■ Ln02 ■ 枝話:高無彰子 Ⅱ
「ぬ、抜けた……!」
紆余曲折と試行錯誤を重ねること数十回。
初めて、ようやく『凍死お茶会』をアーチェが生きて越えた瞬間、なんだろう、喜びよりも思わず力が抜けてしまった。
いや、どうやってもこんなの普通にやってて気がつくはずがないよ。
「おめでとう彰ちゃん、お疲れ様」
カシュッと開いた
「ありがとーマコちゃん」
命の水とばかりにそれをグビッといく。くはぁ、五臓六腑に染み渡るぜ。
「で、何が原因だったの?」
自分も発泡酒を空けながら夫がそう問うてくるけど、
「ん、『凍死お茶会』前にアーチェが金策に走るとどうやら死ぬっぽい」
まさかそれが原因とは思わないじゃんか。どこをどう見てもアイズと関係なさそうな要素なのに。
『この手に貴方の輝きを』の本編において皆がまずやることはプレイアブルキャラの生存確認、その為の旅費を捻出するべく金策に走ることだ。
なにせプレイアブルが二人以上死んでたら再走した方がいいってのが本編のゲームバランスだからね。当然主人公が変わっても慣れたプレイヤーなら皆同じ事をやる。
「まさか手持ちの所持金をゼロから銅貨一枚すら増やしちゃ駄目なんて思わないじゃん?」
一応初心者もいるにはいるけど、初心者だって所持金ゼロは流石に不安になるから多少はお金を手に入れておこうって行動する。
だけどこのアーチェ、冒険者もどきをしようとしてもチートなしだ。ごく普通の五歳児が魔獣退治に挑んだら、まあ死ぬわな。
普通の五歳児がお金を稼ぐには――貴族だから家のものを売ればいいんだから、一見するとそこは楽なんだけどさ。
「普通家の倉庫に眠ってるアイテムを売っちゃ駄目とか思わないじゃん?」
アイズに殺される引金がそんなところにあるとか分かる人普通いないよ。育成期間の三年間を一切金策に走らないプレイとか普通考えもしないし。
それにRPG的に考えれば他人の家のタンスから出てきた薬草はプレーヤーのもんじゃん?
それがなに? 自分の家から入手したものを売ってすらアウトって、なにそれゲーマー殺しの罠じゃんか。
「え、なんでそれで駄目になるの?」
当然のように夫も軽く目を見張るけど、ゲーマーならそれ疑問にも思わない行為だもんなぁ。
「テキストからの予想だけど、家の物を当主の許可無く売り払って私腹を肥やすの、アイズから見ると不正になるからだと思う」
「……厳しい子供だね、アイズ君」
うん、私もそう思う。だって氷の剃刀だし。
でもその後のアーチェとの会話から察するに、それやっちゃうとアーチェの悪人度が上昇して反射的魔術行使の威力も上がっちゃうみたいで。
実際今回のプレイではアーチェは脚を凍らせられただけでお茶会から生存してのけたし、だから原因はそれで間違いないと思う。
……やってくれたなぁ、シナリオ担当愉悦部よぉ! すっかり裏をかかれちまったじゃないかよ。
私たちの阿鼻叫喚が楽しいか? ここ二ヶ月は笑いが止まらなかっただろうよ、えぇ?
「何にせよこれでゲームが先に進むわ。ほんっと、疲れたぁー」
ひとまずここではアーチェの生存を喜んでいた私ではあったが――
「アーチェて
先に進めたシナリオで我ながらあっさり手の平クルーしたけどそこは許して欲しい。というか許せるはずがない!
姉の立場を利用して私のアイズ少年に抱きついてる身の程を弁えぬクソアーチェは絶対に死なす。
ざっけんなテメェそこを替われ、貴様みたいな貧弱モブ小娘がこれ見よがしに見せつけやがってよぉ……
「この食む太郎……こんな屈辱は初めてだ……憶えてろ……きさま……憶えてろよ」
お前みたいな! なんの力もチートもねぇ! クソザコナメクジが!
ただ姉だってだけでショタアイズとイチャイチャしてんじゃねぇ!!
「彰ちゃんが散々死なせた後じゃないか……」
「それはそれ! これはこれ!」
貴様ぁアーチェェエ! 生まれてきたことを後悔させてやるわ。滂沱しながら苦しみのたうち回って血の池へ沈め!
まぁ私がやらなくてもシナリオ担当愉悦部によって今後何回も貴様は死ぬんだろうがな!
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