第40話「昔の良い思い出」
「たぶん心因性のもの。いえ、たぶんというか絶対そう」
場所は王城、リザの部屋。
部屋にはベッドに横たわるリザ、それにジル婆やにカコナ、さらに診察してくれていたレミちゃん。
「そりゃそうよ! あんな事言われちゃ誰だって目眩の一つも起こすわよ!」
ぷんすこ怒ってそう言ったのはカコナ。それに対してうんうんと頷くレミちゃんとジル婆やの二人。
「
自分の事を
「リザ姫様はよぉ、頭の先から爪先まで筋肉以外だって全部美しく仕上がってるつうのによ」
「婆ちゃん分かってるね! そりゃワタシはさ、人族だからトロルの人たちが言う美しさって分かんないけど、リザ姫さまはカッコいいよ!」
「レミも同意。本当に申し訳ないけど、筋肉の美しさはボリュームじゃないとは思う。でもリザ姫の事は素敵だと思ってる」
カコナだけじゃなく、レミちゃんまでがそんな事を言ってくれました。
二人とも人とトロルの美醜の基準に差がある事を当然理解したうえで、正直に言ってくれているのがよく分かります。
私、嬉しくって泣いちゃいそうです。
「でもキスニはそこまで悪い子じゃない。アレクの事になると、ちょっと、ね」
まぁ、分かります。
ぶっちゃけアレクもレミちゃんもそんな感じありますものね。
「でもさ! あんなの酷すぎじゃない!?」
「そう。酷い」
「だよね! 自分がちょっと――めっっちゃ可愛いからってさ!」
「確かに可愛い。ムカつくくらい」
カコナだけでなくレミちゃんまで正直にそんな事を言い出しました。自分の国のお姫様相手にそんな事言って大丈夫なんでしょうか。
まぁ耳に入らなければなんでも平気ですよね。
「ムカつくよね。なんとかギャフンと言わしてやりたいなぁ」
おっと、なんだか物騒な話になっていきそうです。
「――カコナにレミさん、ありがとうございます。けれど、それ以上は結構ですよ」
「あ! リザ姫さま気が付いたの!?」
「ええ、少し前に。ご心配お掛けしましたけど、もう平気です」
リザはベッドから降りて立ち、部屋の中央のテーブルセットの椅子へ座り直しました。
「ジル婆や、お紅茶でも頂けませんか?」
「よっしゃ、婆ぁ特製の
いち、に、さん、……よん、と自分のことも指差してからそう言って、バタンとドアから出て行きました。
ジルはいつでも平常運転でホッとしますね。
リザに対してもタメ口というか
「大丈夫なの?」
カコナがそう言いながら、リザの座ったテーブルセットに移動し同じく椅子に腰掛けました。
「ええ、もうすっかり」
両腕を曲げて立て、ぐっと力こぶに力をこめてリザが返事します。
「特に体に異常はない。目が覚めたならもう平気な筈」
レミちゃんも続いて椅子に腰掛け言いました。
若い女の子三人でテーブルセットに腰掛けて、なんだか女子会って感じでちょっと羨ましいですね。
「でもホント心配したんだから! リザ姫さま、ちゃんとご飯食べてるの?」
「ここのところあまり食欲が出なくって……」
「やっぱり! なんだか元気なさそうだったもん!」
私もまさかとは思ったんですけどね。
カコナが少し聞きにくそうな表情ながらも元気よく、かなりデリカシーに欠ける質問を連発していきました。
リザも裏表の全くないカコナには嘘をつけないようで、答えにくそうにしながらも一つずつ答えていったんですよ。
「食欲の出ない理由はなんなの?」
「最近悩んでることはないの?」
「顔が赤緑にされっぱなし?」
「えっ!? アレクちゃんに求婚されてんの?」
「うっそ!? ロンてリザ姫さまの初恋相手なの?」
「え、でも、ロンって
カコナがレミちゃんを指差して豪快に言いました。デリカシーもへっちゃくれも有りません。
「……いや、あの、ごめんなさいリザ姫。レミ、知らなかった――知ってても止まらなかったけれど」
でしょうね。
多分ですけど仮に、ロンが魔王デルモベルトだった、とレミちゃんが知ったとしても止まらなかっただろうと思いますよ。
「……レミさん、それについては気にしないで。わたくし、心から祝福していますよ」
聖女の微笑みというんでしょうか。リザに辛さは一つも見えず、ただただ慈愛の心をもって微笑んでいる様に見えました。
「わたくしの中で、
「
「
リザの言葉に、レミちゃんとカコナが過敏に反応しました。良いですねぇ、こういうの。私も混ざりたいですねぇ。
「リザ姫さま? ならさ、
「……あっ!? そんな――もう! カコナったら!」
照れるリザを見たカコナが、ニヤリと笑んで調子に乗ってしまいます。
「うへへへ。リザ姫さまよぉ、照れなくても良いではないか。ほれ、ワシにだけそっと言うてみ? ほれ?」
私としては、リザの言葉は決まったものの様なものですけれど。
リザはカコナに明言はせずに、あろう事かおかしな存在に声をかけたんです。
「――お婆さま。少し話を聞いても良いでしょうか?」
まぁ!
私も女子会にまぜてくれるのかしら!?
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