双子2

 

 先程の巨人も氷の床の中を泳いでネロ達の方に迫ってきた。ネロはベルの手を引いて通路へと走った。

 

「雷神デウスよ。杖に力を」

 

 パラケルススの杖がまばゆい雷に包まれた。

 

 氷の中を泳ぐ巨人はなぜか氷から出てこい。


 スーを抱えたカインとハンニバルが新手の巨人の周りを飛び回って逃げているのがネロの目に止まった。


 ネロはもしやと思い巨人が二人共視界に入る場所を探した。

 

「ベル! 一緒に確かめて!」


 ネロはベルに向かって言った。ベルは少し困惑した顔をしたが、すぐにネロに従って付いていった。

 

 パウは炎の槍を構え、パラケルススは雷の杖を構え、巨人の様子を伺っていた。巨人は二人を睨みつけながら時折、仲間の巨人の方に目をやった。

 

「なぜ出て来ないデス!?」

 

 パウがパラケルススに叫ぶ。

 

「分からん!!」


 パラケルススも巨人を睨んだまま言った。

 

 すると突然ハンニバルたちと戦っていた巨人が下半身を氷の中に沈めた。それを合図にもうひとりの巨人がザブンと氷から半身を乗り出してパウとパラケルススを弾き飛ばした。

 

 巨人はすぐに追撃せずにザブザブと氷を泳ぎながらゆっくりとパラケルスス達に近づいていく。

 

「やっぱりだ!! みんな!! こいつら合わせて一人分しか氷から出られないんだ!」


 ネロが叫んだ。

 

 一行はネロの声を聞くと戦い方を変え、どちらかの巨人の身体が半分以上、氷の中に入らないように調節しながら戦った。


 そうすることで、巨人の動きは氷の海に阻まれて格段に遅くなったし、あの恐ろしい跳躍も封じることができた。


 みんなが巨人を出口から出来るだけ離れるように誘導しているのが上から見るネロとベルには分かった。

 

 それに気が付いた二人は、すぐに飛び出せるように準備を整えた。ネロはベルを抱えて体中のエーテルを足に集めるイメージをした。

 

 巨人たちが大階段のすぐ下まで来た時、ネロはベルを抱えて出口に向かって飛び出した。

 

 それに気がついた巨人が慌てて氷に潜ろうとする。しかしハンニバルとパラケルススがそれを許さなかった。

 

「これでも喰らえ!」


 ハンニバルは床の氷に向けて黒御神槌を放った。パラケルススもそれに合わせて杖から雷を放ち、ハンニバルの技を後押しした。

 

 黒と白の雷に打たれた氷は粉々に砕け散った。床の氷が砕けて巨人の身体は氷の上に露わになった。

 

 すると巨人たちの身体にプツプツとどす黒い痣が浮かび上がってきた。痣からは血が滲み巨人たちは悲痛な叫び声を上げた。

 

「嗚呼ああああああああああ!!」

 

 どうやら一人分以上の面積が氷の外に出ると激痛が走る呪いがかけられているようだった。

 

 片方の巨人はすぐに氷の中に潜った。残された巨人は目から赤い涙を流しながら鬼の形相で追いかけてきた。

 

「ぎぎぎ貴ぃ様ぁまらあああああああ!!」

 

 一行は怒り狂う巨人をよそに城の外に飛び出した。扉の隙間から巨人の眼がこちらを覗いている。


 ふぅふぅと荒い息遣いが聞こえてきたが巨人は一行を睨みつけるばかりだった。


 やがて巨人は凄まじい怒号を上げて、口惜しそうに城の奥へと帰っていった。

 

 ネロはみんなが無事に帰ってきたことを確認するとほっと胸を撫で下ろした。

 

「良かった一時はどうなるかと……」

 

「見て!」


 ネロが喋り終える前にベルが叫んだ。


 ベルの叫び声で一行は周囲に目をやった。見ると氷の壁の中に無数の雪噛みが蠢いていた。ガチガチと歯を鳴らしながら今にもこちらに襲いかかってきそうだ。

 

「馬に乗れ!! この洞窟を抜けるんじゃ!!」

 

 一行は必死で馬を駆った。洞窟の壁や床や天井から、雪噛みが大口を開けて飛び交う様は絶望的な光景だった。


 やっと洞窟から抜け出したが、洞窟から出た後も雪噛みの猛追は止まなかった。

 

「もう駄目デス! 追いつかれマス!」

 

「なんとかならねぇのかよ!?」


 後方からは雪噛みの大群が雪崩のごとく追いかけてくる。

 

 パラケルススはしばらく黙って考え込むとハンニバルに向かって叫んだ。

 

「仕方あるまい……後のことは頼むぞハンニバル」


 パラケルススが呪文を唱えようとしたときだった。

 

 ガツン……

 

 何かがぶつかる音がした。

 

 一行がふり返るとネロが堕天の燈火で雪噛みの一匹を打ったところだった。

 

「ネロ!!!!」


 パラケルススが叫んだがもう遅かった。

 

 黒い炎を身にまとった雪噛みは、仲間にぶつかると次々と黒い炎を引火させていった。

 

 氷の中に潜っても消えることのない黒い炎は雪噛みの群れを焼き尽くしていった。


 ジャアアオオ、ジャアアオオと雪噛み達の断末魔が雪原に響きわたる。

 

 黒い炎と真っ白な雪原を背景にネロは立っていた。しばらく燃える雪噛み達を見つめていたネロだったがおもむろに振り返って一行を見た。

 

「仲間が傷付くのはもう見たくないんだ」


 ネロは暗い炎に横顔を照らされながらつぶやいた。

 

 ネロの手のからぶら下がったランタンには、さらに大きなヒビが走り、ガタガタと音を立てて風に揺れるのだった。

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