君との別れをなかったことにする。~ 時間を戻す恋愛譚 ~

飛燕 つばさ

一章 恋愛編

第1話 真由(プロローグ)

―― 真由プロローグ ――


 「悪いけどお前のこと、もう信じられない。俺たち、別れよう…。」


 その一言が、私の心を容赦なく貫いた。大学4年の秋、私は恋に終止符を打たれた。


 彼と私は、深い絆に結ばれ、共に未来を輝かしく描いていた。毎日、二人の夢について語り合い、共有していた。


 しかしながら、彼はある誤解にとらわれてしまった。彼は私が浮気をしていると疑いを抱いてしまったのだ。それは事実ではなく、私たちは話し合いを通じてすぐに解決できるはずだった。しかし、彼は話し合いに応じることは無かった…。


 後に、私が知ったところによると、同じ学部の佐々木恵美が、彼を独占したいという強い欲望から、陰謀を巡らせて私を陥れ、彼に浮気をしていると思い込ませたのだった。


 恵美は、自分の容姿に対してコンプレックスを抱いており、私を常に嫉妬の対象として見てきた。彼女の行動は、私たちから見れば問題があるように感じるが、彼女の動機については、一定の理解を示すことができるだろう。


 彼は恵美の罠にかかり、私を疑いの目で見た。私は何度も説得を試みたが、彼の心は開かれず、私との関係は破綻した。


 私は深い悲しみに包まれた。彼に疑われ、冷たく扱われ、最愛の人を失ってしまったことが、私を苦しめた。


 その後、私は憎しみや怒りのような醜い感情にとらわれていたが、卒業後は冷静になり、自分の感情を整理することができた。それでも、私の彼に対する愛情がまだ変わっていないことを改めて確信したのであった…。


―― 第1話 福田真由 ――


 私、福田真由は、大都会のど真ん中で会社員として働いていた。佐野拓弥と別れてから既に3年が経っていたが、その影は私の心から消え去ることはなかった。彼のことを思い出す度に、過去の幸せな日々が蘇り、今でも私の内面を揺さぶっていた。けれど、彼に再会したいとか、彼と連絡を取りたいという願望は持っていなかった。私が抱く感情は、彼への愛情は残っていたものの、今では抑制的にコントロールしていた。


 そんな私にも春が訪れた。会社の同僚の先輩、新田弘樹さんよりアプローチを受けて交際を始めた。新田さんは、笑顔が豊かで包容力のある人間だ。上司や同僚からの評判も良かった。私は、強い恋心を抱いた訳では無かったが、彼の誠実な姿を好ましく思い、彼の告白を受け入れた。


「真由ちゃん、肉だ。焼肉食って帰ろう!」


 新田さんは、元ラガーマンだけあって、大変逞しい身体つきをしており、所謂スポーツマンタイプの男性である。男らしく、さっぱりした性格をしており、私をグイグイリードしてくれるので、それに乗っかる私は付き合いが楽だと感じている。

 

「はい。おつき合いします。」


 職場では、私たちの関係は周知の事実となり、社内を並んで歩く。身長が180cmを超える新田さんは、歩くだけでも存在感があり、皆さんからの視線が集まるので少し恥ずかしい。


 会社を出てからは、徒歩で焼肉屋へ移動する。徒歩で15分はかかるが、これから高カロリーを摂取すると思うと徒歩も苦にはならない。それに、移動中の新田さんの話はとても楽しく、つい笑いが零れてしまっていた。


 移動の途中…私たちは、交差点で立ち止まる。夕方で多くの人々が信号待ちで溢れていた。


「あれ?」


 懐かしい香水の香りに反応する。爽やかなグレープフルーツの香り。グレープフルーツの香水は、様々あるが、拓弥君の愛用していた「パッシュ」と言う香水は、独特な香りですぐに区別がついた。まさか、と思い見回す。


「どうかした?青だけど。」


「いえ…。」


 私は、新田さんに続いて歩き出した…。

 

―― 焼肉屋 『わっしょい一番』 ――


 事前のカロリー消費が済んで店内に入る。ここは、新田さんのお気に入りの焼肉屋さんだ。店主と新田さんは、大学時代の同級生で、2人ともラグビーによって通じ合った仲であった。


「真由ちゃん、いらっしゃい。今日も可愛いね!」


「おい、望月!俺の彼女に手を出したらぶっ飛ばすぞ!」


「あはは。流石にそれはこえーわ。やめとく。」


「あはは。」


  相変わらず仲の良い2人の様子は微笑ましい。席に座って乾杯の生ビールのジョッキをぶつけ合う。私は、学生時代は苦手だったビールも、今では美味しく頂けるようになっていた。


「おっ、来た来た。」


 注文しなくても最初にくるのは、塩タン、上カルビ、上ロースのセットである。新田さんと望月さんとの間で決まっているルールのようで、席に座るとビールとこのセットが自然と運ばれてくるそうである。


 ここに来て、私がするのは運ばれてきたお肉を頂くことと、お酒を飲むことだけである。自称『焼肉奉行』の新田さんは、お肉を焼くことや、注文に至るまで全てをやってくれるのだ。まるで私はお嬢様のようである。


 賑やかな食事は終わり、焼肉屋を後にする。


「新田さん。ご馳走様でした。毎回奢ってくれなくてもいいのに…。」


「真由ちゃんと一緒にいれるのに、お金なんて取れないよ。」


 私たちは、ほろ酔い気分で歩き始めた。現在の季節は、美しい落葉を見ることができるため、もみじのライトアップポイントがある神口川(かみぐちがわ)の畔を目指していた。


 風に揺れる赤く染まった葉を眺めた後、川に浮かぶ葉を見つめていたとき、突然頭に異変を感じた。どうやら頭に葉っぱが乗っていたようである。新田さんがそれを取り除いて、私に手渡したもみじの葉を見上げたところ、自然と視線が交差したのである。



「真由ちゃん、付き合ってから一年が経ったよね。実は、真由ちゃんには俺の奥さんになってもらいたいと思っているんだ。」


「えっ…。」


 突然のプロポーズに、私の心臓は激しく鼓動し始めた。準備不足な私は、どうしていいのかわからなくなってしまう。


 沈黙が夜の闇をより深く染め、私は自分の思考をめぐらせ、答えを出せずに戸惑った。


「ごめん、唐突だったね。焦らなくていいよ。もう一度、ゆっくりと考えてくれるかな?」


 落ち葉は、川の流れに身を委ね、静かに流れていった。


―――― to be continued ――――

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