『COLORS』

黝簾(ゆうれん)

偽色 ーFAKE COLORー

Prologue

第1話

初投稿です。

2023.5.7改稿。

1話当たりの文字数が少ないとのご意見もいただいたので第3話以降の分を数話分ずつ纏めました。

もし読みづらいなどのご意見がありましたらコメントにてお聞かせください。

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prologue


 風が流れる。乾いた岩砂漠を渡る風。

 滅多に人が訪れることのない場所。

 正面奥には『City』が、右手後方には時折輝くものがかすかに見えた。

 そんな切り立った断崖にも近い岩山の上に一つの影がたたずんでいる。


「こんなところで何をしているんだい?」


 人影は不意に呼びかけられても慌てた様子なく振り返る。

 その視線の先にはよく知った人物が岩に軽くもたれるようにして立っていた。

 誰にも言わずに来たが、この相棒にはすべてお見通しだったよう。だがそのことを不満に思う風もなく、何事もなかったように投げた視線を戻す。


「ああ、『City』を見ていた。これからあの町で面白いことが起こるからね」


 少々の間をおいてそっけなく言われたその言葉の響きに相棒は小さく笑う。

 それは今までの長い付き合いでお互いの思考が大体分かってしまうが故に漏れたものだった。


「面白いことが『起こる』ではなく『起こす』の間違いでは?」

「さぁ?ただここ暫く退屈な日が続いていたからね。暇を持て余していたのは確かだけど」


 分かっていつつ聞き返すと、半ば予想通りの含みある口ぶりの返答が返ってくる。

 背を向け、街を見下ろす人物に相棒は肩をすくめると歩みを進めて隣に並び同じように『City』へと瞳を向けた。

 二人の瞳に映るのは高い城壁に囲まれた大きな都市。

 その北側には城のようでもあり、教会のようにも見える巨大な建物が『City』を守るように建っているのが見て取れた。


「まぁ久しぶりの事だし、あまり羽目を外さない程度にするといい」


 何気なく言われた物騒な許可ともいえるその台詞に先の人物の瞳が輝く。

 何かを企んでいるかのような雰囲気をまとって楽しそうに笑みを浮かべる姿に許可を出した方も苦笑する。


「さ、そろそろ行かないと家にたどり着くころには日が暮れてしまうよ」

「うん?もうそんな時間か?」


 相棒に促されてようやく自分がかなり長くこの場所にいたことに気づくと、最後にちらりと『City』へと視線を投げてからくるりと踵を返す。

そして相棒のことなど全く気にせず一人近くに止めていた大型のエア・バイクにまたがると勢いよく発進させた。

 急な岩場をリズムよくノン・ブレーキで一気に下っていくのを見届けてから残された相棒もまたエア・バイクで同じルートをいとも易々と下って行った





 人気のなくなった岩場の上にまた強い風が吹く。

 風の渦の中で聞こえた笑い声。含み声。

 その声を聴く者はいなかったが聞こえたとしても正確な意味をとらえることは難しかっただろう。

 なぜならそれは人の使う言葉ではなかったのだから。




 そして、世界が再び変わろうとしていた。


 舞台は三十世紀半ば。伝説が動き出す。


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