レベル1のヒロインが強すぎる
仲仁へび(旧:離久)
レベル1のヒロインが強すぎる
「あなたをこれから別の世界へと転生させます。よろしいですね」
俺は神様っぽい人を前にして頷いた。
天寿を全うした俺は、神様の手によって第二の生を歩む事になった。
自分の一生に悔いはない。
家族にも恵まれたし、後にひくような後悔を残したわけでもない。
だから、転生してもやる事はないし、最初は断ろうかと思っていたが……。
「若者の手助けはしてやりたいな」という一つだけ未練があった。
何十年も前。
勤めていた会社で最初に部下を持った時、うまく仕事を教える事ができずに後悔していたのだ。
それが初恋の人だと思えばなおさら。
しかも、その人は、別の会社に転職してしまっていた。
原因は分からないけれど、自分のせいかもと思うと、ちょっと後悔してしまうのだ。
だから、その未練をなくしたかった。
というわけで、第二の人生では人材育成に力を入れてみようと思ったのだが。
転生先は、前世でやっていたゲームの世界だった。
「ゲームの世界に転生、だなんてそんなファンタジーな」
若い頃はそういった創作ものは、一応嗜んでいたが、実際にそんなものが本当にあるのかと驚いてしまった。
そういうわけで生まれ変わった俺は、恥ずかしい事に赤ん坊から人生を生きなおす事に。
そのつたない足取りは黒歴史になりかねないので、詳細省略。
ちゃちゃっと時間をすすめていく。
それで、自分で喋ったり動けるようになった後は、住んでいる小さな町をうろうろ。
色々な人達のお手伝い&人材育成にはげんだ。
その後は、冒険者になって町を出る事にした。
話はそれるが、俺の育った地域には、占い師という人がいる。
占い師は、人の素質を調べてくれる人なんだが。
俺には特別な才能がないと言ったのだ。
ちょっとがっかりしてしまった。
しかし、特別な才能があったらあったで、それも面倒だしと思い直す。
才能がないなら、好きに生きよう。
という事で、あちこち行けそうな冒険者になる事にしたのだ。
せかっく異世界に転生したんだから、ファンタジー世界を思う存分堪能したい、というのもあるが大きな理由は別。
それはヒロインと出会うためだ。
そのゲームの事は、前世でやっていたため、よく知っている。
若い頃の記憶だから内容はうろ覚えだが、ヒロインの事情が強烈だった。
物語の中で彼女は、自分の力がない事で仲間をなくし、大切な人をなくしてしまう。
だから、そんな彼女の存在に思い至り、現実にいるなら助けてやりたいと思ったのだ。
あとは、初恋の人に似ているから、とかかな。
そうだ、それがきっかけでゲームをプレイしたんだった。
懐かしい思い出だな。
というわけで、冒険者として活動する事になった駆け出しの俺は、同じく冒険者なりたてのヒロイン(セラ)と知り合う事ができた。
「よかったら、一緒にパーティーを組まないか?」
「いいんですか? ありがとうございます! 女性の、それもレベル1の冒険者だと、なめられてしまってなかなかパーティーを組んでくれる人が見つからなかったんです」
ヒロインは記憶にある通りの女の子だった。
礼儀正しくて、しっかりした女の子。
実際に接してみると、忘れていた記憶が色々と蘇ってくる。
たしか今は、原作開始前の時期。
ヒロインが一人で活動している頃だ。
だから、ヒロインのレベル上げにでも貢献しようかと思い、パーティーを組んだのだが……。
なぜかヒロインのレベルが上がらない。
「おかしいな。どうしてだろう?」
「変ですね。レベル表記がぜんぜん変わりません」
レベル1のまま、ちっとも上がらなかった。
それなのに、ヒロインはどんどん強くなっていく。
ステータスの攻撃力とか防御力は上昇していくのだ。
それを証明するように、
「あ、ギガモンスターだ! 危ないからここは一時撤退をするべ(ヒロインがすっと前に出る)」
「えいっ」
グギャアアア!
ヒロインが持っていた武器をふるった。
その一撃で、モンスターをあっさりと倒してしまっている。
あれって、通常よりも強い個体なのに。
念のため確認してみるが、やはりヒロインのレベルは1のまま。
一体どういう事なんだ?
私は駆け出しの冒険者セラ。
冒険者登録をしてまだまもないヒヨコです。
だからなのか、なかなかパーティーを組んでくれる人がいません。
早く強くなって、困っている多くの人達を助けたいのに。
生まれ育った村の占い師さんには、「冒険者になって多くの人を助ける才能がある」と言ってもらえたんですけど。
どんな才能も、育てなければ意味がありません。
でも、そんな私に声をかけてくれる人がいました。
エンドゥさんと言う方です。
私よりも数日冒険者になるのが早かったらしく、活動もすでにいくつかしていたみたいです。
だから、色々な事を教えてもらえました。
そんなエンドゥさんは優しい方ですから、冒険者に似合わないなと思いました。
依頼じゃなくても、困っている人の為に、必要な素材を採ってきてあげたり、モンスターを退治してあげているんですから。
そんなエンドゥさんには特別な素質はないみたいです。
生まれ育った町で、占い師さんにみてもらった時も、「ごくごく平凡な人間になるだろう」と言われたみたいです。
その事をエンドゥさんは自嘲しながら教えてくださいましたけど。
でも、何の素質がないわけではないと思います。
エンドゥさんは、すごく博識ですし、人にものを教えるのが上手です。
だからきっと、英雄とかすごい人にはなれなくても、その育て親にはなれる素質があると思うんです。
私は、そんなエンドゥさんみたいな冒険者になりたいな。
――特殊加護 非力強者を入手しました。
――特殊加護 弱肉救済を入手しました。
非力強者の効果 自分を非力だと思う期間が長いほど、ステータスの向上率が上昇。
弱肉救済の効果 弱者が弱者を救済するほど、ステータスが向上。ただし、上昇率が大きすぎる場合、ステータス表記が故障。
クエストを消化した後、食事屋で食事をしながら俺はヒロインに今後の事を尋ねてみた。
原作と違う事があると、どんな影響があるか分からないからな。
さりげなくチェックしておかないと。
「セラさんには何か夢とか目標とかは?」
「ありますよ。エンドゥさんみたいな、誰かを支えられる立派な冒険者になる事です」
「俺を目標としてちゃだめだよ。君はもっと強くなれるんだから」
「お世辞でも嬉しいです。でも、現実は知っていますから。地道に頑張っていきますね。ありがとうございますエンドゥさん」
「お世辞なんかじゃないんだけどな」
レベル1のヒロインが強すぎる 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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