『魔人圧倒』
「すぐに避難シェルターへ急げ!」
「彼はどうするんですか!?」
「危ないから一緒に連れて来ましょう!」
「彼自体が危険な存在だったらどうするんですか!!」
慌てる様に言い出す研究者たち。
朝日奈ミネルヴァから離れるトクサは、自らの心臓に拳を叩き付ける。
「時間は俺が稼ぐ、だから、皆は逃げてくれ、俺が絶対に食い止めて見せる」
「何を言っているのですか、貴方は」
そう言ったが、朝日奈ミネルヴァは、トクサの能力を知っている。
彼の魔力機構が、どれ程優れているか理解していた。
「この魔人との戦いで、俺は死ぬかも知れない、だけど、これだけは覚えて欲しい、何があろうとも、俺は人類の味方だ、貴方たちをどうか、守らせて欲しい」
研究者たちにそう告げると共に、トクサは自らの胸に埋め込まれた魔力機構に語り掛ける。
「さあ出番だ、
歯を食い縛る。
そして、部屋中に響き渡る程に大きな声で叫び出す。
「装甲ォ!!」
魔力機構に向けて、拳で胸元を叩き付ける。
体中にミミズの様な太い脈が浮かび上がると、トクサは激痛を受けて声を荒げる。
「呀、呀呀呀ッ!!」
殺意と敵意と戦意を胸に、肉体は鋼で覆われ鎧と成す。
「行くぜ…ぶち殺してやるよッ…魔人がァあ!!!」
「待って下さッ」
そうして、トクサは地面を蹴ると共に壁に向けて突っ走る。
腕を振り上げて、壁に向けて叩き付けると共に、鋼鉄で出来た壁は一撃で破壊されて通路へと飛び出る。
「一直線で駆けてやる、待ってろ、魔人ッ!!」
「え、えええッ」
朝日奈ミネルヴァは驚愕を隠せない。
流石の彼女でも、魔力機構を使用して聖女形態になったとしても、単純な身体能力だけで壁は壊せない。
故に、トクサの魔力機構のデタラメさが良く分かる。
トクサにとっては邪魔は草を抜く様に、邪魔な壁を破壊したに過ぎないのだからだ。
聖霊塔。
此処は、聖女を製造する工場にして、聖女の肉体に植えられた魔力機構を制御する聖女専門の病院でもある。
多くの聖女候補の候補生が日夜勉強と訓練をしている教育機関でもあり、人類が魔人に抵抗する要の一つでもある。
だが人類のボーダーラインは、この日、大量のレベル4の魔人が投入されると共に崩壊する。
本来の正史では、魔人はこの聖霊塔へと侵入し、聖霊塔を乗っ取り、聖女や候補生たちを襲い苗床と化す、聖霊塔は魔人たちの巣窟になる、筈だった。
「人類に一体何をしているんだ魔人ども」
トクサは、魔人に憎しみを抱きながら言い放つ。
その言葉を受けた魔人は恐怖に体を震わせた。
聖霊塔の職員に向けて攻撃を開始しようとする魔人。
レベル4である魔人は、言語能力をよく理解している。
手足があり、全身真っ白な体、爪や髪、目や歯が黒色。
その姿は人間に近い形態をしていた。
「なんだお前は同胞か」
魔人は、トクサの姿を見て同じ魔人かと思った。
だがその言葉に、トクサは殺意を向けながら否定する。
「俺がお前らと同じなわけないだろうがッ!俺はァ人間だァ!!」
背中から光臨が発生する。
後光の様に光輝くと、五指を魔人の方に向ける。
後光はレーザーとして魔人を狙い出す。
指先からは光線弾が絶え間なく打ち込まれる。
魔人の肉体は光線の嵐雨によって肉体を打ち抜かれる。
「何だこいつはどうしてこんなに我々の匂いがするッ!?」
「どうしてこんなにも上位種が存在するんだッ!」
トクサの体から臭って来る未知なるレベルの臭い。
魔人たちは、その臭いに反応して恐怖を抱いている。
「お前らの話なんざァどうでもいいんだよッ!!ただ人類のために全員死に晒せやァああ!!」
魔人の一体がレーザー光線を掻い潜り、トクサへと接近する。
「PS!FW('NN%(」
魔人特有の言語が口元から漏れだす。
トクサに向けて、魔人は掌から黒色の触手を伸ばす。
それは軟体生物の様に蠢くが、即座に形状を固定し、刀身の様に伸びた。
トクサの肉体を突き刺そうとするが、トクサは攻撃を回避しない。
「な、ぜッ!?」
トクサは装甲の籠手部分、主に肘部分からブレード状の光線を噴き出すと共に、魔人に向けて振るう。
格闘技のエルボーの様に腕を折り肘で魔人に振るうと、魔人はその一撃で肉体を真っ二つにされた。
「これがさっきスピーカーで言っていた魔人のレベル4か…まさか、テメェら、弱くなってねえか?」
いや違う。
トクサが単純に強すぎる。
聖霊塔へと内部侵入して来た魔人たちは、トクサの圧倒的強さに恐怖を覚える。
「まあ、良いか…弱くても、別によ、…人類の繁栄を脅かすのなら、てめえはここで粉微塵になりやがれッ!!」
レベル4相当の魔人に向けて言い放つと共に、トクサは圧倒的力で蹂躙していく。
この日、聖女の住処は乗っ取られる運命にあった。
だが、それが覆される事となる。
壊れた聖霊塔の壁から入り込んで来る女性の姿があった。
ツインテールをした彼女は、短めなスカートと黒色の二―ソックスを履いている。
瓦礫の山を歩きながら、土埃を掌で払いながら、彼女は言う。
「ちょっと、これは一体どういう事?」
彼女は鋭い視線で周囲を見回す。
そして、トクサの方に目を向けた。
「どうして魔人と魔人が殺し合ってたの?」
不思議そうにするツインテールの少女。
トクサは、肉体に装着した鎧を解除する。
液体の様にドロドロとなる鎧は地面に落ちると共に蒸発する。
「…君は、一体」
テンションが落ち着いてきたトクサは彼女に質問をした。
「私達が誰か、なんてのはどうでもいいわ、とりあえずはこの正体不明の魔人を処分しないとね」
だが、彼女は彼の質問を無視した。
そして、トクサに向けて彼女は指を向ける。
指先から何か、光の様なものが溢れ出した。
「ちょっと待ってくれ俺は別に」
敵ではないと告げようとした時。
トクサの間に割って入るのは、ミネルヴァだった。
「待ってください、このお方は違います、カノさん」
ツインテールの女を愛称で呼ぶミネルヴァ。
すると彼女は指を下ろして、ミネルヴァに聞いた。
「ミネ子、こいつは一体何なの?」
そしてツインテールの女もまた彼女のことを愛称で呼び出した。
どうやら2人は知り合いであるらしい。
「この人は、…私たちの、人類の味方です」
そして彼女はトクサのことをどうやって呼ぶのか考えた結果そのように呼んだ。
その時点でトクサは人類にとっての味方であると、を少なくとも彼女はそう思っていた。
「ご紹介いたします彼女たちは聖霊塔に所属している聖女です」
そして朝日奈ミネルヴァはトクサの方に顔を向けると手でツインテールの女を刺した。
ツインテールの女は朝日奈ミネルヴァからそう言われた以上は名乗らないわけにはいかず渋々とトクサに向けて挨拶をするのだった。
「
彼女はトクサに名前を尋ねる。トクサは彼女に向けて自らの名前を口にするが少し言い淀んだ。
「俺はトクサ、…苗字は特に無いな」
トクサの名前は幼い頃からその名前で決まっていた。その名前の意味合いはトクサは知っているがそれを語ることは少なくとも今の状況ではしなかった。
「ねえ、ミネ子、こいつは一体何者なの?」
自己紹介を終えた彼女はトクサの方に指をさしながらそう聞いた。
「えっと…このお方は、唯一、私達と同じ魔力機構を移植した、聖女…と同じ人間ですね」
朝日奈ミネルヴァはトクサがどのような存在であるか言い表そうとした時。
少し考えて、考えた結果そういうほかなかった。
「はあ!?男の分際で!?」
トクサの説明を聞いて彼女は驚いていた。
それもそうだろう彼方が持っている魔力機構というものは基本的に女性にしか移植されないのだから。
ゆっくりとトクサの方に近づくと頭の先からつま先までジロジロとトクサを舐め回すように見る。
そして彼女は口を尖らせた。
「納得行かないわ、調査はどうなってるの?」
白いわ彼女の言葉に聞いて首を左右に振った。
「まだ、未確定が多くて」
そう言うと彼女はトクサの方に人差し指を立てるとからの胸元に人差し指で突っつく。
「なら私が確かめてあげる、トクサ、ちょっと面を貸しなさいよ」
そうしていつのまにかトクサと彼女の対戦が決定するのだった。
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