僕は勇者、私は聖女、俺は魔王。〜表では険悪を装って、裏では仲良くやってます〜

とりあえず 鳴

第1話 人生の終わりと人生の始まり

「ごめんね二人とも。もう立てそうにないや」


「同意」


「諦めないで。私が絶対に」


(泣かせちゃった)


 もう言葉も話せない。


 出来るのは泣いている女の子を見ることだけ。


 その涙を拭ってあげることも出来ない。


(ごめんね、獅虎、雲雀ちゃん)


「龍空、龍空。絶対に助ける。私がどんなことをしてでも」


(ありがとう雲雀ちゃん。でももう駄目みたい)


 意識が遠のく。


 遠のいて……。


「……く。龍空、聞いてんのかー」


「雲雀ちゃん?」


 なんだかとてもリアルな夢を見ていたような気がするけど、思い出せない。


 最近やったゲームかな?


「どしたのさ。また夜遅くまで何かしてたの?」


「うーん、何してたっけ?」


「言うと思った」


 僕、青井あおい 龍空りくは呆れられることが多い。


 そしてよく呆れさせてしまうのがこの可愛らしい女の子、朱澤あかざわ 雲雀ひばりちゃんだ。


「龍空のそれはいつものことだろ」


 そしてこのかっこいい男の子が白木 《しらぎ》獅虎しとら


 僕達三人は幼なじみだ。


「龍空はもう少し自分に興味を持った方がいいよ」


「無い訳じゃないんだけど」


「じゃあ昨日のお昼は何食べた?」


 昨日のお昼は雲雀ちゃんと獅虎と一緒に屋上に行って、お弁当になにを詰めてたかな。


「覚えてない」


「じゃあ私と獅虎は何食べてた?」


「雲雀ちゃんがお弁当で中身が卵焼きとたこさんウィンナーとブロッコリーとミニトマトで後、ご飯。獅虎がコンビニで買った焼きそばパンとたまごサンドとメロンパンだよね?」


「ほら自分に興味が無いから自分の食べたの覚えてない。逆に私達のは全部覚えてるんだから」


 そんなことを言われても自分のことは覚えられないのだからしょうがない。


「龍空って勉強も自分で自習すると全然覚えられないけど、俺達が教えたことは全部覚えてるんだよな」


「そうそう。だから今回もテストの順位負けた」


「なんかごめん」


 今回のテストというか、今までのテストで僕は一位を取り続けている。


 それも全部雲雀ちゃんと獅虎の教え方が上手いからだ。


 ちなみに二位と三位は雲雀ちゃんと獅虎がどっちかを取っている。


「運動もそうだよ。自分だとやり方がいまいち分からないのに、私達が教えたら一回で出来るようになるんだから」


「ほんとな。すごいよ龍空は」


「僕はやだけど」


 こんなの二人の努力を奪っているみたいで、いつも自分が嫌になる。


 結局僕は一人では何も出来ないのだから。


「いつも言ってるだろ。俺達が負けてるのは俺達の努力が足りてないからだって」


「そうだよ。私達の努力はそんな簡単に奪われる程安くないんだから」


「それに努力の量なら龍空が一番多いだろ」


「それね」


 僕だって何もしないで二人の力を借りてる訳じゃない。


 自分で試して試して試して、それでも出来なのなら二人に協力を頼む。


 結局いつも二人を頼っているのだけど。


「ほんといつもごめんね」


「今更だろ。幼稚園の時はお遊戯会の練習だったか?」


「小学生の時はリコーダーね」


「中学の時なんかは酷かったよな」


 中学生の時は確か女の子に話しかけられることが増えて、そのことを二人に相談した。


「龍空、好かれてるのに気づかないで私達に相談するんだもん」


「それを雲雀が圧かけて鎮めたんだよな」


「当たり前でしょ。龍空の相手はもっと選ばないと」


 二人はいつも僕のことを考えてくれる。


 二人は僕のことを自分に興味が無いと言うけれど、二人だって自分のことより他人を心配している。


 結局似たもの同士なんだ。


「雲雀が付き合えばいいだろ」


「私が龍空と? ないでしょ」


「雲雀ちゃんに僕は勿体ないよ」


 雲雀ちゃんは月に何回も告白されるようなすごい可愛い女の子だ。


 そんな子と僕なんかが付き合うなんて出来る訳がない。


「今月何回告白された?」


「私は十三回」


「俺は十一回。断っても同じ人が来るんだよな」


「それね。まぁ私達よりも龍空のがやばいだろうけど」


「僕?」


 僕は告白なんてされたことはない。


 確かに女の子に話しかけられることはあるけど『好き』なんて言われたことはない。


「利用、今月末どれぐらいの女子に話しかけられた?」


「数えてないから分からないけど、三十人くらいかな?」


「雲雀は何人やった?」


「私は十四人遠ざけた。獅虎は?」


「俺は十人。六人も残したか」


 なんだか二人が難しい話を始めた。


「やっぱり龍空の為にも雲雀が付き合った方がいいだろ」


「確かに龍空は子供っぽいけど、私の理想は最低でも五歳は年下じゃないと」


 雲雀ちゃんは年下の子が好きなようだ。


 小さい子を見ると目で追いかけるのだけど、たまに身体がついて行ってしまうことがある。


「でも噂は流れてるよな。龍空と雲雀が付き合ってるって」


「そうなの?」


「私も聞いた。龍空とならまだいいけど獅虎とも言われててキレそうになった」


 獅虎と雲雀ちゃんが付き合ってるって話なら僕も聞いた。


 だから二人にそうなのか聞いたら「は?」と二人揃って言われた。


「俺だってそうだよ。なんでこんな顔だけしかいいところがないガサツな女と」


「へぇ、そんなこと言っていいんだ。龍空、私傷ついた。獅虎に言ってあげて」


「おま」


「獅虎。雲雀ちゃんに謝って」


「いや、そのな」


「謝って」


「大変申し訳ありませんでした」


 獅虎が靴を脱いでバスの席に土下座する。


「まぁ許してやらなくもない。全く、龍空の前で私を馬鹿にするからだ」


「龍空の圧には誰も勝てないからな」


「今後は私を敬え」


(あ、獅虎が怒った)


「龍空、雲雀のいいところを俺にまた教えてくれないか?」


「ちょっ」


「いいよ。雲雀ちゃんはね、まず顔が可愛いよね。それはみんな知ってることだからいいとして、僕に限ったことじゃないんだろうけど、とっても優しい子だよ。僕が何か分からないって言ったら丁寧に教えてくれるし、それにこの前なんか」


「龍空、駄目。それ以上は恥ずか死ぬ」


 雲雀ちゃんの顔が真っ赤になっていた。


 前も獅虎が雲雀ちゃんのことを悪く言ったから同じようなことがあって、雲雀ちゃんの顔が真っ赤になったことがあった。


 熱が出たのか心配になったけど、二人が「大丈夫」って言うから何もしなかった。


「龍空、大丈夫だからね。バカ獅虎」


「調子に乗るからだ。それより龍空に何か話したいことがあったんじゃないのか?」


「忘れてた。見て」


 雲雀ちゃんが前の方の席を指さした。


 そこには僕達以外、唯一の乗客の小さい男の子が座っていた。


「追いかけたら駄目だよ?」


「し、しないよ。ただ可愛いなぁって思っただけ」


「ほんとに?」


「ほんとだって」


 とりあえず雲雀ちゃんの手を握っておく。


「なにをしてらっしゃるので?」


「前に雲雀ちゃん同じこと言ってついてったでしょ」


「それは……、したけど」


「だからこうして捕まえておくの」


 雲雀ちゃんが子供を追いかけて警察に捕まったら嫌だ。


 だから僕がこうして捕まえておかなければ。


「どうした雲雀。同年代の男子に照れさせられたか?」


「黙れ獅虎。こんなん誰でも照れるわ」


「龍空は無自覚だからな。俺には無理だ」


「あんたに手なんか握られたら殴るから」


「誰がお前の手を握らにゃいけないんだよ。俺が止めるなら首根っこ掴むわ」


 二人がまた言い合いを始めたから止めようとしたら……バスが揺れた。


「獅虎、雲雀ちゃんをお願い」


 何かおかしいと思ったから、獅虎に雲雀ちゃんを任せる。


「分かった」


 こういう時獅虎はどんなことでもちゃんとやってくれる。


 たとえ一秒前まで喧嘩していた相手を守れって言われても「そんなの当然」といった感じで守ってくれる。


「龍空……」


「大丈夫。ここはしばらく直線だから」


「そうじゃ」


「雲雀。時間がない。龍空、頼む」


「うん」


 僕は心配そうな顔をする雲雀ちゃんを獅虎に任せて運転席に向かう。


 途中に居た男の子をちらっと見たけど、微動だにしないで座っていた。


「運転手さんがいない?」


 運転席に着いたけど、そこには運転手さんがいなかった。


 確かにバスに乗った時は運転手さんはいた。


 途中で降りられる訳もないし、降りていたらそもそもバスは動いていない。


「自動操縦なんてまだ未来の話でしょ」


 僕はとりあえずどういう原理で動いているのか見てみた。


 アクセルをガムテープか何かで固定でもしてるのかと思ったけど、違う。


「どういうこと?」


 この運転席は全てがおかしい。


 まずアクセルとブレーキは同じ位置で止まっている。


 オートマチック車ならクリープ現象があるからブレーキを踏まなければ勝手に進むみたいだけど、こんなにスピードは出ない。


「それに」


 ハンドルに触れてみたけど、一切動かない。


 それだけではない、運転席のものを一通り触ってみたけど何一つ動かない。


「このままじゃ」


 このまま進むと踏切がある。


 ここら辺は田舎道だから車が通ることは少ないし、電車が通ることも少ない。


 だけどこういう時に限って。


「電車が来るんだよ」


 さっきの揺れが何かも分からないし、運転席が動かないのも分からない。


 だから今は分かることだけを整理する。


「獅虎、雲雀ちゃん。このバスは止まらない。それとあと少しで踏切に突っ込む。最悪な事に電車が来てる」


 僕は何年ぶりか大声を出して、一番後ろの席に居る二人に伝える。


 僕は二人の所に戻る途中で男の子を抱き抱えて行く。


「止まらないってのは?」


「運転席に運転手さんが居なくて、運転席のものが何も動かない」


「龍空の勘はすごいよな。いつもなら三人で解決しようとするのに、無理なのが分かってる」


「そんなんじゃないよ。ただ揺れた時に雲雀ちゃんが怖がってるように見えたから」


 本当なら三人で見た方が良かった。


 僕の見落としがある可能性だってあるのだから。


 でも、雲雀ちゃんの表情が怖がっているように見えたから、連れて行きたくなかった。


「俺には全然分かんなかった」


「獅虎だからね」


「バカにしてるだろ」


「してないよ」


「……そうか」


 そこで僕達は無言になる。


 これから僕達は死ぬかもしれない。


 死ぬのは怖いけど、僕は一人じゃない。


 隣で震える雲雀ちゃんの手を握る。


「弱い私でごめんね」


「え?」


「てか、もう踏切着いててもおかしく」


 多分そこで電車に轢かれた。


 雲雀ちゃんの言葉の意味は分からなかったけど、もし生きてたらきっと聞ける。


 だから。


「いや、死んだよ?」


「え?」


 目を覚ますと目の前にさっきの男の子が居た。


「いやぁ、ごめんごめん。勇者召喚するには一回死んでもらわなきゃいけなかったからさ。でもちゃんと語り合う時間はあげたしいいよね?」


(この子はなにを言ってるんだ?)


「まぁ実感なんてないよね。僕は神。と言っても君達の居た世界の神じゃないんだけどね」


(神?)


 なにを言っているのか分からない。


「まぁ分かんないだろうね。でも説明もめんどくさいから送っちゃえ」


「ちょっと待って、獅虎と雲雀ちゃんは」


 僕が二人のことを聞こうとしたら、景色が変わった。


 周りには沢山の人が居る。


 明らかに王様っぽい人も。


「なにがどうなってるんだよ」


 僕の人生はいつの間にか終わり、いつの間にか第二の人生が始まった。

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