第125話 マイドリッシュ7王子

 フローラル連邦国にはヘブンズドラゴン川という大きな川がある。

 その西側は特に「ホークレス地方」と呼ばれる平野が広がっている。

 ホークレス地方には1月王国から7月王国までが位置しており、12の王国の中でも特に結びつきが強い7カ国がかたまっている。


 ホークレス地方は音楽や芸能、演劇など芸術が盛んで7カ国共同で建設したコンサート会場まであった。


 貴族の子弟は何らかの芸術を習得することが奨励され、その活動実績が王国の誉ともなっている。


 中でも各国のイケメン王子7人によるマイドルグループがホークレス地方の幅広い年代、半歳から80歳の女性たちから熱狂的な支持を得ていた。

 「マイドリッシュ7」と言われるグループである。」


 マイドリッシュ7の地方公演では毎回超満員となりチケットは売り切れ、チケットの転売ヤーまで出現する有様であった。


 今回のガーベラ王国で開催される王国創立祭でもヘブンズドラゴン川を超える川外遠征かわがいえんせいとして後夜祭にコンサートを開く予定になっている。


 ****


 「ねえねえ、あの方ってマイドリッシュ7、ユリ王国のリッキーじゃない?!」


 「ほんとだ!マイ7のチューリップ王国のミッキーもいる!」



 周りの女子から黄色い声がこだまする。


 「え、え、マイ7のシンビジウム王国のイオリーノもいる!きゃー現物見ちゃったもう死んでもいい!」


 バザールの中央付近にあろうことがマイ7全員が揃って来ていたのである。


 先の女性ではないが、グループ推しの女子ならもう死んでもいいレベルの感動であろう。


****

 

 「トレビアン!」


 陽葵の鮮やかなパフォーマンス神技を囲んでいた観客の中に偶然、マイドリッシュ7王子のメンバー7人が全員勢揃いで見ていて惜しみない拍手を送る。


 王子たちは陽葵の神技的な手技にも釘付けだったが、それ以上にどの貴族令嬢にも引けを取らない天使のような美貌と気品溢れる姿に衝撃を受けた。

 異世界転落してハードモードを経験したとはいえ、旧華族の財閥令嬢であるのは間違いない。

 たとえそこそこ令嬢だとしても社交界で恥ずかしくないだけのものは身に染み付いている。


 「こんにちは初めましてマドモアゼル!私はユリ王国の王子リッキーと申します。」


 「まあ王子様!私は陽葵と申します、お会いできて嬉しいですわ。」


 「先ほどのパフォーマンス神技には感服いたしました、このような神技を見ることができるとは、はるばるヘブンズドラゴン川を越えてきたかいがあったと言うものです。」


 「それに何と神々しいまでの美しさであろうか、市井しせいにこれほどまでに美しい女性がいるとはガーベラ王国に嫉妬してしまいます。」


 「まあ、リッキー王子様、お恥ずかしいですわ。」


 陽葵は生まれて初めてくらいの勢いで褒められて、頬を少し赤らめてはにかんでみせた。


 「マドモアゼル、よろしければ今夜の前夜祭にご招待してエスコートさせていただきたいのですがいかがでしょうか?」


 「おい、リッキー、抜け駆けは許さないよ。」


 横からミッキーと5人が取り巻く。


 「あの、お申し出はありがたいのですが、今夜の前夜祭には私どもの、もぐらモールの代表、土竜男爵様からご招待いただいてますの、申し訳ございません。」


 「それでは前夜祭のダンスパーティではお会いできるのですね、では後刻ごこくお会いできるのを楽しみにしております、あ、陽葵さまはコンサートなどには興味がおありですか、後夜祭の我々のコンサートで是非あなたのために最前列の席をご用意させていただきたいと思いますが。」


 「え、陽葵おばさまいいなー!私たちも行きたいよー私たちマイ7の大ファンなの!」


 「お嬢様方は我々のファンの方々ですか?もちろん陽葵様のお連れ様なら全員大歓迎ですよ、こちらの5名分、最前列の良い席をご用意いたします。」


 「え、いいんですか!やったー!」


 三つ子ちゃんがあんまり喜ぶものだから陽葵は断りきれなくなってしまった。


 「よろしいんですか?ではご迷惑でなければ5人分よろしくお願いします。」


 「それでは今夜のダンスパーティでお会いできるのを楽しみにしております。」


 「ヒナさん、後でお会いしましょう!」

 残りのメンバーも嬉しそうに帰っていった。


 この世界のコンサートか、これはこれで楽しみやな。


 陽葵も自分が13歳の中学生であることを思い出していた。


 「あの、ワタシもコンサート行けるの?」


 「もちろんよ、アリスおばさん。」


 「ワタシ、実は半歳の頃からマイ7のリッキーの大ファンなの、前のコンサートの時はお金貯めてユリ王国まで見にいったのよ、最前列でコンサート観れるなんて夢みたい、ヒナ、ありがとう!あなたが来てから本当に素敵なことばかり起こるわ、怖いくらい。」


 アリスおばさんは涙を流して喜んだ。


 陽葵はアリスおばさんに少しだけご恩返しできてとても嬉しかった。

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