第6話 ドラゴンカップル
開いた口がふさがらない両親をよそに、当のヨミナは自分の機転にすっかり興奮している。
「そうよ! それなら私はドラゴンホルダーとして、ドラゴンホルダーと一緒に、ずっとドラゴンのお世話ができる。もし子供ができたら、きっとその子もドラゴンホルダーに……」
「ちよちょちょ、ちょっと待った!」
肘掛けを握りしめ、父は何とか上体を前のめりに戻す。
「け、結婚を何だと思ってるんだ? 近所の買い物につき合ってもらうんじゃないんだぞ? そもそも、リューガスト君の気持ちも聞かず……」
「心配しないで。会った途端、私に心奪われたって言ってくれたから」
「心配するわ。うちの娘に何を言うてくれとるんだ」
父の抗議に、心を奪われた馬の骨はずいと身を乗り出した。
「お父さん」
「お父さんて言うな」
「お嬢さんは大変ご立派なお心をお持ちでいらっしゃいますが、ただ一点、大胆にも王法に背き奉っていらっしゃる点において、恐れながら、頭のおかしいドラゴン娘というレッテルを免れぬ可能性がございます。このご時世、いくら名家の美しきご令嬢とはいえ、ドラゴン娘を好んで娶る男が私以外にいるでしょうか? お嬢さんのおっしゃった通り、これは運命なのです」
リューガストの熱弁は、パイシーザーの痛いところを突いた。
これに、当のヨミナが間髪を入れず賛同する。
「いるはずないわ。彼はきっと、私と幸せな夫婦になってくれる、この世でただ一人の人よ」
一度意を決したヨミナの脳裏には、どこまでも理想的未来が広がっているようだった。確信的な目が、この先いかなる説得が行く手を阻もうと負けるものかと輝いている。
「お、お前たちはまだ若い。これから……」
父はなおも食い下がったが、巨体の割に短かったらしい母の堪忍袋の緒が先に限界を迎えた。
ボリューミーな太鼓腹のために前のめりとは行かなかったが、それを補うような大音声で、
「この際、結婚なんてどうでもいいわ! あたくしが言いたいのは、ドラゴンホルダーなんぞ婿に迎えてこのパラタインヒルの名に傷をつけてくれるなということよ。家の傷はとりも直さず、あたくしのかわいい一人息子ユーサリオンの不幸になるのよ」
ここでリューガストは改めて狙いを夫人に移す。
「それでは、結婚の事実は内々にとどめ置くことにいたしましょう。実は今、私の仲間がこちらに向かっているのですが」
「なぜ勝手に向かっている」
「彼らと合流次第、我々はこちらを離れるつもりでおります」
それではまるで絶縁宣言ではないか、と、パイシーザーはなおも考え直すよう訴えたが、夕暮れまで粘るも話がつかず、とうとう疲労困憊といった様子で折れた。
リューガストたちは深く感謝を述べて辞すると、裏庭の温室へ向かった。
ドラゴン連れでは、プレジテトラを無用に刺激して不利益が生じるというヨミナの読みで、二匹をそこで遊ばせているのだ。
その途次、ふと、ヨミナが立ち止まった。
「ごめんなさい。勝手に結婚なんて決めちゃって。ああは言ったけど、別にあとで離婚してくれてもいいから。ただ、ドラゴンのことだけは、あなたのゴルちゃんが嫌じゃなければ、シロちゃんと……」
「さっき自分で言ったろ。会った途端、俺はあんたに心奪われている」
「……頭のおかしいドラゴン娘でもいいの?」
「頭のおかしいドラゴン野郎に似合いだろ? 悪くもないドラゴンを古いの何のと難癖つけていじめる賢く正しい連中より、あんたのほうが俺にははるかに美しく見える。せっかく出会って未来が開けたんだ。ゴルたちのためにも、やれるだけやってやろう」
「……そうね。私たち、ドラゴンホルダーだもんね。わかった、私もいい冒険者の奥さん目指すわ。たとえ野宿や遊牧生活になろうとも……」
「え? 野宿はやだよ。これでもシティボーイだぜ」
「え?」
「言ったろ、仲間呼んだって。そいつらが持ってくるよ」
「何を?」
「俺たちの家」
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