突然ワク物語
鹿嶋 雲丹
第1話 プレゼント
毎日、魂は移動する。
人の世に生を受ける者あれば、人の世とおさらばする者もある。
人は修行を繰り返し、魂を磨き上げていったいどこへ向かうというのか?
その問いに、答える声はない。
「えぇ、目標! 目標はいらんかぇ〜!」
カランカラン、と手にしたハンドベルを鳴らしながら、体長10センチほどの野ネズミが声を張った。
「ちょいと、そこの野ネズミさんよ」
「はい、毎度どうも!」
その体に合った小さな屋台を引く野ネズミが、声の主を振り返る。
「これはこれは、お侍さん?」
「僕のどこをどう見たら侍に見えるんだよ。僕は学生さ」
学生服に身を包んだ身長168センチほどの男が、野ネズミに視線を合わせるためにしゃがみこんだ。
「今日の仕入れは、どんな具合だい?」
男は尋ねる。
「えぇ、今日の仕入れはですねぇ……」
野ネズミは引いていた屋台を見た。そこには5つの鍋が並んでいる。
「生きる、起きる、感謝する、尽くす、蹴落とす……のラインナップですな」
白、青、ピンク、紫、黒の鍋をそれぞれ覗き込みながら、野ネズミは陽気に答えた。
「えぇ、なにかご所望で?」
「うん、まあね、僕の大事なひとにプレゼントしたくてね……最近、あまり元気がないようだから」
男は鍋を端から端まで眺めながら言った。
「それはそれは……やはり、生きている人には目標があったほうがようござんすからね」
野ネズミはうんうんと頷いた。
「で、何色にします?」
「そうだね……しかし、いつも思うのだけど、黒の鍋を選ぶひとなどいるのかい?」
男は不思議そうに首を傾げる。
「お客さん、需要がないもんはあっしは仕入れたりしませんぜ。これでも、こちとら商売歴が長いんですから」
「まあ、他人の不幸は蜜の味とも言うしねぇ」
ふむ、と男は顎に手を当て考え込む。
「じゃあ、今日は青にしよう。バースデーカラーが青だからね。では、いつものように包装を頼むよ。リボンの色はオレンジがいいな」
「はいよ、毎度あり」
野ネズミはいそいそと、鍋の中から3センチ程の青いアメフラシを取り出した。
それを手際よく瓶に入れ、コルクの蓋を嵌める。
「瓶の色は
野ネズミは、鮮やかなオレンジ色のリボンがついた瓶を男に手渡した。
「うん、良い品だ。いつもありがとう。はい、代金」
男は笑みを浮かべ、野ネズミにピンク色の金平糖を渡す。
「これはまた上物を……毎度あり!」
野ネズミは満足そうに笑って頷くと、金平糖を一口齧って残りを屋台の隙間に載せた。
男は8センチ程の小さな宇宙色の瓶をポケットに入れ、歩き出す。
ぼんやりと宙を眺める、大切なひとの元へ向かって。
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