第10話 花子さんの配信 『メンヘラさんとラブ♡コミュニケーション』

 一度目の配信が終わって、一週間後。


「……いや、すごいな」

 地道に増えている。フォロワーが。

 あのゲーム内容で? とも思うが、とりあえず規定の444人を超えようとしている。


 でも一番すごかったのは、花子さんが喋るたびに投げ銭されることだ。

 すごいな。彼女が一言喋るだけで5000円も投げる人いるって。どんどんヒートアップして1万円になってたけど。こわいなVTuberの配信。金銭感覚狂いそう。


『成果は上々だな』

 だがインパクトが足りない、と柳田。

 いや、ホラーゲームしてるのに観光名所案内って、それだけでもインパクトあるけどね。

『というわけで、今回はどっとフォロワーを増やす秘策ゲームを作ってきた』

「また観光名所案内だったりしない?」

『しない。ちゃんとしたホラーゲームだ』


 ホントかよ。


 そうして私たちは、柳田からもらったフリーホラーゲームを開く。

 タイトルは、『メンヘラさんとラブ♡コミュニケーション』だ。


「メ……ルヘン?」

「メンヘラよ、咲子さん」


 メリーさんが言う。

 なんだメンヘラさんって。メリーさんの仲間?


「メンヘラは、言うならば『病んでいる人』という認識ですね。インターネットで見ませんか?」

「えー……知らん。ヤンデレみたいなもの?」

『そっちは知ってるのか』


 柳田がツッコむ。


「そう言えばヤンデレとメンヘラの違いについて語っていたツイートがありましたね。確か、『メンヘラは自分を愛して欲しいがために病み、ヤンデレは相手を愛しすぎて病む』んだとか」

「あー……なるほど?」

『まあ、割とごっちゃになってる気もするがな』


 とりあえず、病んでいる人との恋愛をすればいいのか? オカルトではなさそうだな……。ホラーゲームなんだろうか、それ。

 ともかく、私たちはそれをやることにした。




 物語は、主人公が困っている女性を助けるところから始まる。

 強引なナンパを受けていたところを、主人公が助けたのがきっかけ。

 ヒロインは徐々に主人公好みの姿や嗜好となっていき、二人の関係が深まっていく。


「……ん? 普通の恋愛ゲームじゃない?」


 なんかチャットのコメント、句読点なくて読みづらいけど。

 チャットシーンからキスシーンに切り替わった時点で私はそう思ったが、なぜかメリーさんがどっと汗をかき始めた。


「め、メリーさん? どうしたの?」

「も、物凄く嫌な予感がするわ……」


 メリーさんが指を指すのは、にこやかに笑うヒロイン。

 すると画面は、ヒロインの立ち絵から、チャット通話に変わる。


『ねえ今どうしてるの?』

『最近連絡少ないよ?』

 通話が終了しました

『もしかして浮気?』

『浮気してたら許さないから』

 通話が終了しました

『ねえ今どこ?』

『ごめんなさい、しつこく連絡して。不安なの』

 通話が終了しました

『早く連絡してよ。なんで出ないのよ』


 ……のところで、もう読めなくなった。

 なぜなら画面が高速スクロールし始めたからだ。


 最終的なコメントは、『もう無理。さよなら。永遠にバイバイ』だった。


「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「メリーさぁぁぁん!?」


 メリーさんが発狂した。

 動画のコメントには、『どうした友人Aさん』『めちゃくちゃ発狂しとる』『まさか経験者か』と書かれている。経験者ってなに。


「5時間続けてくるLINEの音……どんどん溜まる通知……貼り付けられる自傷動画……わぁぁぁぁ!」


 あ、なるほど。経験者か。

 確かにメリーさん、電話の怪異だし、お悩み相談とか引き受けてるから、そういう人と繋がることもあるんだろうな。いやでも怪異がこんな怯えることある???

「メリーさん落ち着いて!! そんなに来るならブロックすればいいでしょ!」

「私がブロックして相手が自殺したらどーするのー!!」


 なるほど、罪悪感と命の危機もプラスしてじりじり追い詰めていくのか、メンヘラさんは!! そりゃ面倒みのいいメリーさんと相性悪いわ!!

 発狂するメリーさんに、まあまあ、と花子さんがなだめる。


「メリーさん、その方はすでにご縁が切れているのですよね? 私がブロックしましたし」


 花子さん知ってたんかい。っていうかあんたがブロックしたんかい。

 

「ぐすっ……そう。でも、その後死んでたらって思うと……」

「メリーさん、落ち着いて。メリーさんはあの方と縁を切るべきでした」


 そっ、と花子さんが肩に手を置く。


「いくら大怪我で死にかけていると言っても、お医者様でもない人が手術したらますます悪化してしまうでしょう?

 心も同じです。心の病のことは、専門家に任せましょう」

「ぐすっ……そうする」


 花子さんの言葉にある程度落ち着いたのか、メリーさんが泣き止んだ。

 珍しい、メリーさんがこんなに取り乱すなんて。よっぽど恐ろしい出来事だったんだろう。


「どうしますか? ゲーム別のものにしますか?」


 花子さんが尋ねると、動画のコメントも『無理しないでメ……友人Aさん!』『今日はやめてもいいぞ、メ……友人Aさん!』と書かれている。ヤバ、本名を配信に流しちゃった。

「やるぅ……最後までぇ……」

 暖かい声援を受けたメリーさんの勇気によって、配信は無事に終わったとさ。

 

 いやあ……オカルトより、人間が一番怖いわ。

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