奴隷病棟
「あそこなら馬ごと隠れられそうだよ!」
スーが大きな立方体の建物を指差して言った。
「ソコは邪悪な場所デス。入ってはいけまセン……」
パウはそう言って立ちすくんでいた。
「パウ。今はそれどころじゃない。たしかに嫌な感じがする建物だがあの化け物よりは幾分かましだ」
ハンニバルがパウをなだめた。
渋々ハンニバルに従うパウを連れて、一行は白いレンガ造りの立方体の中へと入っていった。
建物の中は薄水色の光を放つ不思議な鉱石が等間隔で設置されており暗闇ではなかった。薄明かりの中に目を凝らすと、そこにはおぞましい光景が広がっていた。
四角い大広間には、たくさんの台が並べられており、どの台にも皮の帯が四本付属されていた。
台の横にはカラカラと音を立てて進む台車がいくつも置かれており、そこには不吉な形の器具がいくつも用意されていた。
台は黒い染みで薄汚れており、いくつかの台には、まだ奴隷の亡骸が放置されていた。
放置された奴隷は皆一様に、腹を割かれて目玉をくり抜かれ四肢が切断されていた。切断された四肢はやはり綺麗に治療されており、四肢の切断で絶命することはないように注意が施されていた。
酷い臭いに口元を抑えながら一同は大広間の奥へと進んでいった。
大広間から北に一本、東に一本、西に一本と、三本の通路が伸びており一同は北の通路を選んだ。
通路の両側には扉がいくつもあったが、監獄を思わせるような重たい鉄の扉は開かなかった。
「静かに…」
突然ハンニバルが唇に人差し指を当てて言った。
耳を澄ますと、通路の奥からすすり泣くような声が聞こえてくる。ハンニバルが先頭に立ち一同は馬から降りて忍び足で声の方に向かった。見ると奥の扉の隙間から松明の明かりが漏れ出していた。
部屋を覗き込むとハンニバルは一瞬静止してから、腰のナイフを手にとって扉をそっと開けた。ハンニバルが風のように中に滑り込むと、すぐさまギャッという悲鳴が聞こえてきた。
ネロ達が続いて中に入ると白衣を着たジーンエイプの老人が首から血を流して絶命していた。その顔は恐怖に引きつっていた。
ネロは部屋に置かれた台に目をやった。すると泣きながらこちら見つめる奴隷の男と目が合った。
男に手足は無く、腹に小さな穴が開けられていた。その穴から男の小腸が引きずり出されて、針の付いたオルゴールのような装置に巻きつけられていた。オルゴールのレバーを回せば小腸がどんどん巻き取られる仕掛けのようだった。
「殺してくれ…」
男は泣きながらハンニバルに懇願した。ハンニバルはネロを部屋から出すように目で合図した。スーがネロの肩を抱いてそっと部屋から連れ出した。
部屋からはハンニバルが剣を振り下ろす音に続き、重たい頭蓋が床に落ちる音がズンと響くのだった。
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