第8話:人助けならぬ犬助け
しかし、キョロキョロと辺りを見ても見つからないのです。
「いったいどこから……?」
⦅右奥の路地裏⦆
⦅フレイヤたん、キョロキョロでかわよ⦆
⦅この鳴き声はもしかして……⦆
神様の声が聞こえ、右奥の路地を注視します。
なんと、暗がりの中で小さな犬さんがいじめられています!
相手は3人組の男性方。
犬さんを壁に押し付け、取り囲むように立っています。
急いで助けないといけません!
ダダダダッ! と駆けて、悪そうな男性方と犬さんの間に入りました。
「おやめなさい! 嫌がっているでしょう!」
「ああ? 尼さんが何の用だよ。俺たちの邪魔すんじゃねえ」
男性方は私を見ると、眉間に皺を寄せて睨んできました。
初対面なのにこんなに威嚇してくるなんて。
なんと恐ろしい。
いえ、それよりも……。
「今日のお祈りはきちんとしましたか?」
⦅開口一番w⦆
⦅お祈りしたか聞くのはさすがに聖女か⦆
⦅相手どんな気持ちになるんだろう⦆
どうやら、男性方に神様のお言葉は聞こえていないようです。
一瞬キョトンとしたかと思うと、すぐにニヤニヤし出しました。
「はあ? お祈りぃ? おい、お前らお祈りだと。最後にしたのいつだ?」
「「ははは。忘れたよ、んな面倒なもん」」
ヘラヘラ笑う男性方。
お祈りをしていないどころか、面倒などと仰りました。
これはもう見過ごせません。
「毎日のお祈りを怠ってはいけません! 神様はちゃんといるのです!」
「いるわけねえだろ。能天気なこった」
⦅フレイヤたん、ガチギレw⦆
⦅怖い⦆
⦅おいおいおい、スタンガンで滅多打ちにされるぞ?⦆
いくら神様はいると伝えても、男性方はギャハハッと笑います。
ぐぬぬ……不届き者め。
この方たちを改心させるにはどうすればいいのでしょうか。
ぬぐぐ、と悩んでいたら神様の声が。
⦅フレイヤさん、これはサブクエストです⦆
⦅ああ、そういえばそうか⦆
「サブクエスト……でございますか?」
クエストとは何でしょう。
しかもサブ。
神様に聞いて……いや!
お尋ねしようとしたところで、頭を振って邪な考えを振り払いました。
何でもかんでも聞いては失礼です。
自分の頭で考えないと…………そうだ、修練!
これは神様から与えられた最初の試練なのです。
だとしたら、絶対に達成しないといけません。
⦅そいつら倒してください。実績が解除されるし、ボーナスが貰えます⦆
⦅勝ちイベだし大丈夫っしょ⦆
⦅フレイヤたん、念のためステータス見せて⦆
「は、はい、すてーたすオープン」
私の前に青い画面が現れると、途端に男性方の顔が真っ青になりました。
「……は? な、なんだ、そのステータスは……」
「エ、HP7110……だと?」
「そ、その魔法攻撃力はいくつになるんだよ……」
みなさんガクガクブルブルと震えていらっしゃいます。
さっきまでの威勢はどこかへ消えてしまったのでしょう。
⦅ステータスヤベぇw⦆
⦅レベル1じゃねえだろうが⦆
⦅え、バグ? 何があったのw⦆
そして、どうしてかよくわかりませんが、何やら神様たちは大盛り上がりです。
もしかしたら、数字の並びがお気に召したのかもしれません。
⦅フレイヤたん、そいつらぶっ飛ばして⦆
⦅倒せ倒せw⦆
⦅スタンガンお願いしまーすw⦆
「え……倒すのですか?」
あの怪物のときと同じように、またもや神様に倒せと命じられました。
追い払うのではないのですね。
⦅はい、倒してください⦆
⦅やっちまえw⦆
⦅スタンガンおかわり!⦆
やはり、私が彼らを倒すことを神様はご所望のようですが、危害を加えるのは気が引けるのも事実。
……どういたしましょうか。
「お、お前ら落ち着けっ! こんな数字でたらめに決まっている!」
「「そ、そうだ! こんなのあり得ないぜ!」」
「おい! お前を犬の代わりに売っぱらってやる」
男性方は気を取り直したように私を囲みます。
その瞬間、私の頭をいつもの閃光が駆け巡りました。
「そうか! わかりました、神様!」
「「な、なに?」」
この方たちは…………異教徒なんですね!
だから、これほどまでに倒せと仰るのです。
ダンジョンのみならず、人里までも侵食しようとする邪悪な異教徒。
私としたことが……もっと早く気がつくべきでした。
悔しさに硬く拳を握りしめます。
「い、いいか、お前ら。いっせいに攻撃するぞ……」
「えーーーーい!」
「あぎゃぎゃぎゃぎゃっ!」
【すたんがん】を思いっきり、真ん中の男性の喉元に押し付けました。
痙攣したかと思うと、ずどーん! と地面に崩れます。
『う、うそ……たった一撃フェン……! しかも気絶させたフェンよ』
後ろから犬さんの驚きの声が聞こえました。
男性は地面に倒れてピクピク痙攣しています。
やはり、喉元は効き目が良いみたいですね。
「このクソ女! 黙っていればいい気になっ……」
「えい! えい! えーーーーい!」
「「あぎゃぎゃぎゃぎゃっ!」」
男性方が剣を抜こうとしたので、すかさず【すたんがん】で滅多打ちです。
今回も喉元を狙いました。
私はか弱き見習い聖女ですが、こう見えて意外と動きが素早いのです。
教会で毎日雑巾がけをしていた成果が出たのでしょう。
私はまだまだ見習いですが、不届き者及び異教徒には容赦いたしません。
⦅強くて草⦆
⦅容赦なしw⦆
⦅いい物見せてもらいました⦆
「ありがとうございます、神様」
いやぁ、神様に強いと言われてしまいました。
何はともあれ、一度ここから離れた方が良いでしょう。
「大丈夫ですか、犬さん。まずは人通りのある場所に行きましょう」
『は、はい』
犬さんを連れて、表通りへ出てきます。
太陽の下に来ると、その姿がよくわかりました。
くすんだ銀色の体毛に、ガラスのごとく透明感のある目は赤と青の宝石みたいなオッドアイ。
なるほど、確かにこれは悪い人が寄ってくる美麗な見た目です。
「お怪我がなかったようで安心しました」
『あ、あの、本当にありがとうフェンよ。僕はルーリンと言うフェンね。あなたはなんてお名前フェンか?』
「私はフレイヤと申します」
『いい名前フェンねぇ~』
ルーリンと名乗った犬さんは私の身体にスリスリします。
素晴らしいモフモフ具合……はっ!
そんなことよりもお祈りしなければ。
「では、祈祷を始めますね」
『き、祈祷フェンか?』
「はい、あなたの幸せを神様にお祈りいたしますので」
『ちょ、ちょっと待ってフェンよ』
慌てた様子で跪くルーリンさん。
お祈りの姿勢は素晴らしく美しいです。
それこそ、まるで型にはめたかのような。
では、さっそくお祈りしましょう。
「……この世を造りたもう全知全能の神々よ。悪しき者に襲われたこのか弱き子犬に、多大な幸福をお与えください」
私が祈っている間も、ルーリンさんは静かに膝まづいています。
これぞ敬虐なお祈りというもの。
ああ、なんて素晴らしい……。
「私たちも神様の御加護に背かぬよう、精一杯努力してまいります……ワロタ」
『ワ、ワロタ』
さて、お祈りも済みましたね。
「では、私はこれにて失礼いたします。祈祷を届けないと……他にも困っている方がいるかもしれませんので」
『ま、待ってフェ……足早すぎフェンっ!』
異教徒を追い払い、犬助けもできて気分が良いです。
ルーリンさんが後を追いかけてくるような気がしますが、見習い聖女に休んでいる暇はありません。
さあ、待っていてください、世界中の困っている方々。
今すぐ祈祷を届けに参ります!
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