ゲームの世界から異世界へ、NPCが人に生まれ変わり自由に生きる(仮)

あいか

第1話 終わりの始まり


 いつから気が付いたのだろうか


 毎日、毎日、同じ事の繰り返し


 違う、気が付いてしまった、のだろう。


 私達はゲームの中に存在するNPC、ある時から自我が出来たようで、考える事も話す事も自由にできる。


 設定上では、私は魔法使いギルドの長で

 妹が、伝説の魔法使いとなっている

 私は毎日、プレイヤーを弟子にして魔法を教えたりする役目で、妹は特定クエストの救済キャラとして活躍していた。


 プレイヤーは人が操作をしている為、自由に考え行動できる。本来のNPCは決められた事を決められた通りに繰り返すしかないのだが、自我があり、考えることもできるとなれば、何の違いがあるのだろうか、そんな事を考えながら設定された役目を繰り返していた。


 今日も、同じ様に弟子を取り魔法を教える。

 何故それを繰り返す必要があるのか、考え続けた結果、私はいつもと違う事をしようと思った。


「私の弟子を希望するか?魔法を極めたいか?」


「はいはいっと初期クエ面倒だけど、進めんと次の職いけないんだよね」


「わかった。面倒なら弟子になるのはやめろ」


「は?って何?新しく条件かわったの?」


 私はいつもと違い弟子を断った。

 その後、運営という者が調査に来て私を初期化すると言っていた。

 次の日も同じ様に弟子を取る、違和感を感じながら同じ事を繰り返す。

 自我があり、考えれるはずが、一定間隔で考えが戻り、また繰り返す、そんな日々を過ごした。


 ある日、妹からチャットでボイスメッセージが届いた。

 プレイヤーがよく使うチャット、使う事ができるとは考えもしなかった。

 ボイスメッセージで妹とやり取りをする日課ができたのだ。

 毎日の終わりに何かあったとか、こんな事を思ったとか、簡単な雑談だ。


 私達は運営という管理者に記憶を消されている可能性があり、チャットは過去ログが文字として残される。この機能を活用する事である一定の考えを記録する事ができた。


 妹も様々な可能性を実行しているようで、装備を変更したり、一人でボスを倒したりと私ができない事をやっているようだ。


 設定の妹、設定情報の姿は子供の頃で、今の姿を見てみたい、声が聞ける分、会いたくなる。モヤモヤする気持ちが苦しく感じた。


 そして運命の日が来たのだ。


 ここは何処だろうか、

 私は先程までいつものように弟子をとっていたはずだ。

 ふと横を見ると妹が居た。

 初めて見るが、直感で妹とわかった。


 やっと会えた事に喜びたいが、今の状況を確認するのが先に思え、辺りを見渡すも真っ白な空間だった。

 いつも思っても自由に動けなかったのだが、今は自由に思い通りに行動ができる事に気がつくと、普通ではない事を理解した。


 確認しても分からない場所、それなら妹と話した方が良さそうに思うと、私のように辺りを見渡す妹へ話しかける事にした。


「直接会って喋るのって初めてかな」


「そうだね。初めてだと思うよ」


「はじめまして私の妹」


「はじめましてボクの姉さん」


 初めて会う2人は両手を握り合う。

 設定でしかない姉妹、だけどそれは違う意味として私の中で考え続けていた。

 子供の頃の記憶も作り物、妹の存在も設定だけではと心細く感じた時に存在を確信するログを見つけた。

 最悪の龍、黒龍を倒したログが流れて妹は居るんだと確信したからだ。

 ボイスメッセージを受け取った時は嬉しかった。

 日々のやり取りは繰り返す地獄の日々を乗り越える力となった。

 私の目標として会いたかった妹にやっと会えて手を触れ合っている。


 それは私だけではなく、妹も同じようで、笑顔を見せ合い抱きしめたのだ。


「姉さん、ここって何処なんだろ?」


 妹は抱きしめていた私にそう聞いた。

 何度見渡しても上下も真っ白な空間、そこに2人は立っている。

 それが今わかることの全て、ゲームの中では決められた範囲外に出ると初期位置に戻されたのだが、それも起きる気配がなかった。

 とりあえず、触れ合うと言う目標は達成できたので、一旦離れると声を出し、誰かいるのかと確認する事にした。


「誰かいませんか?」


「誰かいるかな?」


 声を出すが返事はない、反響しない所からかなり広い空間のようだった。


「ごめん、ごめん。お待たせしたかな?」


 そんな空間に1人の女性が現れ、2人に声をかけた。

 2人は驚きつつ、返事をしたのだった。


 不思議な女性、しっかり意識しなければ見続けれない白い服を着崩し、口には棒が付いた飴を咥えていた。


「ここは何処なんですか?私、早く街に戻らないといけないのですけど」


「ボクも早く戻らないと世界が滅んじゃうよ」


 2人は元の場所に戻してほしいと話をするのだった。


「ああ、ごめんごめん。クレーム対応で時間かかっちゃってね。酷いよね、自分が認めないからって削除するなんて」


「何の話ですか?」


「わかりにくいよね。でだ、本題に入ると2人を元の場所に戻す事は出来ないんだ」


「えっ?困ります!」


「姉さん、理由を聞いてから考えようよ」


「話が早くて助かるよ。簡単に説明すると2人は元々人ではない。NPCという作られた設定上の物だったんだよ。心当たりあると思うけどね」


 飴を舐めつつそう話した女性だった

 私達は自我が芽生えた後、時間はかからずNPCと言う事や記憶は作り物の設定と気がついていた。


「続けるよ。それでね私が全NPCに魂を入れたのさ、しかし自ら考えるようになったのは君たち2人だけだったという事だよ」


「私たちが、ですか?そうなると作られた存在に意思が宿ったという事で合ってますか?」


「大体合ってるよ。ここからが大事なんだけど、それをよく思わない担当がね、君たちを削除してしまったんだ」


「削除…ですか、それは殺されたという事なんでしょうか」


「そういう事になるね。データの海で消える所を私が回収したということさ」


「大体、わかりました。つまり、私たちはもう消えて無くなってしまうのですか?」


「君達次第だよ、消えたいと望むなら消すし。生きたいと望むなら君たちに新しい命を与えよう。私が作った世界があるからそこに2人を送る事はできる。消えるか人になり生きてみたいか、どうする?」


 女性がそういうと2人は考えた。

 正直、想像を超える話をしている為、中々実感がないからだ。

 都合が良すぎる。そんな事を考えてしまった。

 女性の話を全て信じるなら、自我を持つ私達が良くない存在として消されたのだろう。消された私達を善意で助けてくれる女性、あの世界でも善意で活動する人はいるが、大抵は理由がある。何かを求めたりする代償は大抵つきまとうのだ。


「話を聞く限り、とてもいい話に思えるのですが、なぜ助けてくれるか聞いても良いですか?」


「難しい質問だね、自我を持ち、意思があれば自ら行いたい事は少なからず存在するんだ。私の場合は君達を助けたい、そんな気持ちからの提案だけど、答えになるかな?」


 私の質問に対して、少し女性は考え、そう答えたのだ。

 生きている存在なら普通の考え、私達は元が元なので、変に考えすぎているようだ。

 設定から外れれば、人は考え行動する。善意の考えは決して異常ではなく、話を聞く限り信じて頼む方が良いと思った。


 2人は互いを見ながら決める。

 私、ボク、人として生きてみたい。と


「決まったようだね。では、答えを聞こうかな」


「私達、人として生きてみたいです!これからは作られた設定ではなく、自分で歩んでいきたいです!」


「わかった。いいよ、聞き届けよう。私は優しいから折角だし、今までの設定はある程度、利用しよう君たちも姉妹のままがいいでしょ?」


 2人にそう問いかけた。

 2人は即答で姉妹がいいと答える。


「それでいこうか。後、私の世界はね、あのMMOに近いから、すぐ慣れると思うよ。忘れないでね。何があっても君たちは人になる。人になったら、自分で考え、決めて、責任を取らなければならない。また次の世界で会おうね」


 そう言うと視界がだんだんと白くなる。

 一つ聞き忘れた事があった。

 女性が何者なのかと言う事、ゲームで知る知識では世界を創造できる存在は神と呼ばれる。消える私達を救い世界に生まれさせてくれるとなれば、普通ではないはず、聞く前に女性の姿が消えて、更には今いるこの場所も消えそうだ。


 私は怖くなり、妹の手を握る。

 妹も私の手を握り、2人で新しい世界へ進んでいこう。


「必ず会って、今まで含めて、お喋りしようね」


「約束だよ。姉さん…いや…お姉ちゃん!」


 白く染まる世界の最後、妹の笑顔とお姉ちゃんと呼んだ声、私の記憶に刻みつけるのだった。

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