第16話 線香花火!
改めて女性陣の水着を見てみると、ファナは胸元をフリルで補うタイプのセパレートで、水色を基調にしている。
セヴェリナさんは、普段からイメージのある黒いビキニで、胸元の大きな谷間が大人の女性らしさを強調している。
あやめはライトパープルのビキニで、ポイントごとにフリルがついて可愛らしい印象だ。
七澤はピンクのセパレートで、細身には充分な胸の膨らみがあり、谷間もできている。
俺が皆のいる海の中まで歩いていくと、ファナがお帰りといいながら海水をかけてくる。セヴェリナさん、あやめ、七澤が同じように俺に海水をかけ始めたので、仕返しをする。朝河も男グループとしてだろう、女性陣に海水をかけ始めた。
夏の
そこへ、七澤が全身で飛びかかってくる。それを受け止めると、あやめまで同じように飛びかかってきて、七澤にぶつからないよう角度を変えて受け止める。
七澤もあやめも全力で俺にしがみついており、右と左両方から、柔らかくて艶やかな肌の感触が伝わってきて、俺は身を固くする。
日本の女の子はこうも大胆なのか……、ふと冷静になると、あっという間に今度は脳が暴走を始め、俺は顔を真っ赤にして恥ずかしくなってくる。
「おいおい、いい加減、重いから離れてくれよ」
「吉川くん、顔赤くなってる!」
「本当ですね! 可愛い」
「コラコラコラ、そこの不純異性交遊の三人組。離れなさい」
険しい表情のファナが俺たちに海水をかけてくる。キャッと七澤とあやめが俺から離れる。
その隙をついたファナが、俺に飛びかかってくる。
「マレ、あんた、たまにはお姉ちゃん孝行しなさいよ」
「ファナさんずるい!」
「私たちも一緒がいいです!」
「ダメ〜〜! マレは私のたったひとりの弟なんだからね」
子供のような言葉で、ファナが二人を牽制する。
「ふざけるな。離れろ〜〜」
俺はファナを力づくで
「吉川くん、誰が一番か決めてよ〜」
「知らん!」
俺は少しだけ本気を出して走ると、セヴェリナさんと朝河の後ろに逃げ込んだ。
◆
夜、バケツと花火を持って浜辺に行く。女性陣も、俺と朝河も浴衣という日本の伝統的な衣装を着ている。
砂浜には、同じように花火を囲んで盛り上がっている家族連れや若者の集まりがいた。
「さあ、安全に気をつけながら、はっちゃけましょ!」
日本に来て依頼、花火文化に夢中のファナが仕切りつつ、それぞれ好きな種類に火をつけて楽しむ。
俺は線香花火という小さい花火に火をつける。極小の太陽みたいな中心の火から、ささやかな火花が四方八方に散って美しい。
「吉川くん、さっきから線香花火ばっかりじゃない? 他のも楽しいよ」
「いや、俺はこれがすごく気に入った」
「おじいちゃんみたいだな」
朝河がからかう口調でいう。
「朝河さん、吉川さんの好みを悪くいうのはやめてください。日本の風情を理解してくれるなんて、素敵なことですよ」
「わかったよ、九条。そんなに怖い顔するなよ」
「わかったならいいですよ」
「さぁー、打ち上げ花火やるわよぉ。おいで
七澤と朝河は手元の花火が燃え尽きるなり、ファナの方へ走っていった。
「あやめは行かないのか」
「私は、吉川さんと線香花火眺めていたいです」
砂浜から大きな音が聞こえ、やがてパンッと弾ける。朝河たちの歓声が聞こえる。夜空に煙のかたまりが漂っている。
「盛り上がってますね」
「ああ。でも俺はやっぱりこっちが好きかな」
あやめと二人、線香花火を眺める。その間にまたヒューと、打ち上げ花火の音が響く。爆発する瞬間を見ようと見上げると、あやめの顔が近づいてきて、俺の右頬とあやめの唇が触れる。パンッと派手な音がなったときには、あやめは元の姿勢に戻っていた。
「めちゃめちゃ勇気出しました。吉川さん、私、本気ですから」
線香花火の火が落ちる。
「あの……、俺は……、その」
「いいんです。吉川さんの立場は父からも聞いています。今は、私の想いを知っていてさえくれれば」
「……わかった」
あやめが新しく出した線香花火に火がつく。チリチリと発せられる小さな火花を、ふたりで黙って眺めた。
◆
海水浴二日目は、大浴場で風呂に入り、海で遊び、帰りは横須賀に寄り道して米海軍・海上自衛隊の船や記念艦三笠をみてから、順番にそれぞれの家へと帰った。
セヴェリナさんが九条家の小山の麓の家まで乗せてくれたことに礼をいい、俺とファナは降りる。
九条家の申し出を受け入れて、魔導館とエレベーターで繋がっている麓の家に三人で住むことにしたのだ。
セヴェリナさんとあやめに対して手を振り見送った後、俺とファナは既にロッシュが帰っている様子の家に入る。
「ただいまー」
「おう、お帰りさん。楽しめたかぁ?」
「ああ。楽しかった」
「それは良かった」
「ずいぶんと片付いたな」
「ホント、綺麗になってる」
「ああ。今日は休みもらって片付けたんだ。少しは人心地つくだろ」
「吸血鬼の報告はもう読んだか」
「読んだ。変わり種みたいだったな。殺したこと、後悔してないか」
「それは、していない。いつかはバレて人間と騒動になった。それを未然に防いだと考えている」
「そうだな。それは正しいよ、マレ。後悔がないなら良かった」
日本の政治家から、日本に迷い込んだ魔物の駆除を直接頼まれているのはロッシュだ。ロッシュの立場からみても、俺の行動は正しいはずだ。
俺は自分の感情から意識をそらしたくて、ロッシュと九条さんとの細かな取り決めがどう進展したか訪ねる。
「ああ。マスコミ対応や、資金面、人脈など、かなり積極的に支援してもらえそうだ。貿易についても、一部は具体的な品目まで決まってきている。かなり活動が活発化できそうだ」
「技術面での協力は?」
「安定して世界転移ができる技術が確立すれば、人材を派遣してくれるらしい。こちらの技術者を研修に来させることも検討している」
「問題は、魔王諸国がどう動くかだな」
現在、魔人の国は五つの魔王国と無数の地方軍閥にわかれて相争っている。女神の影を始め、人間の国の諜報機関がそう仕向けているからだ。
そのような中、人間の国、ましてや異世界にまで手を回す余裕がある勢力はいないといってよい。
しかし、異世界に日本という無防備な大国があることは魔人の国々にも知られつつあり、ルミアスが交流を始めることで、彼らの食指が刺激されることも考えられる。
彼らの邪魔が入るようでは、日本政府がルミアスとの貿易に消極的になってしまうリスクがある。
「人間の国同士は、調整がつくだろうか」
「魔人や魔物と違って、イレギュラーに日本に迷い込むことはないからな。ルミアス領に世界間ゲートが存在することくらいは知ってるかもしれんが、その先に何があるかまでは考えていなさそうだ」
人間の国も、現在五つの勢力にわかれている。ルミアス皇国、神聖帝国、ソユル教皇庁、フィリナ王国、ロルーナ共和国の五つだ。
幸いなことに、以前の大戦で宗教的統一が成立したため、人間の国同士に大きな争いになるような火種はない。
多少の領土問題や宗教的地位を巡る争いはあれ、人間が絶滅しかねないような戦争が始まることはないだろう。
それだけに、世界間ゲートが富を生み出すと知れば、ルミアスがその富を独占することに反発する勢力はありそうだ。
そのとき、九条家の施設内電話の音が響く。俺が急いで受話器をとると、セヴェリナさんからの緊迫した連絡が届いた。
横磯市中心部に、無数の
俺はロッシュにかいつまんで状況を報告する。
テレビをつけると、早くもヘリコプターで中継をしている局がある。
「こっちは任せた。俺はとにかく現場に急ぐ」
「わかった。ファナはここに残れ」
「はいよ」
俺は家を飛び出ると、自分に迷彩魔法と身体強化魔法をかけ、全力でジャンプする。家の前のアパートの屋上につき、次のビルに飛び移る。
テレビ局に先に見つけられた以上、姿を見せず、できるだけ早く収束させなければならない。
「全く、面倒くせぇ」
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