■ 08 ■ 弟の経歴 Ⅱ




「うちにくる前は男爵家の養子かぁ」


 小卓上に置かれている、お父様から譲り受けたアイズの経歴に目を通し、小さく呻く。

 生まれは庶民の息子だったらしいけど、アイズが六歳の野盗に襲われて家族は全滅。


 野盗は魔術でアイズが返り討ちにしたそうで、その才を買われて男爵家の養子になったけど、そこには馴染めずお父様が引き取ったらしい。

 要点だけ纏めるとそこまで問題ないように見えるんだけど。


「家族も氷付けのズタズタねぇ」


 うん、庶民時代の事件を現場検証した者によると、


「家族も野盗も一緒くたに破壊した形跡がある」


 だそうでほらぁ! 一気にきな臭くなってくるよ!


 なにせ検死技術なんてない世界である。

 とあらば一度死体が冷え切ってしまったら『野盗とアイズ、どちらが先にアイズの家族を殺したのか』が分からないのだ。


 一応当人の証言によると、自分は一人外出している間に野盗が襲ってきて家族を虐殺。

 外出から帰ってきたら野盗と鉢合わせして、無我夢中で魔術を使ったとのことだけど……万が一にも家族がまだ息があるって思わなかったのかな。


 加えて男爵家が持て余した理由。これが『義理の父親に向けて魔術を行使した』からだそうで、わお、そりゃ持て余すというか処刑するわな。

 とまあ爵位簒奪未遂容疑であわや打ち首ってところをお父様が上手いこと貰い受けてきたらしい。


 お父様の見立てでは男爵への関与は事故の可能性が高く、男爵が勝手にそれを反逆だ恩知らずだって殺そうとしたとのことらしいけど……よく引き取ったねぇ、お父様。

 お父様はあれかな、アイズと顔合わせないから問題ないと判断したか。

 それとも現神降臨の儀を経ずしてそれだけの魔術行使が可能って長所が性格を補って有り余るからか。


 お父様からすれば自分の言うこと聞いて、かつ強ければそれでいいんだろうけど。

 付け加えるなら他人を攻撃する事に抵抗がなければなおよし。となるとがっつりアイズが条件にハマるわけか。やな話だよ。


 私を見る目とかも完全に冷凍マグロにでも向けるような冷たさだし。

 あ、でもウチに馴染む気ないなら私がこの家潰すのも邪魔しないかな? それはそれで有りのような気がするわ。このまま放置もありかぁ?


「……いや、拙いわ」


 このままだとお父様の言うこと聞くのが常態化してしまう。

 常態化された行動に思考は差し挟まれないから、命じられればアイズは機械的に私を排除しかねない。


 くぅっ、辛いわ。

 時間は私の敵ねこれ。


「メイ、あの氷の剃刀と仲良くする方法ない?」

「氷の剃刀とは言い得て妙でございますね」


 そりゃまあ、プレーヤー全員の総意だからね。

 しかもこいつの攻略難度がバカ高いの、毎回毎回氷の剃刀になる理由が全然違うってのもあるし。

 こいつルートに入る場合、何度も何度も顔合わせて少しずつこの塩対応剃刀から情報を引き出していって、穴空きだらけのパズルからこいつの過去を推理して心を溶かしていかないといけない……って何でここだけ推理ゲーになってんのよ。やっぱりこれ乙女ゲーに分類するの間違ってない?


「やはり時間をかけるしかないのではないでしょうか」

「やっぱりー? 事を急ぐと元も子もなくしますよ、閣下」

「誰が閣下なのでしょう」

「流して。急ぐの枕詞だから」


 因みにアイズルートでRTA走る人はいないよ。マジで好感度上げてプレイアブル化パーティーインするの時間かかるんだもん。

 なにせこいつの好感度上げ時間削ったほうが攻略速くなるんで他ルートでも最終戦メンバーからほぼハブられるし。


 クソ強いし魔王ラスボス戦がかなり安定するから初心者は絶対入れるべきなんだけどね。

 仲間にするだけなら好感度そこそこ上げれば塩対応のままだけどついて来てくれるし。


 ……あれ、よく考えたら何でこいつ二部で主人公に協力してくれるんだろう。

 他のキャラと違っていくら好感度上げてもアイズルートに入らない限り主人公に対して最後まで距離があるのに。


 ツンデレ、はショタ担当ダートの属性だし……魔族が憎いみたいな描写もなかったし、バトルマニアでもないし。


 特に理由はないのかなぁ。

 理由無く周囲に促されて流されるままってのもこいつの場合ありそうだし。


 あーもー、これだから根暗は嫌なんだよ。

 やはり理想はアルバート兄貴みたいな優しくて包容力があって頼りになる男! 面倒くさい男なんかこっちから願い下げよ!


 ……って切り捨てられたら楽なのにぃ!


 くぁあ、思わず頭を抱えて机に突っ伏してしまう。


「仕方ない、とりあえずは様子を見よう」

「それがようございますね」


 アイズが嫌がることを強要して関係が拗れたら事だし、慎重にやるしかないね。

 全く手間のかかる話だよ。


 ただまあ、そうやって延々距離を置いていられるわけでもなくて……




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