邪神2
パウは槍に炎の精霊を宿して言った。
「この槍を憑り代にお捧げしマス。炎の精霊キーゼェコニィ。今こそ顕現しタマエ……」
槍は橙色の炎に包まれた一羽の鳥に姿を変えた。矢じりは鋭い
キーゼェコニィは舞い上がってモレクに襲いかかった。モレクはキーゼェコニィの嘴や鉤爪で攻撃されると青色の血を流し、地獄の底から響くような大絶叫をあげた。
パラケルススが展開したアストラル体が一際強く輝いた。それを合図にパラケルススが祈りを捧げ始めた。
「殉教者の血は祭壇で叫ぶ。我等の流した血の仇はここに。永劫の闇に閉ざす権威を持つ者よ。我が血を代償に乞う。彼の邪悪を闇に繋ぎ留め給え!」
パラケルススのアストラル体が溶けて赤黒い血の鎖に変わっていく。血の鎖の先は鋭い楔になっておりそれがモレクめがけて襲いかかった。
キーゼェコニィを押さえつけて羽を毟ることに夢中になっていた邪神は、パラケルススの魔法に気付くのが一瞬遅れた。
モレクは慌てて血の楔を躱したがその内の一本が右の足を貫いた。モレクは楔を抜こうともがいたが、楔に繋がった鎖は、モレクの右足に巻き付き、きつく食い込んで離さない。
パラケルススの赤い魔法陣が黒い
「永遠の暗闇に封印されるがよい!」
パラケルススが叫んで杖を強く地に打ち付けた。モレクはそれを見るやいなや、自分の足を引きちぎってパラケルススの方へと襲いかかった。
パラケルススは慌てて杖でもう一度地面を打った。すると激しい光がモレクとパラケルススを包んだ。
モレクは光の中から飛び出すと、壁にあった鉄の扉を破壊して中の闇に消えていった。
「パラケルスス!」
ハンニバルが叫んだが返事が無かった。四人は先程までパラケルススがいた場所に向かったが、地面に煤のような黒い跡があるだけで他には何も見つけられなかった。
「行こう…ネロに合流しなくては…」
ハンニバルはパウに肩を借りて階段を降りていった。パウは柄の一部だけになった槍を杖にしてハンニバルを支えた。パウの槍はキーゼェコニィと共に燃え尽きてしまったのだ。
カインとスーは蜥蜴の姿のままで、ハンニバルとパウを残し急いでネロのもとに向かって走った。
ネロは上から聞こえる激しい戦闘音を聞きながらひたすら階段を下っていた。エーテルを研ぎ澄ましてまるで野生の猫のように靭やかに、音もなく階段を降りていった。
しかしある時から戦いの轟音が聞こえなくなった。それが勝利を告げる静けさなのか、聞きたくもない結末ゆえのものなのかネロには知るすべが無かった。
ネロはただただみんなの無事を祈りながら、不安を押し殺して地下への道を走っていた。
すると下にぼんやりと何かが見えた。走りながら目を凝らすと、それは巨大な地下神殿だった。
「あれが地下神殿!」
ネロはさらに速度を上げて走った。自分が無事に神殿に着きさえすれば皆が無事に助かるような気がしたからだ。
いつしかそれは根拠のない確信へと変わって、ネロを突き動かす原動力になっていた。
ベルのことも心配だった。いったいどこに行ったのだろう? せめて無事であって欲しい。
そんなことを思いながら走るうちにネロは穴の底に到着した。
穴の底は平らになっていて、神殿はその中心に佇んでいた。
見ると、神殿は五つの塔で構成されていた。無数の穴が空いた塔が五つ並んだような恰好をしている。
真ん中の塔は一際大きく背も高く、その両脇に二つの塔を従えていた。階段の終点からは、神殿に向かって真っ直ぐに道が伸びており、道の両脇には頭蓋骨の灯籠がずらりと並んでいた。
ネロはふと穴の壁に目をやった。壁には踊り場にあったものと同じ、鉄の扉がいくつも設けられていた。
ぞくりと嫌な予感がして二の腕に鳥肌が立った。
それに急かされるようにしてネロは神殿へと走りだした。
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