双子1


 上階から響く地響きはどうやら移動しているようだった。それがこちらに近づいているのか、あるいは遠ざかっているのかは判断できない。

 

「上におるようじゃの……」


 パラケルススが天井を見つめてつぶやく。

 

「灯台ってのは普通に考えりゃ最上階にあるんじゃないのか?」


 カインの言葉に一同は小さく身震いした。

 

「さっきの本に書いてある内容からすれば巨人はこの城をでられないはずだ。エントランスにいればすぐに城の外に逃げられる」


 ハンニバルはそう言って入ってきた扉を指さした。

 

「ネロ達はここで引き続き待機して、俺とカインとパウが密かに灯台への道を探す」

 

 ハンニバルがそう続けるも誰もハンニバルの言葉を聞いていなかった。ハンニバルも異変を感じ取ったのかゆっくりと出口の方に目をやった。

 



 出口の扉の前には床から半分だけ突き出した巨大な顔がこちらを覗いていた。


 青白い肌に青い目。濡れた黒い髪がベッタリと顔に張り付いている。鼻は無く、本来鼻がある場所に穴が二つ開いていた。

 

 巨人はさらに顔を出して首から上が氷の上に出てきた。口をぐぁぱあと開くと、巨大な口の口角をあ吊り上げてヒィヒィヒィヒィと笑い声を上げた。

 

「みぃつけたぁあぞぉぉぉおお!!」


 巨人が大声で叫んだ。あまりの声の大きさに耳がピーンとなって、しばらく何の音も聞こえなくなるほどだった。

 

 誰が言うでもなく一行は大階段に向けて走り出した。巨人はそれ以上氷から出られないのか氷の中でまごついていた。

 

「あいつ氷から出られねぇのか!?」


 カインが叫ぶと巨人がずるりと氷の中から這い出してきた。

 

「全然出れマス!!」


 パウがカインに向かって叫んだ。

 

「俺が悪いみたいに叫ぶんじゃねぇよ!」


 カインが走りながら言い返す。

 

 ふと見るとスーが階段の上に立ち止まっている。

 

「スー!!」


 ネロが叫ぶとスーは行きなと叫び返して弓を構えた。

 

 スーは巨人に向けて矢を何本も放った。その内の何本かが巨人に刺さると、巨人はスーに向かって走り出した。

 


「ツァガーン!! 他の子達を連れて外へ!!」



 スーが見計らったかのようにツァガーンに指示を出した。ツァガーンは馬達を連れて出口に走っていった。

 

 スーは馬を逃がすために囮になったのだ。スーの意図にいち早く気づいたカインがスーの方に向かってすごい速さで飛んでいく。

 

 巨人はスーのいる階段の手すりめがけてものすごい速さで飛びついた。見た目と違って恐ろしい身軽さだった。

 

 スーが階段から飛び降りてエントランスをゴロゴロと転がると、そこに巨人が再び飛びかかる。

 

「危ない!」


 ベルは思わず目を覆った。

 

 ベルが恐る恐る目を開けると、カインがすんでのところでスーを抱えて巨人から逃れるのが見えた。

 

 カイン達を追う巨人の背に向けて、ハンニバルがバリバリと音を立てる黒いエーテルの斬撃を飛ばした。

 

黒御神槌くろみかづち!!」


 雷鳴が響いて巨人の背中にハンニバルの渾身の一撃が命中した。

 

 巨人は背中から血を流しながら吹き飛ばされ、凄まじい音をたてて壁に激突した。

 

「やったか!?」


 カインがスーを抱えて走りながら叫んだ。

 

「いや。まだだ」


 ハンニバルは冷や汗をながしている。

 

 ハンニバルの視線の先には氷の中からこちらを睨む、もう一体の巨人の姿があった。その巨人は先程の巨人と瓜二つの姿をしている。


 傷ついた巨人を氷のなかに引きずり込むと背中に何かを施し始めた。すると傷ついた巨人の傷が半分に癒えて、かわりに新しく現れた巨人の背中に真新しい傷が現れた。

 

じゃ! 奴らは双子じゃ! 気をつけろ!!」


 パラケルススが叫ぶと同時に新しく来た巨人が氷から飛び出してきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る