第3話 再会
―― 真由 ――
日曜日の朝、私はいつものウォーキングコースを歩いていた。40分間の散歩は、私にとって体型維持や健康の為に必要なことであり、毎週の日課となっている。自宅マンションを出て20分が経った頃、目の前には美しい神口川が広がっていた。その静かな流れに心が癒やされ、私は自分自身と向き合う時間を持つことができた。
「真由ちゃん、付き合ってから一年が経ったね。実は、真由ちゃんには俺の奥さんになってもらいたいと思っているんだ。」
先日、新田さんから突然の言葉を投げかけられ、私は驚きと戸惑いに包まれた。彼が私に対して抱いている想いや、大切に思ってくれていることは嬉しく感じる。しかし、心の奥底にはなんとなく違和感を感じ、不安を覚えてしまう。私には、その理由が明確にはわからない。そんな複雑な思いにとらわれ、私は返事を躊躇ってしまった。
(そのまま受け入れちゃえばいいじゃない!)
(だめよ。何かが足りない気がする…。納得の行く答えが見つかるまでは、決断は慎重にするべき。)
自分自身の内面で繰り広げられる相反する思考が、私の決断力を鈍らせていた。もう少し時間をかけて考えたい。それが私の率直な気持ちである。新田さんも急ぐことはないと言ってくれたし、私は彼の言葉に安心しつつ、自分自身の感情を整理していた。
そして、私は再び歩き出した。いつも同じコースを歩くようにしているが、今回は気分転換のために、いつもなら通らないコースを歩いてみようと思った。新しい道を通ることで、何かが見えるかもしれない。そんな期待とともに、私は新しい道を踏み出した。
―― 拓弥 ――
最近、俺はフィットネスを始めた。かつての学生生活とは違い、身体を維持するために神経を使う必要性を痛感した。毎回、自宅マンションから歩いて移動しているが、この頃は肌寒さを感じるようになってきた。しかしその程度の気温は、俺にとっては絶妙な温度である。神口川に沿って歩き、北へ3キロ進んだ場所には、俺が通っているフィットネスジムがある。
俺はマッチョな肉体にはあまり興味がない。ただ、鏡に映る自分の姿がみすぼらしくないように、程度良く鍛えることに目標にやっていくと決めたのだ。
毎日、仕事帰りにジムに寄る元気はもはや残っていない。それゆえ、週末の仕事がない日にジムに通うことを習慣づけている。
最初の頃は、自転車でジムに通っていた。だが、瞬く間に到着してしまい、長時間身体を動かすためには徒歩の方が適していると気づいた。以来、毎回徒歩で移動することにしている。
徒歩で移動することで、ゆっくりと様々な景色を楽しむ時間が増えた。最近では、この時間が非常に楽しみになっている。
神口川の畔まで移動していた。川岸には美しい紅葉のもみじが演出されており、その景観を眺めながら、先日恵美と一緒に見た景色と、その時彼女が口にした言葉を思い返していた。
「拓弥。ずっと側にいてね。」
恵美に必要とされていることを実感し、もう恋愛はできないだろうと考えていた自分を振り返る。まだ心の棘は刺さったままだが、もしかしたら恵美のおかげで雪解けは近いのかもしれない。それでも、未だに真由を引きずっているから、恵美に対してもう一歩踏み出せないことを理解している。どうしようもないことなのに、気にしている自分が滑稽であると感じている。
「ふぅ…。」
軽くため息をついてからまた歩き出す。変な思考を掻き消して前に進むために…。
―― 真由 ――
ウォーキングコースをいつもと変更し、神口川沿いを南下して歩いている。いつもと違う景色に、新たな驚きと感動を覚える。こんなに自然が美しいとは、学生時代の私には想像もできなかったことだ。学生時代、拓弥君に花見や紅葉を見に誘われた際に、私はあまり興味を示さなかったことを思い出していた。
(ここから見る紅葉も綺麗ね。)
私は、手を伸ばし、遊歩道のフェンスに軽く手を置いた。紅葉が美しく目に焼き付いていると、突然だが僅かながら鼻腔を刺激する香りが漂ってきた。私はすぐにそれが『パッシュ』であることに気づいた。爽やかなグレープフルーツの香りがする。間違いない。私の近くで同じようにフェンスに手を置き、景色を眺めている彼の姿があった…。
―――― to be continued ――――
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