第10話 それぞれの想い

――  拓弥 ――


 突然、俺は真由に対してとんでもないことを口走ってしまった。彼女が交際相手からプロポーズされたこと、それに迷っていることを知り、つい「なら、俺としろよ!」と言ってしまったのである。


 俺も真由も現在それぞれに交際相手がいるのに、この発言はとても軽率で自分勝手な発言だと理解している。ただ、3年の間、真由に裏切られたと思いながらも、思いを寄せていたことも事実で、自分自身がどうすればいいのか混乱しているのであった。


「えっ…。拓弥君には彼女が…。」


「あっ!ごめん。そ、そうだよ。そうだよな。何言ってるんだよ、俺は…。変なこと言って悪かった。今日はもう寝ようぜ!」


「あっ…。うん。拓弥君、おやすみ。」


「おやすみ。」


 真由の指摘を受けて、慌てて先程の発言を撤回する。俺はおやすみの挨拶をした後、彼女を胸に抱いたまま、なかなか眠れない夜を過ごした。本来であれば、二人で生き残るためにできることを考えなくてはならないのに、それ以上にこのことが頭の中を埋めつくしてしまい、思考を鈍らせた。


 彼女の体温を感じながら思ったのは、やはり昔と変わらぬ愛情を抱いていたことと、自分の我儘を押し通すことが必ずしも正しい訳ではなく、真由と交際相手との事情や、俺と恵美との事情のことも考えて行動すべきだと言うことだった。


―― 真由 ――


 私は、彼の腕の中で彼の体温を感じながら目を閉じた。脱出を成功させる為に、少しでも体力を温存する必要があるからだ。しかし、それとは裏腹になかなか寝付けない自分がいた。


 先程、彼から不意に告げられた「なら、俺としろよ!」という言葉が私の心に刺さったからである。正直、新田さんから頂いたプロポーズや結婚については、まだピンとこない部分はあり、迷ってしまっているのが実情である。その上での拓弥君の一言には、私の脳ではなく、心が反応して、強く揺れ動いたのを感じた。今まで私がずっと待ち望んでいたことのように…。


 自分で自分がわからなくなった。3年ぶりの再開で、たった数時間しか一緒にいない相手にここまでの感情を抱いてしまうなんて。私はこのまますぐには寝付けない夜を過ごした。


 ――――


「ん、ん~。」


 私たちは気づけば、地面に横たわっていた。そして、彼の体温はまだ私を包み込んでいた。最初は、色々な思いが頭を駆け巡り、眠りにつけなかった。しかし、疲れからか、私はいつの間にか眠りについていた様である。


「真由?」


「あっ、ごめん。起こしちゃった?」


「いや、大丈夫か? 少しは休めた?」


「うん。ありがとう。」


 再びスマホの電源を入れ、時間を確認した。時刻は3:47だった。電波はまだ届かない。周囲はまだ暗闇に包まれている。拓弥君のスマホのバッテリーは、昨日の移動中にライトとして使ったことで40%になっていた。だから、今日は私のスマホを拓弥君に渡して移動を再開することにした。


 今日も私は彼の背中を頼りに移動する。スマホのライトが地下鉄のレールを照らし、確実に先へ進んでいく。しかし、大地震の影響はまだ残っており、レールに変形が見られたり、天井が崩れ落ちた場所が散見された。


「いたた…。」


「拓弥君、どうしたの?」


「いや、少し頭が痛くなってきたんだ。魔法のリュックに頭痛薬があるから、飲もうかな。」


「本当に、色んなものが出てくるんだね。」


「あはは、そうだね。」


 再び移動を続ける。40分ほど歩いたところで、遠くに光が見えた。


「拓弥君、あれは…?」


「おお、灯りだ。行ってみよう。」


 そこには、駅のホームがあった。人気はなかったが、非常電源が作動しているのか、所々に照明が点いていた。


「良かった。地下鉄のホームだ。」


 私達は、遂に地下鉄のホームへ辿りついたのであった…。


―――― to be continued ――――

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