第8話 雑魚、VTuberとしてのアバターを見せてもらう

「まずはVTuberとして活動するその根本になるところ!! つまりキャラクターをお見せしますわ!!! まずは獅子野虎子!!」


 スクリーンには女の子のイラストが映し出される。

 制服姿の女の子だ。

 髪を乱雑に後ろに結んでいる姿や、気だるげにしている様子は実際の獅子野さんと似ていた。

 正確にはめそめそしだす前の獅子野さんではあるが。

 真っ白な髪で目の色が青いところは当人と異なってはいたが、確実に獅子野さんを意識して作成されたイラストだろう。


「おお…… 私がこの子になれるっスか!? 名前はなんて言うんスか!?」

「その通りですわ! 名前は寅隈らび!!」

「寅隈らび……! らび……? ど、どんな子なんですか!」

「設定についてはこんなかんじですわーー!!」


 画面には箇条書きで設定が映し出された。


 ・高校一年生

 ・ゲーム好き

 ・ナメられたくないと思って強気な態度を取るが実はビビりな一面も

 ・らびと呼ばれるのをこそばゆく思っている


 なんだか聞き覚えというか見覚えがあるような設定だった。


「なんかこれってあたしにかなり近いんですけど……?」

「その通りですわ!!! あなたたちに全く別の人としてロールプレイする演技力なんて期待してませんわーー!!!!」

「あ、そうッスよね」


 獅子野さんは安心したようながっかりしたような、複雑そうな表情だった。


「初期は今日の最初みたいなスタイルで行ってもらいますわー!!!」

「了解ッス」

「途中からボロを出して今の感じでいってもらいますわー!!」

「それも了解ッスけどそんな自然と出来る気はしないッスね……」


 出来る気がしないと言いながらも、獅子野さんの表情は嬉しそうだ。

 獅子野さんはなんだかんだ言いつつも、虎隈らびというキャラクターを気に入って入るようだ。


「続いて倉林詠! あなたはこちらですわ!!」


 スクリーンが切り替わり、また別のイラストが映し出される。

 同じく制服姿の女の子だ。

 虎隈らびは気の強そうなイメージだったが、このキャラクターは大人しそうなイメージを受ける。

 垂れ目。真っすぐな長い黒髪。

 獅子野さんと虎隈らび以上に、倉林さんとこのキャラクターは似ていた。


「お、お名前はなんて言うんですか……?」

「夜見山月子といいますわ!!! 設定はこんなかんじですわ!!」


 ・高校一年生

 ・音楽好き

 ・臆病で引っ込み思案だが音楽のことになると豹変する

 ・自分に自信がないわりに歌を聞かせるのが好きな妙なところがある


「よみやまつきこちゃん……」


 獅子野さんの反応とは対照的に、倉林さんは不安そうだ。


「この子……可愛すぎませんか……?」

「可愛いのは当たり前ですわーー!!!!」

「で、でも私がこの子になるんですよね……? 全然違いませんか……?」


 どうやら倉林さんはイラストと自分を比較して自信がないようだ。


「本人より可愛いイラストになるのは当然ですわー!!! むしろそうでなかったら意味がないですわーー!!!」

「う、うーん、それはそうかもしれないですけど」


 倉林さんはそれでも不安そうだ。

 何か励ますような言葉をかけてあげたい。


「むしろ倉林さんによく似ていると思いますよ」

「えっ」


 急に声をかけたせいか、倉林さんはびっくりしている。

 僕は黄金崎さんの方を見て尋ねる。


「夜見山月子というキャラクターも虎隈らびというキャラクターも、言ってみればあてがきされたものですよね?」

「その通りですわ!!!」

「あてがき……?」


 倉林さんは首をかしげている。


「あてがきとは、演じる人を決めておいてから脚本を書くことを言います。今回の場合は、倉林さんがこのキャラクターを演じることを前提にして、このキャラクターは生み出されたということです」

「え、えぇ……? ほ、本当に……?」

「本当ですわ!!」


 倉林さんはそれを聞いて、まじまじと夜見山月子を眺めた。


「もしそうなら……嬉しいです……」


 倉林さんは顔を赤らめていった。


「では続いて久我優斗!!」


 画面に映し出されたのは、青色の髪で眼鏡をかけた、どこかキザにも感じられる男の子だ。

 なんだか融通がきかなさそうな印象を持ってしまう。

 これが僕のイメージということなのか……?


「このキャラクターのお名前はなんというんですか?」

「由宇数人といいますわ!!」

「ゆう、かずひと、ですか」


 画面に映し出される漢字のイメージを見ると、理屈っぽい雰囲気がある。

 キャラクターのイメージに寄せている、ということだろう。


「設定はこんなかんじですわ!!」


 ・高校一年生

 ・クソ真面目

 ・理路整然としていて頭脳派なイメージを持たれるが、天然なところや世間ずれしてるところがある

 ・自己評価が死ぬほど低いが、見た目と声が良い


「これ本当に僕をイメージしてますか?」

「ぴったりですわーーーー!!!!!」


 納得できなかった。

 前半はともかく、後半二つはどういうことなんだろうか。


「お二人はどう思います?」


 倉林さんと獅子野さんに尋ねる。


「あの、すごく、ぴったりだと思います」

「完璧ッスよ」

「……そうですか」


 二人とも何故か僕よりも満足げにしている。

 なぜだろうか。


「最後に私ですわーー!!!」


 そして画面に映し出されるのは金ぴかのお嬢様のイラスト。


 あまりにも見覚えがあるというか、黄金崎さんそのものと言ってもいいぐらい黄金崎さんだった。


「名前はなんていうんですか?」

「黄金崎綾乃ですわーーー!!!!!!」

「そのままじゃないですか」

「逆ですわ」


 黄金崎さんは不敵に笑う。


「逆、というのはどういうことですか?」

「私がこの黄金崎綾乃というキャラクターに寄っているんですわ」

「……はい?」


 まさか、と思いながら僕は尋ねる。


「もしかして黄金崎という名前は……」

「私の本名ではございませんわーーー!!!!!」


 僕たちは全員、黄金崎さんに恐怖した。

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