第91話「ちょこん」


 リザが! と叫んだアレクに皆の視線が集中します。


 続いて皆の視線がリザへと集中し、『そうそう、それそれ』という声と、『あーーっ!?』という二種類の声が上がりました。


 私とリザだけが首を捻って――



 あ……、あーーっ!?


 私は気付いちゃいました。

 そう言えばフルキショもカルベも、レミちゃんもアドおじさんも、リザを見た反応がどこかおかしかったです。


 そういう事だったんですね。私はずっとリザの事を見てましたから分かりませんでしたよ。



「ちょ、ちょっとレミ! やめときなって!」

「遅かれ早かれ。早い方が良い」


 レミちゃんはリザへと歩み寄り、残り少ない魔力で水鏡を作り出しました。


「リザ姫」

「鏡……? もしかしてわたくし……変身が解けて――?」


 絶対に変身は解けません。

 ロンが使ったトロルの腕輪による変身であれば解ける事もありますが、トロルの変身は衝撃や他の魔術なんかで解ける事は絶対的にあり得ないんです。


 恐る恐る鏡の前へ立ち、そして今の自分の姿を目にしたリザ。


 その姿を見てリザが息を呑みました。


 小さくなっていた筋肉は八割がた元通りのバルクっぷり、細くなっていた顎も割りと何でも噛み砕けそうなほどには頑健、パッチリ開いた目はフルキショを睨みすぎたせいか再び少し吊り目気味に。


 重い戦斧を振りまくり、それを持ったまま駆けずり回り、硬い干し肉を齧り、酷い筋肉痛に悶えながらもまた戦斧を持って戦場へ。


 元々筋肉のつきやすい体質ですが、この数日で一気にバルクアップしてしまった様ですね……。フルゴーレムを一撃で仕留めるのも納得ですよ……


 ただ、変わらない所もあります。


 背は二十センチ低くなったままの百九十、薄めになっていた緑の肌、そして綺麗な



「ずいぶんと……元のわたくしに戻っちゃいましたね……」


 そう呟いて俯くリザに、アレクが恐る恐る声を掛けます。


「リ、リザ…………その……」


 アレクも複雑でしょうね。


 自分の好みからは外れてしまったリザを、それでもやはり世界で一番好きだと再プロポーズをした矢先に元の姿に近くなってしまったんですから。


「アレクは……嬉しいんじゃなくて?」


「そ、そんな!? そんな、事は……な――い……ごめん! 正直に言うよ! ちょっとだけ嬉しい!」


「……そう……。ありがとうございます、正直に言って頂いて……」


 より一層俯くリザ。言ってしまったと慌てるアレク。


 けれど、そうは言っても正直が一番良いと思いますよ。

 どうせ女心なんてアレクには分からないでしょうし。



「リ、リザ……な、泣いちゃう……?」


 俯くリザの様子を覗こうと近付くアレクへ、一転リザが勢いよく顔を上げました。


「いいえ、泣いてなんていませんよ!」


 そこには屈託もない、リザの笑顔が咲き誇っていました!


「リザ!」


「よぉ〜っく見れば、今のわたくし、なかなか素敵じゃありませんか?」


 水鏡へ顔を近づけまじまじと、上から下まで自分の姿を眺め回したリザがそう言いました。

 無理してるとか、気を使ってるとか、そういう様子でもありません。


 本心からそう思っている様な、そんな感じです。

 アレクを助け、を斬り裂き断ち割ったのは紛れもなくリザのバルク。

 それに自信を持ったとしても不思議ではありませんよね。



「とっても素敵だよ! もう、世界で一番いっちばん素敵!」


 リザの逞しい胸へ、アレクが飛び込み顔を埋めます。

 そしてジンさんが例のアレ。

 の手の動き。


 確かに今のリザだってぼん・きゅっ・ぼんですよ。ずいぶん柔らかみが減りはしましたが、見ようによってはちゃんと美しいくびれを維持していますからね。



「リザ! もう一度聞くよ! 僕と結婚してくれる?」


「ええ! 喜んで!」


 抱き合ったままで、リザは視線を下へ、アレクは上へ、じっと見つめ合う二人。

 よっ、とアレクが背伸びしますが上手くいきません。


「アレク」


 小さく名を呼んだリザが少し、俯くように顔を下げてニコリ。


「リザ」


 再びアレクが背伸び、さらに体も伸ばし、それでようやく、ちょこん、と触れ合う唇と唇。


「えへへ」「うふふ」


 恥ずかしそうに嬉しそうに、二人が見つめ合って微笑みます。


踏み台を用意しなきゃだね」



 ピューっ! とジンさんの口笛が鳴り響き、涙ぐむ一同から拍手とおめでとうの声が響き渡ります!

 私も涙でぐしゃぐしゃです!


「みんな見てたの!?」

「あったりまえだろうが! 俺らハナっから居たんだからよ! オメエらが勝手に始めたの!」

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