転性したら元エルフがついてきた

小麦ちゅるちゅる

第1話 全裸の美少女を踏んでぶち撒けた

「あたまいた……」


 昨晩は飲み過ぎた。久々に同期と飲んで年甲斐もなくはしゃいだ結果、二日酔い。寝起きから地獄だった。


 とりあえず吐きたい。トイレに向かおうとベッドから起き上がり、足を床につけた。つもりだったんだが。柔らかい。というか、これ人を踏んでる。


 足元を見れば明るい髪をした全裸の少女を踏んでいた。


「……ついにやってしまったのか?」


 昨日の記憶はほとんどない。一人暮らしの男の部屋に未成年らしき少女が全裸で転がっている。一旦落ち着くまでもなく。俺の人生はここまでのようだった。


 まあいいや。あまりに淡白だけれど、初めに抱いた感想だった。あまり面白味もない人生。終わったところで構わない。


 まずは吐こう。催す吐き気がそろそろ限界。


 なるべく身体を揺らさずにトイレへ駆け込む。が、吐けなかった。


「え……?」


 便座に向かって俯くと、顔に髪が纏わりつく。量産型社会人らしからぬ髪の長さ。二日酔いの頭では困惑するのが精一杯で、とにかく急いで洗面所に向かう。


 鏡と向き合ったら、そこにはまた見知らぬ女性が写っていた。黒髪の女性。自分、だよな……?


「な……、なにこれ……。うっ……!」


 洗面台に盛大にぶち撒ける。理解が追いつかないが、今は止まらない嘔吐に涙目になりながら耐えるしかなかった。


「大丈夫か?」


 そう心配そうに声をかけられた。背中をさすってくれた。汚さないよう髪を避けてもくれた。先ほど踏んだ見知らぬ少女が。


「あ、ありがと……。うぶっ!」


 また盛大にぶち撒ける。

 色々と、理解が追いつかないのはそうなんだけど。こうしてもらえているのはただただ有り難かった。


 結構な量を吐いて、ようやく波が収まった。これで暫くは大丈夫。だと思う。


 後ろを見れば、相変わらず全裸の少女。なんだろう。付き添ってくれたのも、こうやって惜しげもなく見せてくれるのも、感謝に尽きない。けれど、そう。恥じらいが圧倒的に足りない。


「落ち着いたか?」

「ああ、うん。ありがとう。で、それはそれとして、なんだけど。誰?」

「元エルフのヒヨリだ。よろしく、高宮」


 何故か俺の名前を知っている少女は確かにそう言った。揶揄うでもなく、至極真面目に。元エルフだと。

 

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