研究員の論争

トクサの処置によって冷静さを取り戻した桜小路アマリリス。

とりあえずはトクサと朝比奈ミネルヴァは桜小路アマリリスの部屋から退出された。

改めて研究員たちがトクサの情報を得た桜小路アマリリスに話を聞くことにする。


別の部屋へと移動し特殊ガラスの奥へと入れられた桜小路アマリリス。


「記憶を整理しました、…この男、トクサは端的に言えば、遥か未来から来たみたいです、正確に言えば…約300年後です」

その部屋の中で彼女はゆっくりとトクサの情報を研究員たちに話していく。


そして予想外の言葉に研究員たちは一度その言葉を頭に叩き込んだ後にゆっくりと彼女の方に視線を向けて聞き間違いであるかどうか確認するように聞いた。



「3びゃ…なんだって?」


研究員たちのその表情を桜小路アマリリスはゆっくりと頭を縦に振って肯定して見せた。

そして彼女は再び話を始める。



「未来では既に魔人の手によって全人類は滅亡しました、彼は、聖女製造技術を利用した『最終人類ピリオド』と呼ばれる対魔攻式戦群リジェクトメイトです。」


トクサの情報。

トクサが体験した記憶。

トクサの視界に映ったもの全て。

それら全てが桜小路アマリリスが体験したように情報として取り込まれている。

そして研究員の一人が彼女の言った言葉に対して疑問を覚えた。

そしてその疑問は1つの余念を生み出し背筋を凍らせる。



対魔攻式戦群リジェクトメイト…いや、その名前はまだ、公式に発表されていない筈だ」


研究員の一人は聖女製造に携わる人間でありながら政府との関係を持つ上層部の一人でもある。

彼の中にある情報は他の研究員とは違い他の人間に伝えることはできない秘匿の情報を所持している。



「何か知っているのですか?」


研究員の一人が拳を顎に添えて考え事をしている上層部の研究員に対してそのように伺った。

この情報を口にするかどうか迷ったが最終的には情報共有として上層部の研究員が持っている情報を他の研究員たちに話し出す。


対魔攻式戦群リジェクトメイトは聖女の技術を応用して作られる魔人掃討部隊、または、試験に合格した人間に与えられる武器を所持が許可される、特殊部隊の名前だ、…正式な名称は未だ無く、対魔攻式戦群リジェクトメイトは仮名として扱われていた筈なのだが…」


本来その情報は上層部と一部の政府の人間しか知らないことだ。

軍事に関わる一部の人間にもこの情報は話されており鍛え抜かれた精鋭の軍人がすでにこの舞台に入るべく過酷な訓練を体験してると思う聞いている。

本来ならば他の人間に知られることはない秘密の話だった。

だがトクサがそのことを知っているということは少なくとも何らかの方法で情報を得たか。


「そもそも、この部隊は先程も言った様に正式に発表されていない、聖女製造の技術を応用し、武器を製造するのが目的であり、実際に運用するには数年先、その間で魔人と戦える人間を作る筈だったのだが…」


対魔攻式戦群リジェクトメイトとは、聖女製造技術を応用し人体に魔力機構を植え付けなくとも武器として所有することで魔神に対抗することができる人間たちを集めた部隊だ。


「…トクサは、対魔攻式戦群リジェクトメイトの生き残りであり、研究員によって、肉体に聖女製造技術を移植された人間です」


桜小路アマリリスはそのように研究員たちに言った。

その言葉を聞いた研究員たちは彼女の得た情報を一度持って帰り彼らは会議室にて一息つくとともに話し出す。

トクサの情報が載った資料を確認しながら彼らは話を始めた。


「この男の肉体、技術を見れば、遥か未来からやって来たと言われれば、納得は出来る…だが、一体どうやって、この男は未来から過去へと?」


疑問を口にする研究員。

部屋にあらかじめ置かれていたドリンクバーにマグカップを使用してコーヒーを入れる。

他の研究員はテーブルの上に置かれたクッキーを手に取った。

包装紙を破いて、一口でクッキーを頬張った。


「いや、それ以上に、人類は敗北した、この男から得られた情報を確認すれば、それは確定的だ」


ショックの大きい研究員ははるか先の未来では人類がすでに滅亡していることを知り半ば自棄になりながら喋り出す。

人類のために活動している彼らが人類はすでに敗北している事を知ってしまえば、自分らの行いが全て無駄であると思ったのだろう。


「だが…もしもこの男がやって来た理由が、人類の敗北を覆したとすれば…我々は魔人に勝てるのでは?」


しかし彼らがそれを知ることができたのはトクサがこの世界へとやってきたためだ。

トクサがいれば彼らの人類の敗北その歴史が覆ることになるかもしれないとそう思っている。

なぜならばトクサという存在がこの未来の歴史を知っている。

その敗北に繋がる歴史を抹消することができれば人類は必然的に勝利へつながることになるのだ。

そのような安直な考えに対してしかし、他の研究員たちはそう簡単にはいかないと首を横に振りながら話し出す。


「例えそうだとして…パラドクスは発動するのではないのか?未来から過去へやって来たと言う事は、親殺しのパラドクスになるのでは?」


それは簡単な思考実験だった。

タイムマシンが開発された場合自分がそのタイムマシンに乗り過去へと戻り自分を産んだ親の前へと行きその親を殺したとして自分という存在は親が死んでしまったことにより存在しなかったことになる。だとすれば親を殺したのは一体誰になるのだろうかというものだ。

自分がすでに存在しない。自分が親を殺したことで自分は存在しなくなるのだがそうなると自分が存在しなくなることで親を殺した人物は消えてしまう。

であれば一体誰が親を殺したのかであれば一体誰が自分を産んだのか。

明らかな矛盾それこそが親殺しのパラドックスであった。


「いいや、根本的に考えて、未来から過去にやってくるのは考え難い、時間と言う概念は人類が造った事象だ、それである以上、過去も未来も存在はしない」


研究員の一人がそう言った。

時間という概念は人類が作ったものでありそれが他の世界に関与してるとは思えない。

だからこの世界に過去も未来も存在しないと研究員はそう持論を持っていた。

とすれば他の研究員が別の可能性を提示する。


「であれば…平行世界からの移動でしょうか?彼が居た世界がA線であり、我々の居る世界がB線、何かしらの能力を使用して、A線に居た彼がB線へと移動した、と」


研究者の話し合いは激しくなっていた。

だが、その内一人の男が声を漏らして彼らの会話を端から切断する。

それは、この会話は今はしなくても良い。

だが、それ以上に必要な事があるだろうと。



「…不毛な論争だ、意味の無い時間を使う、シンプルに考えよう、トクサ、この男は味方であるかどうか、だが…」


珈琲を入れたカップをテーブルの上に置く。

多くの研究者たちがその事に対して話し合い、そして研究者たちは彼が味方であるかどうかを聞き、即座に決定された。



「現状では、人類を救う為に活動をしている、更に桜小路アマリリスの脳裏にてその素性は発覚された、これにより…トクサは味方である事を認めよう」


研究員は、トクサの存在を認可した。

桜小路アマリリスの情報を確認して、それがすべて真実であると。

そして、それが論争に値する多くの情報であるが、それを差し置いて先ずは、トクサが味方である事を認めるのであった。

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