頼まれごと 3人用台本

ちぃねぇ

第1話 頼まれごと

0:意識を取り戻した女


女:あれ、ここどこ…道路?私道路で寝てたの?えぇ?なんで?

女:あの緑の看板…「富士川(ふじかわ)SA(サービスエリア)」…え、サービスエリア?ってことはまさかここ、高速道路!?私今高速道路の上にいるの?うそぉ!

女:なんで?あ、車!こっち向かってくる!あぶなっ


0:真正面から車に轢かれたがなんともない女


女:え?轢(ひ)かれて、ない?今完全に轢かれたよね?すり抜けた?車が?私が?なんで?


0:そこでふと、女の脳裏にある記憶が蘇る


女:待って待って。確か私、仕事先に向かう途中にこの高速道路走ったような…そうよ、確か12時に商談があるからって急いで…商談ってどうなったんだろう

女:じゃなくて!今重要なのは多分そこじゃない!思い出せ私…確か…急に前のトラックの荷台から荷物が落下して…そう!私それを避けようとして思いっきりハンドル切って…それで、目の前に中央分離帯が

女:…ああ!そっから先がどうしても思い出せない!え、もしかして私ぶつかった?で、死んだ?死んで幽霊になってる感じ?マジ?嘘でしょ?

女:まだやりたいことも行きたい場所もいっぱいあったのに?来月にはアメリカ旅行だって計画してて…嘘ぉ…マジ?オーマイゴッド


0:そこでとても大切なことに思い立った女


女:ちょっと待って。私が死んだのいつ?まさか一週間とか言わないわよね!?こうしちゃいられないわ!


0:女はSAを目指して駆け出した


0:1時間後、SAで声を張り上げる女


女:すみません!どなたか私が視える方いらっしゃいませんか?すみません!

女:すみません!そこのお姉さん!そこの僕!おじいちゃん!誰でもいいから私に気づいて!……駄目だ、誰も気づいてくれない


0:しかし、そんな女に気づいた男がいた


男:あー…あれ幽霊か?いや、幽霊にしては薄すぎるような…なんにせよ関わらないでおこう、ロクなことにならない

女:諦めちゃダメよ、香織!こんなに広いんだもの、誰か一人くらい私のこと視える人がいるはず…すみませーん!誰か!私のこと視える人ー!

男:にしてもなんであんなに必死に声を張り上げてるんだ?あんな幽霊、今まで見たことないぞ


0:もう一度姿を見ようとした男の視線と女の視線がぶつかった


女:あ

男:やべ


0:駆け寄ってくる女


女:そこの方!そこのお兄さん!私のこと視えてますよね?今、目合いましたよね!?

男:見えてないよー見えてない

女:受け答えしてる時点で視えてるじゃないですか!

男:あ

女:お願いです!教えてください、今日って何日ですか!?

男:え?

女:何月何日ですか!?

男:えっと…3月30日です

女:30!ってことは事故から二日!?まだ生きてるかも!

男:?

女:お兄さん!

男:はあ

女:今ってお時間あります?私の家に来てください!

男:大胆なお誘いデスネ。でも生憎(あいにく)と、僕は幽霊を抱く趣味は無くて

女:時間なくても来てください!一生のお願いです!

男:聞いてないね、僕の話

女:お願いします!なんでもします!私に出来ることなんでもしますから!

男:必死かよ。そんな色気のない誘い方…というかおたく、もう一生終わってるじゃん

女:じゃあ来てくれたら成仏した後、うんとお礼します!あなたに神のご加護を授けます!

男:幽霊の死後がなんで神になるんだよ。ごちゃまぜにすんな

女:来てくれなきゃ末代(まつだい)まで呪います!

男:今度は脅しかよ…というか、いち幽霊にそんな力はねーぞ

女:お願いします…お願いしますから

男:なんでそんなに必死なの

女:家に猫がいるんです

男:え?

女:私の死んだ日から、7歳の猫が家に一人取り残されてるんです。私一人暮らしで

男:(食い気味に)それを早く言え!

女:え?

男:車向こうだから付いて来い!

女:向かってくれるんですか!?

男:当たり前だろ!さっさと行くぞ!

女:は、はい!


0:道中


女:チャコちゃん…チャコちゃん…どうか無事でいて

男:エサと水は?毎時間おたくがやってたの?

女:いえ、時間になると自動で出てくるタイプで

男:なら生きてる可能性高いからそんな心配すんな

女:でも

男:隣でそんな血相変えた顔されたら気が焦って(あせって)事故るわ。なるべく急いでやるからちょっと落ち着け

女:はい…すみません

男:…おたく、いい人だな

女:え?

男:自分が死んだ!って分かって真っ先に猫の心配ができるの、すごいと思うよ

女:そうでしょうか

男:普通は自分の状況受け止めるので精一杯だ。なのに一瞬で頭切り替えてサービスエリアまで走って、誰も気づかない中で必死に声張り上げて…すごいよ

女:無我夢中で

男:おたく、自分の人生誇っていいと思うよ

女:ありがとうございます。でもあの、いい人って言うなら、あなたの方がいい人だと思います

男:そうか?一度は見て見ぬ振りしようとしたけど

女:でも結局こうやって家まで送ってくれてるじゃないですか。本当に、助けてくださってありがとうございます

男:助けないと呪われるらしいからね

女:あ、いやそれは

男:出口ここだな。高速降りたらずっと真っすぐ?

女:あ、三つ目の信号左折で

男:了解

女:あの

男:ん?なに?

女:今日、お暇じゃなかったですよね。仕事とか

男:バッチリ入ってたな

女:ですよね、さっき電話されてたからそうなのかなって

男:気にしてたんだ

女:はい。休んでもらって申し訳なかったなって

男:今更。というか緊急事態だろ、命より優先するものってある?

女:やっぱりあなたもいい人だと思います

男:そう?

女:はい。でも…嘘までつかせてしまって本当にすみませんでした

男:嘘?

女:休むのに仮病とか使ってくれたんですよね…心苦しいことさせてしまって

男:いや?嘘なんてついてないけど

女:え?でも、職場にはなんて

男:まんまだよ?「幽霊に泣きつかれて飼ってた猫を保護しに行く」って伝えた

女:それは…大丈夫なんでしょうか

男:大丈夫だよ。気にしいだね、おたく

女:はあ

男:それよりおたく、近くに頼れる人いないの?親とか兄弟とか友達とか

女:親は今アメリカなんです

男:アメリカ?

女:はい、両親揃って仕事の関係で。私は一人っ子なので他に兄弟もいませんし、最近この街に越してきたばかりなので友達もまだ

男:越してきたばかりで猫飼ったの?よほどの猫好きなんだ

女:チャコは元々両親が実家で飼ってたんですけど、アメリカに転勤が決まって連れて行くより日本に残したほうがいいかなってなって、私が預かることにしたんです。その後すぐ私も仕事の関係で引っ越しが決まって

男:なるほど。じゃあ恋人は?

女:はは…生まれてこの方一度も出来たことないです。喪女(もじょ)って言うんでしたっけ、こういうの

男:久しぶりに聞く単語だわ。今は「おひとり様」って言うんじゃない?おたく、そこそこ綺麗なのになんで?恋愛興味なかった?

女:ずかずか来ますね

男:ヤだったら答えなくていいけど

女:興味はありました。でもなんと言うか、そういうチャンスに巡り合わずに来ちゃって…で、死んじゃいました

男:ブラックジョークだね

女:あなたが掘ってくるからですよ!なんか言ってて悲しくなってきました、私の人生

男:そう?

女:誇っていい、ってさっきあなたは言ってくれましたけど…私はもっといろんなことしてみたかったです。本当は誰かと付き合ってみたかったし、デートとかもしてみたかったし

男:へぇ、憧れてたんだ

女:そりゃまあ

男:付き合ったらしたいことって、例えばなに?

女:そうですね…お花見の時期に一緒に公園でお弁当食べたり、夏になったら浴衣デートしちゃったり

男:発想が小学生みたいだな(笑)

女:笑わないでくださいよ!

男:はいはい。あ、この信号で合ってる?

女:はい、左にお願いします

男:了解。…ところで、ずっと気になってたんだけど

女:はい?

男:おたく、手ぶら?財布とか携帯とか持ってないなって思ってて

女:あー…携帯も財布も何もかもを助手席に置いてたバッグにしまっていて

男:なるほど、事故の瞬間に身に着けてないものは持ち出せなかったか

女:多分

男:…ん?ちょっと待って

女:なにか?

男:流石に家の鍵は持ってるよね?

女:あ…

男:え

女:バッグの中…です

男:マジで?うっそだろ…

女:どうしましょ?どうしましょう!?

男:窓ガラス割って入るとか?やべぇ、人生詰んだわ僕

女:あ、でもうちのマンション、管理人さんがいるんで!事情を話せば開けてくれるかも

男:どうやって話すのさ

女:そこはほら、上手いこといい感じに

男:んじゃそれ、おたくが家に着くまでにまとめといてくれる?

女:マジですか

男:僕、嘘吐くの壊滅的に苦手だから。台本あれば頑張れるから

女:えええ

男:僕が犯罪者にならずに済むよう頑張って

女:わかりました…


0:マンションエントランスにて


管理人:202号室の横田さん?

男:そう、横田香織(よこたかおり)。僕、香織さんとお付き合いしている津村雄二(つむらゆうじ)って言うんですけど

管理人:はあ。その津村さんがなんで横田さんの部屋を開けたいの?

男:彼女、2日前に事故に遭ったんですよ。ほら、静岡県富士市の富士川(ふじかわ)SA(サービスエリア)付近で起きた交通事故、知りませんか?

管理人:あ?そんなもんありましたかね?

男:あったんですよ

管理人:(パソコンをいじりながら)その事故の被害者が横田さんだと?

男:はい

管理人:で、なんで恋人のあなたが出張(でば)ってくるの。こういうのは普通、親が来るもんでしょう

男:彼女のご両親、今アメリカなんですよ

管理人:アメリカ、ねぇ

男:(香織に)めっちゃ疑ってくるんだけど

女:胡散(うさん)臭いですよね、アメリカって

男:おたくが言うな

管理人:あ?なんか言った?

男:いえなんでも。それでなんですけど、彼女のご両親にも僕、挨拶済みでご両親から連絡が来たんですよ。香織さんが事故に遭ったからマンションに向かって欲しいって

管理人:なんで

男:彼女、猫飼ってるんですよ。7歳の…ええと

女:メスのキジトラ

男:メスのキジトラを

管理人:名前は?

男:チャコちゃんです。元々は彼女のご両親が飼ってたんですけど、アメリカに行く前に彼女に預けて行ったみたいで

管理人:ふーん?アメリカねぇ…

男:(香織に)すっげぇ目でこっち見てんだけど

女:アメリカの胡散(うさん)臭さ半端ないんですね

管理人:で、事故に遭った横田さんの飼ってた猫が部屋に取り残されてるって、あなたに横田さんのご両親から連絡が入ったから来てみたと

男:そうですそうです!

管理人:それが本当なら開けてあげたいけどねぇ…でもほら最近、ストーカー事件とかあるから、その…津村さんだっけ?

男:津村です。津村雄二。免許証もどうぞ

管理人:はいまあ確かに。でもねぇ…津村さんが津村さんだっていう証明は簡単でしょうけど、津村さんが横田さんの恋人だと証明できる何かはありますか?とりあえず、横田さんの顔写真とか持ってます?

男:(小声で)来た

女:ラインにログインして送っておいて正解でした!

男:何枚かあります

管理人:見せてくださいな。(携帯を見ながら)確かに横田さんみたいだね

男:でしょう?

管理人:でもねぇ…例えばツーショットとか無いの?単体ばっかり…これだと隠し撮りでも撮れるんじゃない?

男:僕、昔から写真苦手なんですよ

管理人:一枚もないの?

男:はい

管理人:それで信じろってあんた

男:ええと

女:元カレがストーカーになる例もあるので写真があったところでストーカーでないという証拠にはなりません!で!

男:元カレがストーカーになるケースだったらツーショット持っててもおかしくないですし、僕がツーショットを出せたところで信ぴょう性は変わらないと思うんですけど

管理人:そりゃそうだけどさ。あ、ラインの最近のやり取りとか、ある?

女:これも想定通りですね!

男:僕、彼女と出会ったのオンライン対戦の中で

管理人:はあ

男:ラインはほら、このとおり交換したんですけど、もっぱら会話は付き合う前の名残(なごり)からずっとゲーム内のチャット使ってるんですよ

管理人:ゲーム、ねぇ?

男:(香織に)全然信じてないよこのおっさん!

女:負けないで、津村さん!

男:とにかく、事は一刻を争うんです。もちろん管理人さん立会いのもと開けて下さって構いません。というか見張っててもらった方が要らない疑いから逃れられてこちらとしても助かるので、僕を監視しててほしいです

男:僕は何も取らないしやましいことは一切しません!ただ部屋の中にいる猫ちゃんを助けたいだけなんです

管理人:ふむ…

男:お願いします!信用してくれなんて言いませんから、何とか部屋を開けてくれませんか

女:お願いします!

管理人:一つだけ、聞いてもいいですか

男:なんでしょう?

管理人:横田さんの好物って、わかります?

男:好物ですか?

管理人:今ね、あなたを信じるべきか疑うべきか揺れてるんですよ。分かればでいいんだけどね

女:どら焼きです、つぶあんの。私昔から目が無くて

男:どら焼きです、つぶあんの。昔から大好きらしくて

管理人:結構。津村さん、あなたを信じましょう。今、鍵の業者を呼びますからちょっと待っとってください

男:ありがとうございます!

管理人:もちろん見張らせてもらいますが、構いませんね

男:もちろんです!ぜひお願いします!…あ、でもなんで好物を聞いたんですか?

管理人:横田さん、ご丁寧に引っ越しの挨拶にどら焼き持ってみえてね、「好きなんですよ」っておっしゃっていたんですよ

女:あ、そういえば確かに言いましたね、私

管理人:あと、ニュース記事探したら2日前、確かに富士川で事故があったみたいだからね。検索に横田さんの名前は引っかからなかったけど、まあ信じてもいいのかなと

男:なるほど

管理人:ちょっと待っとってくださいね

男:よろしくお願いします


0:管理人一旦退場


女:ありがとうございます津村さん!

男:打ち合わせた甲斐があったな

女:はいっ!ああチャコちゃん、どうか無事でいて


0:20分後、鍵屋到着。玄関のドアが開かれた


管理人:さあ、どうぞ

男:失礼します

女:チャコちゃん!チャコちゃん…!

男:どうだ…

女:ああ…チャコちゃん!


0:「にゃー」という間抜けな音が部屋に響く


女:チャコ…チャコ…!ごめんね!ごめんねぇ!!

男:無事だったか

管理人:大丈夫そうですね

男:はい、おかげさまで

女:ありがとうございます!本当にありがとうございます!


0:女、ひとしきり猫を撫でてながら


女:チャコちゃん!寂しくさせてごめんね!ご飯食べられた?おトイレ出来た?具合悪くなってない?


0:玄関先で男と管理人


男:僕、これから一応猫を動物病院まで連れて行きたいんですけど、出ても構いませんか?

管理人:いいですよ。一応連絡先をもらえますか。あと、鍵の交換費用7000円も

男:わかりました、ええと…こっちが名刺で、こっちが(数えて)5,6,7000円です

管理人:確かに。じゃあ新しい鍵は横田さんの宅配ボックスに入れときますので、そう伝えておいてください

男:え?

管理人:ん?なにか?

男:ええと、彼女は

管理人:ああ、まだ回復してないですわな。起きたら連絡入れるよう、伝えといて下さいね。それまで郵便物も一時的に預かっておきますから

男:はあ


0:管理人退場


男:もしかして…


0:数時間後


男:猫、何とも無くてよかったな

女:はい!お医者さんも異常なしって言ってくださって、ほっとしました

男:そうか

女:津村さん、なにからなにまで本当に、今日は一日ありがとうございました。私に気づいてくれたのが津村さんで、本当によかったです

男:そうか

女:ホントはもっとちゃんとお礼したいんですけど…私、こんなだから…お金も返せなくて

男:そのことなんだけどな

女:あっ!

男:どうした

女:チャコちゃんのこれから!どうしましょう!

男:え?

女:私死んでるじゃないですか!チャコちゃん、これからどうやって生きていけばいいんでしょう…今から野良猫としてサバイバルできるでしょうか

男:無理だと思うぞ、ずっと家猫だったんだろ

女:ですよね

男:おたくがこれからも飼えばいいんじゃね?

女:何言ってるんですか!(ちょっと震えながら)私、死んじゃってるんですよ

男:いや、おたく生きてるぞ。かろうじて

女:え?

男:会った時から妙に薄いな~とは思ってたんだよな

女:薄い?なにがですか?

男:あー僕、職業お寺の僧侶(そうりょ)なんだけど

女:僧侶ってお坊さん!?禿(は)げてないのに!?

男:僕は剃(そ)らなくていい流派なの!

女:いいんですか!?

男:話戻すから聞きなよ、おたくは人の話を聞かなすぎ。そういうところ、直したほうがいいぞ

女:すみません

男:僕は生まれつき「視える」人間なんだけどね、幽霊ってもっとこう、濃いのよ

女:濃い?

男:ぱっと見、生きてっかな?あれ、微妙に透けてるかな?くらいの違いしかないわけ。だから子供のころはよく見間違えて話しかけて大変な目に遭ってきたの

女:あ、だから最初無視しようとしたんですね

男:関わってもロクなことなかったからね。でもおたくは最初っから薄くて。だから気になって見ようとしたら目が合っちゃったわけなんだけど

女:はあ

男:さっき管理人さんが言ってたでしょ、「検索しても横田さんの名前は引っかからなかった」って。死亡者がいたら普通ニュースで名前が流れると思わない?

女:まさか、それって

男:うん、まだ生きてるんだと思う

女:私…まだ生きてるんですか!?でもトラックに轢(ひ)かれても通り抜けられましたよ?

男:狭間(はざま)にいるんだと思う。あるいは強いショックで一時的に魂が抜け出たか…いわゆる幽体離脱状態だと思うんだ

女:幽体離脱

男:さっき僕も事故のこと、検索掛けてみたんだよ。そしたらまだ被害者について「20代女性、意識不明の重体」の発表しかされてなかった。ってことはこれ、頑張ったらまだこっち戻って来れるんじゃない?

女:ど、どうやったらいいですか!?私どう頑張ればいいですか!?

男:さあ?僕もまだ死んだことないからわかんないけど

女:そんな!和尚(おしょう)様!

男:いや僕まだ僧侶で…ってこの違いが分かるわけないか

女:どどどど、どうしたら戻れますか?

男:んーじゃあ、生への執着を強めるか

女:執着?

男:おたく、何でもするから協力してくれって頼んできたの覚えてる?

女:はいもちろん

男:なのに蓋(ふた)を開けてみれば何でもするどころか、ガソリン代と高速代と鍵代と医者代、全部踏み倒して天に上(のぼ)るなんて話が全く違うよね?極悪非道だと思わない?

女:う、それは

男:僕への償いと何でもするって約束を果たすために、死んでも死ぬな

女:え

男:チャコちゃん独りで残して逝くな。戻ってこい

女:津村さん

男:強く願え。絶対に戻ってくると固く念じろ。…それでこっち戻ってきたらさ、僕とデートしようよ

女:デート…

男:してみたかったんでしょ?というか僕がしたいし。職業的に、女の子と知り合える機会なんて皆無(かいむ)なんだよね。そろそろ花も咲くし、二人で花見デートしようよ。待ってるからさ

女:(泣き笑いで)津村さん…

男:チャコちゃんは一時的にうちの寺で預かってやる。意識を強く持て。生にしがみつけ

女:はい…私、頑張ります!

男:その意気だ

女:あの、津村さん

男:なんだ?

女:ちゃんと戻って来れたら…その時はおたくじゃなくて、名前で呼んでくれますか?

男:わかった。花見して、夜は一緒にうまいもんでも食いに行こう。あ、そん時はおたくの奢りな

女:…はいっ!約束します!


0:その瞬間、女の体が消えた


男:頑張れよ。…さ、チャコ。帰るか。お前のご主人様…香織さん、絶対戻ってくるから、それまで一緒に待ってような


0:「にゃーん」と暢気な声がした

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

頼まれごと 3人用台本 ちぃねぇ @chiinee0207

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ