第20話「残念美少女と匂い立つような色男」
ざわ、ざわざわ、とギルド一階のロビーは突然訪れた混沌とした状況に落ち着かない様子となりました。
勇者パーティの紅一点。
実力者である事は言わずもがな、いつも無愛想で無表情でありながらも不思議な魅力の美少女としてギルドで名を馳せているレミ・パミド嬢。
その彼女が
騒ぎにもなろうというものです。
「…………いやいやいや。そんな事よりもまずは血を止めなければ――」
「いい。このままで」
レミちゃんはそう言いながらクルリとロンへ背を向けて、そのままフラリと倒れる形で背を預けて続けます。
「このまま。貴方と――」
なんだかカッコよくそんな事を言いますが、背をロンに触れさせたせいか流れる鼻血は増加の
さすがに『このまま』では
「精霊よ! わたくしに力を貸しなさい!」
どうやらリザも私と同じ考えだったようですね。
リザが両の掌を胸の前で構えると、掌の間に淡く光る球体がキィンと音を立てて現れ、それをそのままパチンと挟んで潰しました。
リザは基本に忠実ですね。
そしてそのまま潰した光をギュッと両掌で握り込み――
「癒せ!」
――そう鋭く叫び、光を帯びた両掌をレミちゃんの胸に押し当てます。
三人の周囲がカッと爆ぜるように光ってギルドの冒険者たちの視界を奪いました。
そして僅かののち冒険者たちは、気を失った
その姿は凛々しくも雄々しく、なおかつ迫力満点。
この国のギルドの冒険者にはトロルはほとんどいません。人族が半数ほどで、次に獣人が多くてその次がドワーフなんかの森人ですかね。
ですから冒険者達はね、姫であってもリザに対してトロル達のような尊崇というものは特にはお持ちじゃありません。
なのにです。
このリザの姿を見た冒険者たちはさまざまな感想を抱いて敬ったりビビったりしたそうです。
ある者はリザの姿に慈愛を見、またある者は正義を見、そしてまたある者は恐怖を覚えました。
私なりに考えを巡らすところによると、まぁ概ねそんなところかしらね。
リザはいつも、その心に愛と正義の思いを持って生活していますが、先ほどのリザにはさらに
感受性の強い人はその嫉妬心を感じ取ってしまい、さながら鋭い刃を自分に向けられた様な恐怖を感じたのでしょう。
皆が一様に息を呑んで黙る中、リザが口を開きました。
「ロン? ご自分で立てるかしら?」
「え、ええ、大丈夫です。ありがとうございます、リザ姫」
少しふらつきながらもリザの肩を離れたロン。少し驚いた顔をしていますね。
正直言って、私もちょっと驚いています。
あのロンが、頬を染めてリザを見詰めていたものですから。
「あっ、貴方が大丈夫な様でしたら、わっ、わたくしはこのままレミさんを宿へ送って行こうと思います。へ、平気ですか?」
「そ、そうして下さい。俺は今回も三番亭で世話になっています。何かありましたらそちらへ」
確か十年前もロンの常宿は高過ぎず安過ぎずの三番亭でしたね。
ちなみにアレク達はこの国で一番お高い一番亭を常宿にしています。それぞれ一人ずつの個室でね。
「分かりました。伺うように致しますね。十年前のことや今回のこと、もう少し詳しく教えて頂きたいですから」
そうですね。
魔王から人族になった経緯もそうですし、なぜ十年前も人族に化けてまでこんな所をウロウロしていらしたのか。
細かいところは疑問だらけですものね。
「近いうちに王へも顔を見せにいらして下さいね」
付け加えたそのリザの言葉へと頷いたロンでしたが、少し遅れてきちんと声に出して「承知しました」と返事を返しました。
なぜ少し遅れたか。それはリザが、ずっとロンの顔を見ずに話していたからですね。
私なんかはね、あんまりそういう、人の顔を見ずにお話しするのは好きではないんですけど、今のリザはしょうがないですかね。
ここのところよく頬を染めるリザですけれど、それに輪をかけて緑のお肌を真っ赤に染めて、人族から見るとなんだか不思議な色味になっていますからね。
色々と誤解も生みそうですけど、ここはこのまま退散が良い様に、私なんかもそう思います。
なぜいつもより真っ赤か、ですか?
それは次回に語られるんじゃないでしょうか。
分からないですけど。
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