アーチェ・アンティマスクと氷の剃刀
■ 06 ■ 属性判定 Ⅰ
そんなこんなであっという間に二年が経過した。
本来必須なメインキャラ探しは全く進んでいない。だってそれやってる暇が無いんだもん。
私のお父様はどうやら娘に休暇をくれてやるつもりが更々無いようで、毎日毎日勉強、鍛錬、ダンス、刺繍、お茶会の作法、貴族の家系図に自領の主要生産物、税種と税率、法律、社会情勢、貴族の勢力図等々いやぁ詰め込んでくれるもので。
そもそもティーチ先生に知ってること全て教えろって言ったの私だし? そのせいでティーチ先生が俄然やる気出しちゃったのもあるし?
あと私からの希望で馬術や武芸を教えろとお父様に交渉した結果もあって、まあ半分、いや八割方は自業自得なんだけどさ。
ちなみに所持金は0だ。私に自由に出来る小遣いはない。ただ鍛錬に用いる武具とか馬具とか、本当に必要な物はお父様に言えば購入してくれる。
逆に言えば私は必要な物を現物だけしか手に入れられないってワケだ。これじゃドサ周りなんてできるはずもないわよね。
暇も無ければ所持金もない。でもこれは私が特別なんじゃなくて、普通の貴族令嬢ってのはだいたいそういうもんらしい。
まあよくある異世界転生に頭が汚染されたけど、普通貴族家に生まれりゃ冒険者とかやってる余裕はないわな。しかも年齢一桁で。
なお勝手な金策も不可能。というのもこの世界、貴族が金を稼ぐのは税収でというのが不文律で、物を売って儲けるというのは賤しい下民のやることとされているからだ。
政治と軍事だけが尊き者たる貴族の仕事、ものづくりは工程に魔術が必要なものを除いて全て庶民の仕事。これを破る奴はみっともない貴族以下扱いだよ。
お陰様でアンティマスク伯爵令嬢たる私が前世知識を売り出すことなんてできないのだ。商売やりたきゃ商人を立てる必要があるし、その動きは絶対にお父様にバレる。領内の金の動き、ウチのお父様は普通に優秀だからきちんと掴んでるし。
前世知識の出所が私だと突き止められたらお父様に完全に怪しまれるので、前世知識による金策は絶対に手を出さない方がいい。お父様に警戒されたら七歳児如きはマジで手も足も出せず縊り殺されるだけだからね。
そんなこんなで二年間をひたすら自己鍛錬に費やした私はもうすっかり現地の貴族令嬢としての振る舞いは身につけたと思う。
もっとも元騎士団員の師範まで付けて貰ったにしては剣術はあまりにお粗末で、
「お嬢様が剣を持つのは止めた方が良いでしょうな。周りの味方を斬りかねません」
と太鼓判を押されてしまっている。あと師範よぉ、こっそり「
一応武器を持たない護身術みたいなのも教わって、そっちは前世で柔道とか授業でやったことあったからそこそこ筋があるって褒められたのが救いかな。
まああれだ、私にはお父様と違って戦う才能がないということはよく分かった。一応馬術は褒められたんだけどねー。
「お嬢様は戦場から一目散に離脱することのみを想定して下さい。決して馬上で武器を用いられませぬよう」
と釘を刺されるだけあって馬上戦闘は無理っぽい。まあ私には
手綱さばきはかなり上手だって褒められてるけど。面と向かって逃げ足のみに使え、って諭されたのはちょっと悲しかった。うん。
だが、だがしかしだ。
この世界の人間には地球と違ってもう一つの戦闘手段、というか才能が与えられている。
「それでは、お嬢様に善き神々の祝福があらんことを」
メイを伴い、馬車に乗って、アンティマスク家は家臣一同に見送られながら神聖教会へと向かう。
地球と違って、この世界には明確な神が存在する。ただし一神教じゃなくて多神教だから、どちらかというとヨーロッパ系列というよりは日本系に近――くもないな。
八百万、というわけでもなく、おおよそ数十程度の柱がこの国を見守ってくれているのである。まあ、数が少ないことを除けばやはり日本的かもね。
世界全土、かどうかは分からないけど、少なくともアルヴィオス王国が存在するこのエルギア大陸において神の祝福を賜れない人類はいない。
人間、魔族、それ以外の人類種問わず、必ず何かしらの柱がこの大陸で生まれた人類を祝福してくれている。
無能が持て囃される昨今のネット創作界隈である。神に見放された無能はいないのか? と質問を投げたファンもいたのだけど答えはノー。
スタッフコメントで「神様だって自分の信者は一人でも多く欲しいので無祝福はあり得ません」との公式回答が下されてこの問題はお終いとなった。
要するに加護無しでもいようものなら神々が争って自分の加護を与えようとしてくれるわけだ。
だからガチで神様に見放された人類、ってのは存在しないわけだけど……問題は神様って人類のために居る存在じゃない、ってことなんだよね。
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