第9話 成人の儀(舞踏会)その1
「お嬢様、今日は殿下から贈られたドレスじゃなくてもいいのですか?」
「ええ、いいのよ。殿下はエスコートに来ないから。代わりにお兄様がエスコートしてくださるのよ。」
「そうですか……。でも、お嬢様。 完璧です!
青色のドレスはお嬢様によく映えます!」
まるでおもちゃの人形を着飾るかのごとく、私にドレスの着付けと化粧を施していたサターシャは満足そうだ。
「ありがとう。」
もう、これから自分好みのドレスを着れると思うと少し嬉しいような…………
『ズキッ!』
「ん?」
「どうかしましたか?お嬢様。」
「何でもないわ」
鏡の中の、自分のやけに澄んだ瞳が不安そうに揺れていた。
――――――――――――
きらびやかな王城の大広間…………
成人の儀とはいえ、王様から成人の祝いの言葉を、眠くなりそうなぐらい長く(ゴホンッ)話されるだけで、あとはいつもの舞踏会と何ら変わらないと聞いている。
ちなみに、シアのとある友人のひとり王女ユーリアは
『舞踏会なんて、マウントを取りあうためだけにみんな来るんだわ……
マウントの取り合いをして、何が楽しいのかしらね。』
と言って、ここには来ていない。会えないのは残念だ。
そして、この先入観の塊みたいなユーリアは、私の兄に密かに恋をしている。
だが、悲しきかな。お兄様には幼いころからの婚約者がいる。
極めつけは、お兄様はユーリアのことが苦手なのだ…………
(ご愁傷さま…ユーリア。でもきっとほかに良い人が現れるわ。)
そんなことを考えているうちに、大広間の扉が大きく開く。
―――テオドールの登場だ。
吹き抜けの階段の上、はるか高くから、下にいる私たちを見下ろすテオドール。
私と目があった途端…………そのエメラルドの目が大きく見開かれた。
(殿下…………)
ちょうどその時、近くからヒソヒソと話し声が聞こえた。
同じ年頃のご令嬢方だろうか。
「あれよ……殿下に婚約破棄されたんじゃないかっていうリステアード侯爵令嬢よ。」
「はじめてみたわ。よく舞踏会に出てこれたわね……。」
「婚約破棄されたのも無理ないわ。
気が弱そうで、とうてい王太子妃がつとまるとは思えないですものね。」
テオドールから目を離し、振り向く。
気のせいかもしれないが、多分私への陰口だろう。
おそらく聞こえるようにわざと言っている。
(陰口だなんて…………ご丁寧にね)
無表情で、仮面を貼り付けたような微笑みを向けられるよりいくらかマシとはいえ、(エリシアの考え方は歪んでいる)うれしいものではない。
視線をテオドールがいた方に戻すと、もうそこにテオドールはいなかった。
(まあ、いいや。よしっ!)
腹をくくって、陰口を言い合う令嬢にゆっくりと近づく…………
「こんばんは。ごきげんよう。
あらあら? 最近の令嬢というのは、可哀想な淑女を貶めるのが流行とは知らなかったわ。ぜひ私もまぜてくださらない?」
指を口元に充てて、首を少し、こてんと傾ける。
我ながら悪趣味だろう。
「な、な…………し、失礼しますわっ!」
先程のご丁寧な方々は去っていった。
「あら、残念。」
(ほんと、人を貶めて言うのは得意なのに、自分がされるとすぐ逃げるんだから…………)
その後エリシアは、一人で、壁の花に徹しようと突っ立ていた。
大広間には、成人の儀にのぞむ令嬢とその婚約者しか入れないので、お兄様はここにはいない。
大広間の中央では、数多くのご令嬢とその婚約者たちが、優雅にくるくると円舞している。
どの令嬢も幸せそうだ。婚約者と美しく笑い合っている。
綺麗…………
「そこのお嬢様さん。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます