第37話 遡及
私は、目を覚まして辺りを見回してみる。レジャックさんがいた白の空間ではなく、家の中にいるようだ。家族4人で暮らしていた家ではないが、すぐに何処に居るのか理解できた。
(ここは、見覚えがあるわ…。大学時代の私のマンションね。マンションにいるということは、レジャックさんが言ったように過去に移動してしまったのかしら?)
私は、部屋の中にある鏡を覗き込んだ。
「わっ!本当に若い頃の私だ…。」
鏡に写りこんだ自分の姿は、アラサーの私とは違い、見た目の雰囲気も、肌の質も若返っていることを実感する。仕組みは到底理解などできないが、過去の自分に成り代わって存在しているようである。過去の記憶も最近より鮮明に覚えているし、拓弥さんや子供達との記憶も残っているので、過去の私とこれまでの私が合わさったかの様である。
日にちを確認するためにスマートフォンを取り出す。最近まで愛用していたEPhone14ではなく、当時使用していたEPhone5であった。これだけ見ても過去に戻っていることが理解できるが、EPhoneのカレンダーをチェックしたことで懸念事項は確定した。やはり、レジャックさんの言う『時間移動』が効果を発揮したのだろう…。
スマートフォンからの情報により、今は2025年11月14日 07:10であることがわかった。しかし、今日がどんな日だったのかを思い出してみるが、全く思い出すことができなかった。
そこで、スマートフォンのアプリケーションにあるMoblie Messengerアプリ『Lane』を開き、状況を確認することにした。
Laneには、当時の拓弥さんとのやり取りがあった。最後に残った履歴は、11月13日のものである。私はやり取りを確認する。
『嘘つき!真由のことは信じられない。』
『拓弥君?誤解よ!私は何もしていないわ。本当よ!』
『もういい!連絡してくるな!』
このやり取りを見て再び哀しみが込み上げ、当時の辛さが蘇ってくる。この時、私は背後に恵美さんが関わっていたことを全く考えても見なかったのである。
更に前日のやり取りをチェックする。
『真由。俺に隠し事していない?』
『していないわ。どうして?』
『サークルの山本とのことだよ。』
『山本君?特に隠し事なんかないわよ。』
『ふざけるなよ!俺は全部知っているんだ。』
拓弥さんが苦悩しているのは明らかだ。私を信頼し、それが裏切られたと感じたのだろう。彼もまた騙された身であり、しかも、この頃の彼は、私が知る限り、最も怒りに包まれていたように思える。いつもは穏やかな彼から放たれた怒りの言葉は、私にとって最もショッキングであった。
私に課せられた使命は明確である。私たちの別れを阻止するため、私ができるすべてを行うことだ。状況を考慮するに、今日がレジャックさんの言う「未来の分岐点」、つまり、私たちが別れる日である可能性が高い。
過去の経験から判断すると、拓弥さんを説得するためにマンションに向かった日に、彼の怒りに押されて泣き帰ったことが思い出される。
特別な計画はないが、しっかりと話し合いに持ち込めれば、拓弥さんはきっと理解してくれるはずだ。
私は、彼のマンションに向かうことを決意する。彼のアパートは、私たちが通う大学から徒歩10分程度の場所にある。私のマンションからは、バスで移動することになる。
バスから見る景色には、懐かしさを覚える。通学のために毎日見ていた景色である。10年以上前にタイムスリップして、この景色を再び見ることになるとは思ってもみなかった…。
大学前のバス停を降り、徒歩で拓弥さんのマンションを目指す。この頃の記憶は、より鮮明に記憶されているため、拓弥さんのマンションへのルートも全て記憶していた。
しばらくして、拓弥さんのマンションに到着する。彼が住む学生マンションは、鉄筋コンクリートでできている。大学が運営しているため、ここには同じ大学の学生しか住んでいないと彼は語っていた。ついに彼のところに向かうことになったが、死んでしまったと思っていた彼に再会できることは喜ばしいが、現状を知っている今、軽い気持ちで会うわけには行かないのであった…。
―――― to be continued ――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます