第8話 密談と目標
『なぁ龍空よ』
「何、獅虎?」
『お前、人と来てるなら言えよ』
「なんのこと?」
雲雀ちゃんと別れた後しばらくしたらシルさんとマイさんが帰ってきた。
二人が言うには重症だったシルさんを優先的に聖女さんが治してくれたみたいだ。
シルさんは少しだるそうにはしてたけど、もう命に別状はないみたいだ。
マイさんには僕が大丈夫だったか心配されたけど、獅虎に会ったことは言わずに「大丈夫でした」とだけ伝えた。
その後は僕が寝泊まりに使っている宿に帰り休憩していた。
そしたら獅虎から通信魔法が届いたので防音結界を張ってから通信を受けた。
『お前なんか忍者っ子みたいな子と一緒だったろ』
「忍者っ子?」
『とぼけんな。上手く気配は隠してたけど、幹部の奴に捕まってたぞ』
「ほんとに分からな……あ」
もしかしたら僕につけられてたかもしれない陰さんかもしれない。
確か見習いって言ってた気がする。
「会ったことないけど知ってるかも」
『どゆこと?』
僕は陰さんのことを獅虎に話した。
『なるほどな。でもどうするか』
「僕も会ってみたい」
陰さんがどんな人なのか一度見てみたい。
『無理に決まってんだろ。お前が助けに来る理由がないし、俺が手引きしたらそれこそ駄目だろうし』
「だよね」
残念だけど陰さんに会うのは諦めるしかない。
「でもいつか魔王を倒しに行くって名目で会えないかな」
『その時は俺か龍空が死ぬ時だろ』
「命からがら逃げれば大丈夫じゃない?」
『そんな簡単に逃げられないだろ』
「転移すればよくない?」
『転移なんかさせたらバレるだろ』
(させたら?)
「するの僕だよ?」
『……龍空転移魔法使えたのか?』
「さっき使えるようになった」
そういえば獅虎に雲雀ちゃんの話をしていなかったので雲雀ちゃんの話をする。
『ほんとに聖女やってたのか』
「うん」
『じゃあ後で雲雀も含めて話すか』
「うん。いつ頃?」
『雲雀が暇になったらでいいんだけど、分かんないよな』
雲雀ちゃんは今、ボイコット中に来ていた患者さんを診ていて忙しい。
また雲雀ちゃんのところに行ってもいいけど、人間とエルフはそこまで仲良くないらしいからやめておく。
『それよりだ。忍者っ子……陰だっけ。とりあえず今は俺の部屋に置いてるけどどうしたものか』
「僕のところに帰って来ても、僕に何かあったら殺されちゃうかもしれないから獅虎が匿ってよ」
もしも僕を見失ったことがバレたら、あの王様に殺されてしまうかもしれない。
そんなのは嫌だ。
『匿うか……奴隷ってことにすれば他の魔族から守ることは出来るけど』
「じゃあそうしよ。いつか陰さんに会いたいな」
獅虎なら陰さんに酷いことはしないし、きっとそれが一番安全だ。
『雲雀にはバレないようにしないとな』
『誰にバレないようにって?』
「あ、雲雀ちゃん」
僕と獅虎が話していたら、いきなり雲雀ちゃんが通信に入り込んできた。
『お前そんな当たり前みたいに入り込んでくんなよ』
『何? エロい話でも……龍空はしないか』
『俺だってしねぇよ』
『別に私は気にしないからいいよ。でも龍空にはすんなよ』
『だからしねぇっての』
なんだか懐かしい。
少し前までは当たり前のことだったけど、この三人で話せることがとても嬉しい。
『龍空?』
『どうしたの? 獅虎に何かされた?』
「ううん。また三人で話せるのが嬉しくて」
『龍空してんな』
『どっかの馬鹿とは大違い』
『誰が馬鹿だ?』
『分かってるから聞いてくるんでしょ?』
「そのやり取りも懐かしいや」
獅虎の言ったことを雲雀ちゃんが馬鹿にして、それに返した獅虎がまた馬鹿にされる。
最終的には僕がごめんなさいさせて終わるけど、今はこのまま聞いていたい。
『龍空、怒ってないか?』
『獅虎が馬鹿だから』
『お前俺と学力変わんないだろが』
『頭が悪いって言われたらすぐ学力の話するあたりも馬鹿』
『あ?』
『返す言葉が見つからなかった?』
「もういいよ」
さすがにこれ以上は駄目な気がしたから止める。
『やばい』
『龍空、悪いのは獅虎だからね』
『おま』
「ごめんなさいは?」
『ほら獅虎』
「雲雀ちゃんも」
『ごめんなさいでした』
雲雀ちゃんはこういう時はすぐに謝る。
『龍空に怒られるのほんとに嫌なんだな』
「獅虎」
『大変申し訳ございませんでした』
『あんたもじゃん』
これで二人とも仲直りだ。
「それよりこれからどうしよっか」
勇者の僕の仕事は魔族に対する抑止力になることだけど、獅虎が一言言えば僕は何もしなくてもいい。
『結局さ。獅虎が魔族止めれば私達って何もしなくていいんだよね』
『そういう訳にもいかないだろ。俺が何もしなかったら魔族の中での俺の立場が悪くなって、勝手する奴らが出てくるぞ』
確かにそうだ。
今被害が少ないのは獅虎が止めてくれてるからだけど、それも長くは続かない。
実際今日も魔族に襲われた訳だし。
「じゃあ魔族達に勇者を殺すことを命じてよ」
『は?』
「それなら魔族達は僕のところにしか来なくて僕もやりたいこと出来るし、他の場所が襲われなければ雲雀ちゃんもやりたいこと出来るでしょ?」
陰さんがいないから僕に命令することは出来ないだろうけど、どこかで見つかって魔族狩りを命令されるよりかはその方がいい。
『でもそれだと龍空の仕事が増えるだろ』
『じゃあ私のとこにも来させていいよ』
『は?』
「雲雀ちゃんは危ないよ」
雲雀ちゃん。聖女さんは魔王を殺せるだけの力があるのは聞いたけど、それでも雲雀ちゃんに危ない目に遭って欲しくない。
『大丈夫だよ。私って基本的に死なないし』
「え?」
『聖女ってね。魔力がある限り自動回復するみたいで魔力がなくならない限りは死なないみたいだよ』
『なんとか並の生命力』
『獅虎次会ったら覚えとけ』
「でも、雲雀ちゃんが危ないのやだよ」
雲雀ちゃんは獅虎がなんと言おうと女の子なのだ。
その雲雀ちゃんに危ない目に遭って欲しくない。
『ほんとに大丈夫なんだけど。龍空は平気なの?』
「なにが?」
『魔族を殺せる?』
「殺さないよ?」
僕は魔族を殺す気はない。
戦う気を無くして帰らせる。
『じゃあ龍空のとこには行かせられないね』
『だな』
「え?」
『龍空が優しいのは美点だけど、そんなんじゃ誰も守れないよ』
雲雀ちゃんの声が真剣な時の少し怖い感じの声になる。
『龍空。殺さないのは勝手だけど、その殺さなかった奴が復讐心を燃やしてなりふり構わずに全部を壊そうとしてもいいのか?』
「そんなの……」
駄目に決まってる。
「なんで二人はそんなに平気なの?」
『俺はやらないから言えた立場じゃないけど、この世界は殺らなきゃ殺られる世界だろ、そんな世界じゃ優しさは弱さになる。別に悪いことじゃないけど、いざという時に何も出来ないんじゃ意味ないから覚悟だけはしとかないとな』
『まぁいざとなったらビビるのが獅虎なんだろうけど』
『否定出来ないから言い返さないぞ』
『つまんない。まぁ私はしなきゃいけないことをするだけだよ。私が殺らなきゃ龍空が大変になるんだったら私が殺る。もう龍空に守られるだけの私じゃないんだよ?』
「僕は雲雀ちゃんを守れたことなんかないよ」
むしろ雲雀ちゃんに守られてばかりだ。
『私は守られてるって分かってるからいいの。それよりどうするの? 龍空が殺らないなら私が一人で殺るけど』
「……僕も殺る。魔物を初めて斬った時は倒れたけど、多分大丈夫」
あの時はシルさんが膝枕をして介抱してくれた。
魔族を斬った時は普通でいられたし、多分大丈夫なはずだ。
『不安になることを言うなよ』
「獅虎からしたら一応部下だけど、いいの?」
『あいつらだって人間やエルフとか他の種族も殺してる訳だから殺されても何も言えないだろ』
『上から指図だけする奴ってうざいよね』
『なんだ、俺に人間やエルフを殺せと?』
『魔王様は考えが物騒で嫌だね』
話してる内容はあれだけど、やっぱりこの三人で話すのは楽しい。
『じゃあとりあえずはそれを続けるか。でもいつかは普通に話せるようにしたいな』
『この世界創った神でも殺す?』
『あぁあの子供』
『あのショタがこの世界のルール作ったみたいだし、殺せなくてもルールを変えさせるぐらいは出来るんじゃないかな?』
もしそんなことが出来たらこの世界でも獅虎と雲雀ちゃんと直接会って話せる。
『じゃあ最終目標は直接会って話すこと。その為に神に会うってことでいいか?』
『獅虎が仕切ってるのが気に食わないけど、それでいいよ』
「僕も」
こうして僕達の密談は終わる。
まぁ夜にまた密談と言う名の愚痴の言い合いが始まったのだけれど。
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