第17話:疫病(Side:エンジョー③)
「このトレジャー・カウの霜降り肉はなかなかの旨さだな。たっぷりの脂がたまらん」
「こちらの鈴ベリーもおいしいざんす。酸味と甘味のバランスが素晴らしいざんす」
使用人どもから食糧庫を守ったおかげで、ワシは今まで通りの豪華な食事を食べていた。
テーブルに並ぶのは国内では手に入らないような貴重な食材たち。
その他の食材もテーヒョーカ王国最高峰の物が揃っている。
こんな旨い物、貧乏な庶民どもにわけてやるものか。
「「こ、国王陛下、アンチコメ様……大変でございます……」」
アンチコメと食事を楽しんでいたら、使用人どもがよろよろと食堂に入ってきた。
こいつらは自分たちの食料を国民に分けているらしい。
まったく、よくやるものだな。
そんなことをしたところで自分がひもじい思いをするだけなのに。
「いやぁ、うまいうまい。こっちのガラス・ロブスターの丸焼きも食べ応えがあるぞ」
「ええ、海の恵みが詰まっているようなおいしさざんす」
聞こえないフリをして食事を続ける。
食事の時間を邪魔されるのは大変に腹立たしい。
ワシの楽しみを奪うでない。
しかし、使用人たちは引き下がることなく報告を続ける。
「「お、恐れながら申し上げますが……今度は新種の疫病の発生が報告されました……」」
「さて、そろそろデザートといこうか……なに?」
新種の疫病……だと?
思わず、フルーツの盛り合わせを頬張ろうとしていた手を下ろした。
作物が腐るという知らせのときより、さらに嫌な汗が背中を伝う。
やけに大きな心臓の鼓動を聞いていたら、疲れた様子の片眼鏡が説明し出した。
「どうやら、死に至るほどの毒性はないと思われるのが不幸中の幸いでございます。目下、医術師を各地に派遣しております」
「な、なんだ、死にはしないのか。不安にさせるんじゃない」
「ですが、飢饉と併せて国民たちは疲弊しきっています。日々の生活もままならないようで、助けを求める声が上がっています」
知るか、そんなこと。
自分のことは自分でやれ。
話す気にもならず無視するも、使用人はまだ報告していた。
「そこで王宮を無料宿泊所として開放しようと思うのですが、いかがでしょうか。そうすれば、医術師を派遣する手間もかかりませんので、国民たちの手当てもスムーズに進むかと」
「……は?」
想像もつかないことを言われ理解が追いつかない。
無料宿泊所ってなんだ。
高貴な王宮に庶民どもを住まわせるなどありえない。
しかも、やってくる国民は疫病にかかっている可能性だってあるだろうが。
「王宮だけでなく、修道院も国民たちのために開いた方がよろしいかと……」
唖然としたワシたちを置いて、使用人どもは好き勝手に話し出す。
「そうですよ、国王陛下! 王宮と修道院は広いので、国民たちものんびりと過ごせるはずです!」
「これで民を救えますね! 飢饉と疫病の流行と難題が多いですが、私たちも精一杯頑張りますので!」
「アンチコメ様、今すぐ手配のほどお願いいたします! みな、安らかな休息を求めております!」
だから盛り上がるな!
王宮に国民を住まわせる? 疫病の手当てをする?
ワシは絶対に許さないぞ。
「貴様らはどうしてそんなに開放したがるのだ! 病人なんか王宮に入れるな! ワシにうつるだろ!」
「修道院は絶対に開放しないざんす! 疫病がここでも流行ったらどうするざんすか!」
怒鳴りつけると、使用人どもはようやく静かになった。
初めからそうしていればいいのだ。
こいつらは本当に世話がかかるな。
しかし、食事を再開しようとしたところで、またこの愚か者たちは騒ぎ出すのであった。
「お、お待ちください、国王陛下、アンチコメ様! それではあまりにも非情過ぎます!」
「こういうときこそ一国を率いる者として人々をお導きくださいませ!」
「国民たちの不満もどんどん大きくなってしまいます!」
いい加減にしろおおお!
これもまた先日と同じ展開だ。
一種のデジャウにワシは心底疲れ果てていた。
「ええい、静かにしろ! 王宮はワシの住んでいる場所だ! 庶民どもを入れるわけないだろうが!」
「修道院も祈祷で忙しいざんす! 病人を受け入れる余裕などないざんすよ!」
「「も、申し訳ございません! ですから、物を投げるのはおやめください!」」
アンチコメと一緒に皿やフォークを投げまくる。
怪我するのが嫌だったら今すぐ出て行け。
ひとしきり暴れると、使用人どもは大慌てで逃げていった。
「……はぁ、疲れたな。まったく、あいつら全員クビにしてやろうか。使用人の質も落ちたものだ」
「ええ、ぜひお願いしたいざんす。アテクシのお化粧も落ちてしまうざんす」
食事の最中に疲れるような報告をするとは、一度使用人教育をやり直した方がいいかもしれんな。
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