第22話 バリスティックナイフ
銃声が響き、つい先ほどまで私の足があった場所を貫いて弾丸が地面をえぐった。
銃声からして、標的の拳銃は.45口径のようだ。威力は大きいが貫通力は低い。標的が部下をハチの巣にすることをいとわない性格でも、この“盾”で十分防ぐことができる。
突き刺したカランビットを取っ手のように引っ張り、元兵士の体を肉の盾として扱いつつ、ダガーで腹の右側あたりを3回刺して捻じった。
張り手の仕返しとしてはおつりが出るほどのナイフを食らわせ、肝臓をズダズダにしてやる。1回刺しただけでも大量の出血に見舞われ、1分で意識が失われる場所だ。
こいつが死ぬのが確定したとき、さらに銃声が鳴って、元兵士の体が震えた。標的が私の“盾”に弾を撃ち込んでいる。身内だからと言って躊躇する人間ではなかったらしい。
容赦なく弾丸が撃ち込まれてくるが、鉛玉は元兵士の体を貫いてくることはない。
死ぬのが1分後から今に変わった元兵士の体から力が抜ける。私の腕力ではその重さは支えきれない。
私は踏み込んで、死にゆく男の体を肩で支えるようにしながら、ダガーを引き抜いて前に向けた。ちょうど、銃撃戦で遮蔽物の陰から銃を突き出すのと同じように。
死体の脇腹から片目だけのぞかせ、前に向けたダガーの刀身と、拳銃をこちらに向けている標的の姿が重なったとき、私はダガーの鍔を親指で横にずらした。
金属音とともに、ダガーの刀身が猛烈な勢いで射出された。
このダガーは柄の中に強力なスプリングが入っており、鍔の部分をずらすとロックが解除され、刀身が茎ごと飛び出す。私の全体重をかけないと縮められないほど強いスプリングの力が、200gにも満たない刀身に込められて撃ち出される。
ナイフを投げるよりも少ない動作で、はるかに正確に10m先でも人間の頭蓋骨を貫くことさえできる。
胴体のどこかに当たれば、12cmの刃が根元までめり込むことになる。刺さって死ねばそれでよし、即死しなくても、弱ったところでとどめを刺してやればいい。
放たれた刃が肉に突き刺さるのを期待したが、標的が体の前で銃を持った手を横に振りはらうと、金属同士がぶつかる音が聞こえた。標的の手から銃が弾き飛ばされ、銃のフレームに刃が突き刺さっているのが見えた。
驚いたことに、矢と同等以上の速度で飛んでくるナイフを拳銃で受け止めたらしい。年に見合わない、驚くべき反応速度と動体視力だ。
だが、これで標的の武器はなくなった。私は元兵士の死体を放り出し、標的へと突進した。柄だけになったダガーを捨て、ベルトの後ろにつけていた鞘からナイフを引き抜く。
人間は本能的に手を前に出して体をかばう。ナイフを相手にした格闘術でも、ナイフを持っている手を押さえるために腕を出す。
だから、まずは指を切り飛ばす。ひるんだところで目を切りつけ、続いて太ももの側面の神経が集まる部分を刺す。それから足を払って倒し、腎臓を刺した後に喉を掻っ捌く。
余計な抵抗をされる前に速攻で殺す。躍りかかろうとしたとき、標的の手が腰の後ろに回された。ちょうど私が先ほどしたのと同じように。
制動をかけた瞬間、抜き出された標的の腕がヘビのようにしなって繰り出されてきた。銀色の光を伴って、私の顔があったはずの位置を通過する。
私は軽くステップして距離を取った。これは予想外だ。
標的は槍の穂先のような形状のダガーを手にしていた。刀身の中ほどの部分が鋸刃になっている。見たところでは、刃渡りは16.5cm。
柄を握る手のスタイルは、親指をヒルトに添えたサーベルグリップ。刃先もふらつかずに、見事に定まっている。右手の指の腹には胼胝が出来ていることだろう。
つまりは私の同類だ。
仲介業者がよこした資料には、そんなことは書いていなかった。情報を受け取っている顧客としては、後でクレームを入れてやるべきだろう。
こいつに殺されずに仕事を成し遂げられれば、の話だが。
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