第3話 秘密の水路のその先に

 エレベーターに乗っていた時間は、長かったようにも短かったようにも思えた。男が壁に触れると、先程と同様、壁が扉に変化して開く。そしてエレベーターから出た先には――なんと、薄暗い洞窟が伸びていた。


「あ、あの、カフェって……」

「その先にある扉の奥が地底カフェですよ」


 洞窟の天井は高すぎて見えず、暗がりから鍾乳石がいくつも垂れ下がっている。また、垂れ下がった鍾乳石から水がぽたぽたと滴り落ち、その下に美しく透き通った水路を生んでいた。壁も鍾乳石でできているようだ。水路の脇には色とりどりの鉱石が自生していて、壁に等間隔につけられた乳白色の柔らかな灯りを反射させてキラキラ輝いている。


「す、すごい……。樹海の奥にこんな場所があったなんて。でも、ここから先どうやって進むんですか?」


 水路は溺れるほど深くはないが、ふくらはぎまで浸かるくらいの深さはある。靴も靴下もこれしかないし、水に浸かるのは避けたかった。


(びしょ濡れのまま死ぬのは嫌だな……。でも、橋も見当たらないし……)


「大丈夫ですよ」


 凛がそんなことを考えていると、男はそう言って水路付近の壁に触れた。よく見ると、そこには魔法陣のようなものが掘られていた。男が触れて数秒もすると、水路に飛び石のような足場が現れる。


「え!? いったいどうなって――」

「石から落ちないよう気をつけて」

「あ、はい。――ありがとうございます」


 男は先に立って手を差し伸べ、水路を渡った先にある扉の前まで凛をエスコートする。洞窟の壁に取り付けられた扉は鉄扉で、とてもカフェの入り口には見えない。扉の前に立つと、まるでゲーム内でボス戦に挑んでいるような気持ちになった。


「それでは改めて。ようこそ地底カフェへ」


 ギギギ……という軋むような音を立てて、鉄扉が開けられる。鉄扉の向こうには、洞窟――のような広いカフェスペースが広がっていた。


「――ってまた水!? あれ、でも」

「水の上にガラスが敷いてありますので、普通に歩けますよ」


 傷ひとつないガラス板の下には、先ほど同様の美しい水路が広がっている。水底がくっきり見えるほどに透き通った水の流れと水音は、見ているだけで、聞いているだけで心の淀みまで洗い流してくれそうだ。


 足元に敷かれたガラス板の上には、巨大なアメジストやメノウの原石を半分に割ってガラス板を乗せたテーブルが10台ほど置かれている。また、部屋のあちこちに凛の身長より高い巨大な水晶が設置されており、それらを光らせることで照明にしているようだった。


「お好きな席へどうぞ。うちにはメニューはありません。私がお客様に合ったドリンクをお作りします」

「は、はあ……」

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