3 僕は生きている

 あ、こんにちわ。

 反応が増えてきて嬉しい!


 あたしは近況ノートたるものを更新した。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 あたしは更新ボタンをクリックして、机に置いてあったリンゴジュースを飲み干した。


 突然だけど、みんな、苦手な言葉ってある?

 「みんな頑張ってるんだよ」

 この言葉が、あたしは苦手。この言葉を言う人も、苦手。


 まあ、あたしも昔学校に行けてなかった時期があってさあ。しかも先生は「みんな頑張ってるんだよ」「みんな辛いんだよ」って言ってたんよ。

 でもそれって、なんの意味があるのかなって思う。


 だって頑張るの定義って人によって違うやん?

 Aくんが頑張っているといっても優秀なBくんと同じ結果だったら「劣っている」といわれて「もっと頑張りなさい」って言われる。相対的にみられるのは特に学生だと仕方ないとは思う。でも、やっぱり一人一人見てあげるべきだとおもう。


 それを...昔のあたしは望んでいたから。してもらえなかったから。


 学校に行かなくなって暫くして、母がカウンセラーさんを連れてくるようになった。あの状況で色々とやってくれて本当に感謝している。

 何人か来たけれど、一番長く続いたのはナカジマという名前の男性だった。まだ若かったと思うけれど、聞き上手で、否定せず、内面をそっと覗いてくれるから好きだった。大好きだった。

はじめのうちは全然話せなかったけど、頑張ることに疲れたって言えなかったけど、彼は上手くあたしの言葉を拾ってくれた。


 「周りが辛くなくったって自分が辛かったら休んでいいんだよ」


 何回か話していた時、言ってくれたその言葉。

 休んでいいなんて、家族以外で言われたことが無かったから嬉しかったんだ。


 当時周りを信用できなくなってしまっていたあたしを救ってくれたのは彼だった。

 それから段々と周りが見えてきたあたしは、少しずつだけど、学校に行くことが出来るまでに成長した!

 それからもう会わなくなってしまったけど、ナカジマさんには感謝してもしきれない。


 あたしは今、こうして小説を書いている。

 今の話は事実だけど、事実じゃないことも書いている。

 小説家なんて嘘つきだと言われて反対されたこともあるけど、あたしはある目標を持って生きている。


 あたしは誰かを救える、誰かでいたい。


 きれいごとだと言われても、恵まれた奴だから言えることだとか言われても変えるつもりはない。助けを求める権利も、助ける権利も、あたしにはあると思ってる。

 そして全員にあると思ってる。変えられないものやどうしようもないものごとはたくさんあるけど、自分が満足する形に変えていくことは出来ると思う。


 自分が変われば周りが変わるという言葉の本当の意味は、周りの見え方が変わるという事なんじゃないだろうか。


 事実は小説より奇なりというけれど、奇なりな事実を経験したから小説が書けるんだ。

 名古屋ではドン横キッズという、居場所を探すあたしと同い年くらいの子たちがいる。あたしは毎週水曜日、栄や名古屋駅付近でそういう子の話を聞いている。

 危ないと言われたこともあるけど、そうは思えない。

 あたしも、その一人になる未来があったかもしれないから。いや、あるから。


 何を言われても、自分が正しいと思えることをしたい。

 だからあたしは今日も、日暮れの街に出掛けていくんだ。


 消えてしまいたいと思ったことがある人。

 黒いパーカーに、カーキのリュック。眼鏡をかけた人を見つけたら、声をかけて。


 大人になったらになってしまうけれど、いつか名古屋の街で、待ってるから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る