマーだ。

 バグが発生したことなど一度もない。

 どうせ、ザコ社員がヘマしたに決まっている。

 ウンザリするぜ。

 この会社には人に罪を擦り付けるクソしかいないんだよな。


「顕示、本当にいい加減にしろ。私の息子ということで大目に見てきたがもう限界だ。社内でもお前の待遇を問題視する声が上がっている」


 ため息交じりに言われ、むしろこっちの方が呆れてしまった。

 本当にいい加減にしろ?

 それはこっちのセリフだよ。


「はぁ? 知らねえよ。カス社員どもなんてどうでもいいね。嫌なら辞めろってんだ」

「顕示! 本気で言っているのか! 我が社は彼らのおかげでここまで成長したんだぞ!」 


 親父が俺の胸ぐらを掴む。

 まったく、このクソ野郎は調子に乗ってやがるな。

 力の差を見せつけてやるか。

 

「だから、うるせえって言ってんだよ!」

「ぐっ……!」


 こめかみを思いっきり殴ってやった。

 体勢を崩したところへすかさず腹蹴り。

 俺は昔から暴力が大好きだった。

 殴るたびに楽しさが倍増する。

 足蹴にしていたら、親父自慢のカス社員たちが駆け寄ってきた。


「「しゃ、社長! 大丈夫ですか!?」」

「さっさとそいつを連れて行け!」

 

 親父を部屋から蹴り出してドアに鍵をかける。

 ったく、ダリいな。

 気を取り直してPCに向かい合うが、やはりこちらでも怒りの感情が湧いてくる。


「……クソッ、なんで俺より有名なヤツがいるんだ」


 ネットにうじゃうじゃと蔓延るモブ配信者ども。

 いつまでもこいつらを野放しにしておくわけにはいかない。

 俺が目立てなくなるだろうが。

 さて、どうする……?

 と、しばし考えた結果、これ以上ない名案が浮かんだ。


「そうだ……BANさせちまえ」


 watashi-tubeから追い出すのは難しいが、ミドルエージ×ファンタジーならどうにかなる。

 俺は運営にも関わっているからな。

 垢バンなんて簡単だ。

 稼ぎ頭のゲームから追放しちまえば、こいつらの人気もダダ下がりだろう。

 よし、さっそくサーバーに入って……というところで、またもや別の名案が浮かんだ。


――ただでBANさせちゃつまんねえなぁ……どうせならその過程も楽しみたいってもんだ。


 このクソどもを使って遊んでやろうじゃねえか。

 どうせならゲームにしちまおう。

 配信者狩りだ。

 お楽しみは最後に取っておくとして、手始めに中堅レベルのクソで試すか。

 俺専用のパスでサーバーにログイン。

 楽しいゲームにするべくプログラムを書き換えていく。

 待ってろ、クソ配信者ども。

 神の鉄槌が下るぜ。

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