受験に失敗した真面目だげが取り柄の雑魚だけどオタクのお嬢様に拾われてなぜかVTuberをやることになった。

壬隅晃

第1話 雑魚、お嬢様と出会う

 受験が失敗したぐらいで死にはしない。

 それは本当にその通りだ。

 だが、自分の人生の大きな転換点になり、そこからどうしようもなく人生が失敗に傾くことだってある。

 今まさに自分がそうなっているのではないか。


 最難関の国立高校の合格発表の帰り道、そんなことを思いながらトボトボと歩いているうちに気づけば家の前だった。


「叔父さん、なんて言うかな……」


 こんな暗い顔をした人間が合格しているわけもなく、僕は高校受験に失敗した。

 そのことを叔父さんに報告しなくてはいけない。


 家の前でぼんやりと突っ立っていると走馬灯のように過去のことが思い出される。


 幼いころに両親を事故で亡くした僕を引き取ってくれたのが叔父の幸一さんだ。

 叔父さんは口癖のようにこう言っていた。


『自分に何が出来るのか、何をやりたいのか。まず見つけなさい。私の役目はそれを支えることだ』


 この言葉の通り、叔父さんは何から何まで僕のやることを支えてくれた。

 自分の出来ることを探しだすために、ありとあらゆることに手を出した。

 小学一年生から中学三年生まで僕は色んな習い事をした。

 サッカー、野球、テニス、陸上、水泳といったスポーツから絵画、演劇、歌唱といった芸術まで、時間を決めて取り組み続けた。

 ……しかし、どれも一流の資質とは程遠かった。

 この先どんな努力をしたとしてもたかがしれているだろうと客観的に判断できた。

 だからせめて学業はと思っていたが、それもダメだった。


「はぁ……」


 空を眺める。

 青い。雲一つない。

 思えばこんな無為な時間を過ごすのは久しぶりだ。

 分単位でスケジュールを決めて何かに打ち込んできた。


 来年からは滑り止めで受けた私立高校に特待生として入学することになるだろう。

 学費は免除されるし、一般的な私立高校に入学するよりはよほどお安くすむ。

 それがそんなに悪いことだろうか?

 僕はどうしてこんなにも絶望しているのだろうか。


「ウジウジしすぎですわーーーー!!!!!」


 突然聞こえてきた底抜けに明るい声に思わず意識が飛びかける。


「え、あの、え?」


 視界をその声の方に向けると、声の主と目が合う。

 金髪。ドリルのようにうねうねとした髪型。

 自信満ち溢れた笑顔を浮かべる、僕と同い年くらいであろう少女。

 漫画やアニメで見るようなお嬢様だ。


 そのお嬢様は叔父さんの家の中から扉を開け放って現れた。

 いったいどうして?


「久我幸一さんのお知り合いですか?」

「そんなのなんだっていいですわ! 早く家に入っていらして!!」

「あ、はい」


 言われるがままに僕は家に入り、居間のテーブルで彼女と対面した。

 なんで?


「まずはこちらをお読みくださいまし!!!」


 そう言って彼女は何かのパンフレット、僕に差し向ける。


「どうも……」


 それは学校のパンフレットだった。

 聞いたこともなかったが、どうやら都内にある私立の高校らしい。


「四月からあなたにはここに通ってもらいますわーー!!!!」

「……え?」

「通ってもらいますわー!!!」

「それは聞こえているんですけどもね」


 新手の訪問販売とか詐欺とかそういう手合いなのだろうか?

 落ち込んでいる受験生をターゲットにするのはタチが悪いのではないか?


「あなたの叔父の幸一さんには了承をもらってますわーーー!!!!」

「いやいやそんなワケないでしょう」

「こちら電話がつながってるのでご確認お願いしますわーーー!!!」


 彼女は手元のスマホをこちらに差し向ける。

 どうやら通話中のようだ。


「優斗か?」

「お、叔父さん!」

「了承したというのは本当だ」

「叔父さん!?」

「寮が用意されているそうだ。寂しくなるがお別れだ」

「いやいや待って叔父さん!?」

「そこの黄金崎さんから優斗のことは逐一報告を受けることになっているから、もしもの時は大丈夫だ」

「もしもの時はまさに今この時かもしれませんよ叔父さん!?」

「詳しいことは黄金崎さんから聞くといい。では」

「ちょ、叔父さ……!」


 通話は切れた。

 正確には目の前の黄金崎さんという名前らしいお嬢様が切った。


「お分かりいただけましたかーーー!!!」

「いや全然分かりませんけど!?」

「ではさらに詳しいことは向こうでお話しますわーーー!!! おいでなさい!!」


 黄金崎さんがそういうとどこからともなく黒服の男が現れた。


「「久我優斗様、どうぞこちらへ」」

「え、あの、え、は、はい、自分で歩けますので、はい」


 屈強な男に両腕を捕まれて連行されたまま再び家の外へ。


「「どうぞ中へ」」


 いつのまに来ていたのか、黒塗りのリムジンの中へと押し込まれ、扉を閉じられる。


「出してよいですわーー!!!」


 既にリムジンの中にいた黄金崎さんがそう言うと、リムジンは動き出してしまった。

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