テレパス

「みろ…何を、何を見れば良いの?」


意識を失っている彼女は項垂れながら聞いている。

研究員たちは、特殊ガラス加工の窓を開くと、其処にトクサを近づける。


「この男が何者かを確認してくれ」


その言葉に、桜小路アマリリスはゆっくりと体を起こすと歩き出す。

そして、トクサに向けて手を伸ばして、彼の体に細い指先を触れる。


「魔力起動・第二階位levelⅡ解号コード魂の解読ソウル・アナリシス』」


トクサに接触した事で、彼女の脳内には、トクサの肉体、記憶が桜小路アマリリスの中へと取り込まれていく。


「彼女は精神感応テレパシー能力を持つ聖女だ、彼女に触れられればすべてが丸わかりだ」


桜小路アマリリスは目を瞑り、空を仰ぐ。

眉が段々と寄っていき、気持ち悪そうな表情へと変貌すると、桜小路アマリリスは小さく呟いている。


「なに、これ…なんで、こんな傷を、何をしたら、こんなに手術を?…嘘、そんなの、こんな、こんな人間が居る筈が無い…あぐぁッ!!」


手を離し、桜小路アマリリスは自らの頭を押さえる。

ベッドへと近づき体を沈み込ませて、痛みを訴え続ける。


「はぁッはッ!おかしいッ!トクサ、貴方、可笑しいわッ!どうしてそこまで、そんなになるまでッ!ああああッ!なんで、こんなッ」


タブレットを見ていた研究員は慌てだす。


「精神状態、レッドですッ」

「何故だ、一体、何を見せられたんだ!?取り合えず精神安定ガスを投入しろ!」


研究員が叫んだと同時、トクサは自らの体を巻き付けた拘束を、自らの力で無理やり解いた。

布や革が破れる音、金属が金切り声を上げる。

トクサは口元の猿轡を五指で掴んで引っ張り外すと共に、桜小路アマリリスの方へと近づく。


「拘束を強制的にッ」

「(拘束など、その気になれば意味など無いと言う事かッ!)」


桜小路アマリリスの方へ近づき、トクサは特殊ガラスを指先一つ、触れるだけで破壊した。

硝子の砕ける音が響く、破片が周囲に飛び散り、研究員たちは表情を蒼褪める。


「クソッ!精神安定ガスじゃないッ!暴動制圧用のガスを使用しろ!!」

「それでは我々も危険ですッ!」

「あの男を野放しにする方が余程危険だろうが!」


トクサは振り向く。

そして研究員たちに告げる。


「ガスは止めて欲しい、俺はともかく、貴方たちが危険だ」


そう言って桜小路アマリリスに近づくと、トクサは頭を押さえる桜小路アマリリスの手首を掴んだ。


「悪かった、嫌な所を見たんだな、俺にとっては、それら全部、悪い記憶じゃなかったから…」


「はぁ…はッ!…はあッ」


トクサの手が光り出す。

彼の発する光は、桜小路アマリリスの頭部に触れた。

彼女の表情は嶮しい風貌から次第に安らぎへと変わっていく。


「取り敢えず応急処置だ、精神を強制的に安定させる光だよ」


桜小路アマリリスに向けて言う。

その光を当てられた彼女は呼吸を整えていく。

朝日奈ミネルヴァは、トクサの力に対して聞いた。


「なんなんですか、その光は…」


「別に怪しい奴じゃない、太陽の光を浴びると自律神経が整うと言うだろ?光を浴びる事で体内の神経を活性させたり、リラックス効果を生むセロトニンが分泌されているんだ、…まあつまる話が精神を安らぎを与える、自然経由の精神安定剤みたいなもんだよ、さっきの話は、まあ例えで、実際はまた、別物だけどさ」


トクサは再び桜小路アマリリスの方を見た。

段々と、彼女の様子が落ち着いているのが見て分かった。

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