親睦会2
酒場の入り口には鉄で出来た竜の留め具に木板がぶら下げられていた。その板切れには共通語で「火垂る」と書かれている。
店の外には酔っ払いが何人も倒れて眠りこけていた。溝に向かって盛大に吐いている者もいる。
「ケガレタ場所! ワタシここ嫌う!」
パウは酔っ払い達に出来るだけ近付かないようにつま先立ちで歩きながら一行の後に続いた。
喚いているパウを無視して扉をくぐるとドアベルが小気味よくカラコロと音を立てた。中は騒がしく活気があり、時折なぜか炎が上がるのだった。
「ドラゴンエールを人数分頼む! あとサンドパイソンのケバブとパラレルベリーのパイも人数分」
「アンタ、この店に来たことがあるのかい?」
スー・アンはカインに尋ねた。
「俺に興味があるのかい? スー・アン」
ニヤリと笑うカインにスー・アンは軽蔑の眼差しを向ける。
「引っ叩かれたいのかい? 興味があるのはあんたが注文した内容だよ! それとみんなもアタシのことはスーで構わないよ」
スーは皆に呼びかけた。
「そんなことどうでもイイ! 地下は悪霊の巣! ここ危険な場所ダ!」
パウはカッと開いた目であたりをキョロキョロと見回している。薄闇の中でパウの褐色の肌は闇と同化し白目だけが浮かび上がっているように見える。
「ハンニバルの旦那! 何か他におすすめはあるかい? ここはあんたの古巣だろ?」
カインはハンニバルに話を振った。ハンニバルは表情を変えずに答える。
「その注文でいいんじゃないか」
そんなやり取りをしているとドラゴンエールと料理が運ばれてきた。ビアマグに並々と注がれたルビー色の液体はまるでマグマのように煮えたぎっていた。それなのにビアマグはキンキンに冷えている。
「ネロ! 大人の世界にようこそ!」
カインはネロの前にビアマグをドンと置いた。
「坊やに飲めるのかい?」
スーが笑ってそう言うので、ネロはビアマグに手を伸ばしグツグツと煮えたぎる冷たい液体を勢いよく飲みこんだ。
「ぶぉおぉおおおおっ…!!」
ドラゴンエールを一口飲み干すやいなや口から赤い炎の息がほとばしった!
「はあっははは!!」
カインとスーが手を叩きながら大声で笑った。パウは小さく震えて笑いを押し殺しているし、ハンニバルまで少し口角が上がっていた。
「熱っ!」
ネロはゲホゲホと口から黒煙を吐きながら大笑いしているカイン達を睨みつけた。
「ひぃーひひひ。悪かったよネロ。ははは。ちゃんと甘くて美味いパイを頼んでおいたからゆるしてくれよ。ドラゴンエールはこの国特産のエールに竜火草を漬け込んだ名物なんだ。竜火草を生で食えばこんなもんじゃないくらい強力な炎を吐き出せるぜ…!!」
カインがネロの背中をバンバン叩きながら笑って言った。仲間たちはカインの目論見どおりすっかり打ち解けた様子だった。
酔もまわったころカインが唐突に立ち上がった。
「よし! ネロ! 女性に対する大人の作法を見せてやる!! しっかり勉強するんだぞ?」
そう言ってカインはスーの方にフラフラと歩いていった。
「よぉスー。この旅の間、何があっても俺がお前を守ってやるよ。約束する」
そう言ってカインはスーのお尻のあたりに手を伸ばし、さりげなくお尻をさすった。
「どうもありがと」
スーはカインの顔を見て微笑んだ。
その瞬間「バチーン!」と雷のような音が鳴り響いてスーのビンタがカインの左頬を直撃した。
それを見たネロは思わずパラレルベリーのパイを吹き出した。
カインが強烈なビンタによろけて転んだ拍子にマントがはだけて左腕が顕になった。二の腕には大きなひび割れがあり、なんとそのひび割れがパチリと開いて大きな目玉がギョロリとあたりを見回した。
巨大な目の周りにはびっしりと文字が彫られていてまるで目玉をそこに閉じ込めているように見えた。
「ケガレタ者! この男神に呪われてイマス!」
パウが叫んでカインに向かって戦う構えを取った。
「おいおい。大丈夫だ。別にお前らにどうこうなるような呪いじゃない」
カインがそう言ってマントで腕を隠しながらパウに歩み寄るとパウは緑の光を纏った掌底をカインに放った。
「はぁああああ!!」
パウの掌底は草原を吹く風のような唸り声をあげた。まともにそれを食らったカインは吹き飛ばされて酒樽の山に突っ込んだ。
ガラガラと積まれた酒樽が崩れ周囲の客達から悲鳴があがる。
「オマエのような者ダレガ信じられマスカ!」
パウはそう言ってカインを睨みつけた。
「奇遇だな。俺もお前さんとは仲良くできそうにないと今思ったぜ」
カインも吹き飛ばされた先から起き上がりパウを睨み返すのだった。
親睦会は険悪な空気で終わりを迎えた。こうして一行の危険な旅が始まるのだった。
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