第28話 本当の父は………
ジェーロムは歓喜していた。
何の変哲もない北の砦の戦いが、あり得ないものに変わったいたからだった。
エリシアの放った魔法と魔法陣――――
(あの魔法だっ!)
長年求めてきた魔法。
速度、精度、規模、どれをとっても遜色ない。
「…………ついに、我々につきが回ってきたぞ!」
北の砦の戦いに大敗しているのにも関わらず、狂気の目で、自身の味方が、あの魔法の助けを得て持ち直した制圧軍によって殺されていくのを笑いながら見ていた。
ジェーロムとは、このベルディア城の城主が本来ならいるであろう部屋で、エリシアに彼女自身も知らざる
エリシアを最初に連れ去ってきた際に取り仕切っていた男三人組は、ジェーロムの腹心たちだ。
「…………この理不尽な世の中で、恵まれた者と、そうでない者の差は激しい。
負け犬は永遠に負け犬のままだ。
負け犬が這い上がるようなシステムはこの世に用意などされていない!
恵まれた者だけが永遠に恵まれた者として生き残るのだ!」
ジェーロムは恵まれた者…………のはずだった。
国唯一の公爵家…………の後継ぎであり、裕福で、それだけでなく剣術の類まれな才能もあった。
人生が一変したのは、公爵の地位につき、見知らぬ女と結婚させられてからだった。
血を薄めたような色の髪に赤い目をもつという容貌で、高貴すぎる身の上のせいか、いつもすました顔をした女。
その女を、ジェーロムは好きになろうとすらしなかった。
ジェーロムが自分の庶子を連れて帰ってきたときも、あの女はすました顔をしていた。
――――あの女は私に興味のかけらもないのか。
あの女が娘を産んだあともジェーロムはいっさい口をきかなかった。
嫌いだったはずの女の娘、自分の娘はあの女にそっくりで、なおさら嫌いだった。
子供のくせになんでも見透かしているかのような青い瞳が特に…………。
反乱の起きる数年前、初めてあの女は私を部屋に呼んだ。
告げられた言葉は衝撃だった。
『娘は、本物の王家の血を継ぐ唯一の者となる。このことが知られれば、娘の身には災いが降りかかるだろう。』と。
( 本物の王家の血筋!!)
あの女の話では、100年前に王位についたあの賢王は本物の王の影であり、本物の王の血筋は自分たちには引き継がれてきたという。
あながち嘘じゃない。とジェーロムは思った。
王家はここ100年、王家にしか使えないという魔法が使えないという。
――――それは、『全ての魔法を完璧にする』魔法だという。
魔法というものは元来気まぐれなもので、精度、速さ、発動するか否か、などには波がある。
(全ての魔法を完璧にする魔法ーーーーそんなものがあれば、この世では取り合いになる…………な。)
ジェーロムは娘を、新たな女王としてたてるべきだと思い、実行しようとしたが、娘は、それらしき魔法が使えなかった。
『なんて役立たずなんだ!!血筋しか取り柄がないくせに!』
娘が魔法を使えるまで、厳しい教師もつけた。
だが、何をしてもだめだった。
しまいには、普段は私に全く話しかけないあの女が、娘をかばいだす始末。
ジェーロムはいろいろ萎えたのか、公爵としての仕事すら、まだ幼い娘に投げ出し始めた。
庶子である息子は、娘より年上だが、あやつには仕事など任せられない。庶子の息子は放蕩息子だった。
そうして、ジェーロムがすべてを投げ出した数年後、ルーベルティアでついに反乱が起きた。
民衆が暴動を起こし、公爵一族を殺せと城に向かってき始めていた。
「…………おいっ!お前がしっかりと仕事をしてないからこうなっただろうが!!」
娘を執務室に呼び出し怒鳴ったとき、大砲の音が聞え、すぐそばの塔が崩壊する音がした。
そして、本当の敵に気づく。
あの旗は王族――それも皇太子の旗だった。
民衆をそそのかしたのも王族だろう。
うすうす気がついていたが、これで確信した。
「いよいよ、本物の血筋が欲しくなったのか…………」
奴らは私達公爵家をつぶす気だ。
その反乱の結果――――――
ジェーロムは身代わりをたててひっそりと生き延び、身代わりは殺された。
あの女と庶子の息子は死に、娘は行方不明…………多分死んだだろうと思った。
しかしその後、娘らしき少女がリステアード家にいると、ルーベルティアの地下街で再起を図っている際に知った。
当初は訝しんでいたが………………。
だが、今回で確信した。
やはり、あの娘は…………王家の魔法を持って、生きていた。
王家すら、血眼になって探した王家の血筋と魔法を備えた人間。
我が娘、エリシア=バッシリーサ=ルーベルティア。
今度こそ、お前は役立ってもらうぞ。
あの、偽の王家に一矢報いるるために………………。
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