俺のダンジョンがお騒がせしております ~俺の作ったダンジョンがなんか現実化しはじめたので、被害が出る前にダンジョンマスターの俺だけが知る稼ぎ知識で最速最強で攻略してたらなんか配信されててバズった~
虎戸リア
第1話:コードダンジョン
そのメールが来たのは、俺が〝ダンジョンマスターズ〟(略称ダンマス)という、ダンジョンをプレイヤー自らが作り、それをオンラインにアップロードして、その難易度を実際に競い合うというゲームにハマっていた時の話だ。
俺がゲーム内のランキングで、前人未踏の六ヶ月間連続一位なった証だというクソみたいな称号〝迷宮王〟を得て、気を良くしていた時期でもある。
いつものように書きかけの期末レポートを投げ出し、俺のダンジョンに挑む愚かなプレイヤー共が死んでいく様子でも見つつコメントで煽ろうと、専用の配信サイトのアプリを立ち上げた瞬間。
ピロン、という軽快な音と共に、メール着信のお知らせがPCの右上に通知がきた。
そこの件名に、俺は思わず目を奪われてしまう。
『ダンジョンマスターズ2のテスターになりませんか?』
「ダンジョンマスターズ2? おいおい、知らんぞそんな情報」
その興奮させるような件名に誘われるがままにメールを開くと、そこには端的に説明するとこんな事が書いてあった。
『
まず、そもそも俺はダンマスの続編が出ることを知らない。そんな話、ネットですら出回っていない。
だけども、そのメール内容はひょっとしたらそういう可能性も有り得るな、と思わせる程度の現実味があった。
ダンマスは確かに人気のゲームだし、発売から二年すぎた今もプレイヤーが多く、専用配信サイトも盛況だ。
ならば続編が出ても不思議ではないし、開発されていないわけがない。ランカーの自分にテストプレイして欲しいという依頼も、少しくすぐったい感覚だったが、素直に喜べた。
だから二つ返事でやると返し、テスト用のデモデータをダウンロードしている瞬間がおそらく、世界で一番長い十分だったと思う。
「すげえええええええ!」
そうしてテストプレイを始めた俺は、その凄まじい完成度に思わず涙するほどに感動した。
グラフィックも、ダンジョンを作れる規模も自由度も超絶パワーアップされていて、これまでは、〝ここはもうちょいこうしたいけど、ゲームシステム的には無理〟みたいな部分がそれなりにあったが、今作はそういうのが一切見当たらなかった。
「神ゲーだ……神ゲーすぎる」
そんなことをうわごとのように言いながら、俺は大学の講義もさぼって、睡眠時間二時間、食事も一日一回で済まし、それ以外の全ての時間をダンジョン作成に回した。
気付けば――テストプレイにもかかわらず、作ったダンジョンの数は百を優に超えていた。
初心者向けの短いダンジョンから、猛者向けの鬼畜難易度ダンジョンまで、様々なシチュエーションやバリエーションを網羅した、完璧なダンジョン達。
「ああ、どっかのゲーム会社が俺をダンジョンマスターとして雇ってくれねえかなあ」
そんな妄想まで口にするようになった。
しかしある日。いつもの日課でダンマスのニュースや情報をまとめているサイトを覗くと――とんでもないトピックが表示されていた。
『現実にダンジョンが出現!? ダンジョンマスターズの開発会社は関与を否定』
それはあまりにも突飛な内容で、何度読み直しても意味が分からなかった。
書かれている内容を簡単にまとめるとこうだ。
・ダンジョンマスターズのサポートアプリを入れたスマホの、QRコードリーダーを特定の場所で起動すると、謎のコードが浮かび上がる。
・それをQRコードで読み込むと、ダンジョンに侵入しますか? という問いが画面に表示される。
・<はい>と答えると――ダンジョンの中へと入ることができる。それはスマホ上の画面で、というわけではなく、本人が実際にその中に入れるという。
「んなアホな」
俺がそう呟いてしまうのも無理はないだろう。
そんな謎現象、フィクションならともかく現実で起こってたまるか。
しかし、どう見てもダンジョンと思わしきところに入ってしまったところを、リアルタイム配信している者が複数出始めた。
CGだのドッキリだのやらせだの、そういうコメントがネット上に増えるなか、徐々に〝コード、ガチであった!〟〝俺も入れたぞ!〟〝リアルモンスターこええええ!〟というコメントがその数を上回ってくる。
そして嘘だろと思って、自分の部屋でスマホのQRコードリーダーを起動させて――俺は確信した。
「あはは……マジかよ」
画面に、青い謎の言語で書かれたコードが浮かんでいる。
ゲーム用のPC以外、あまり物がない俺の部屋にそんなコードは当然存在しない。スマホから目線を外してコードがあった場所を見るも、やはりそこには何もなかった。
そのコードを画面越しに見て、俺は無意識でそのコードをスキャンしていた。
すると、画面の表示が変わる。
そこにはこう書かれていた。
『<黒鬼の崩窟>:推奨LV50~』
『モード:セーフティ』
『このダンジョンに入りますか?』
<はい> <いいえ>
「……ガチだこれ」
生唾を飲み込む音がやけに大きく響いた気がする。
その画面は、ダンマスにおいて、プレイヤーとして他プレイヤーのダンジョンに侵入する時の画面と全く同じだった。
そのなかでもっとも注意すべきは、推奨レベルとモードという項目だ。推奨レベルは文字通り、それ以下のレベルだと攻略が難しいだろうという指標だが、モードとはそのダンジョン内で死亡した際のペナルティ、いわゆるデスペナに関するものだ。
その中でもセーフティモードは、ダンジョン内で死亡すると入口へと強制送還され、受けたダメージや状態異常は全て回復した状態になるというものだ。ただしダンジョン内で稼いだ経験値とドロップ品は引き継げない。いわば、初心者向けの難易度となっている。
「セーフティモードだから……ダンジョンをクリアしないと旨味はないけど、デメリットもない感じか……」
俺は少し震える手で、<はい>へと指を動かした。
本当に大丈夫なのか? 詐欺系のサイトじゃないのか?
そんな疑念よりも、ダンジョンを実際に見てみたいという欲求に俺は抗えなかった。
だから俺は<はい>の項目をタップした。
どうせ、何も起きやしない。そう思いながら。
そう思った瞬間。
「……うわあああああ!?」
世界に青白い光が溢れ――
気付けば俺は、埃っぽい乾いた洞窟の中に突っ立っていた。
地面は砂まみれで、壁につけられた松明がゆらゆらと俺の影を揺らす。
「……マジかよ」
見れば、服は着ていたはずの部屋着ではなく、ダンマスでの初期装備である<旅人の服>と類似したデザインのものになっていた。サイズもぴったりで、違和感はない。
さらに腰のポーチには、体力を回復させるポーションが三本入っている。腰には大振りなナイフが差してあった。
それらはやはり、どこからどう見てもダンマスにおけるプレイヤーの初期状態だ。
「ここまで一緒ってことは」
俺が振り返ると、背後は行き止まりになっている。当然、脱出口なんてない。
ダンマスと同じだ。ダンジョンを出るには、専用の脱出アイテムをどこかで入手する、あるいはダンジョンの最深部で待ち構えるボスを倒してクリアするか――
「いやいや待て待て……」
俺は嫌な予感を覚えながら、再び前を向いた。
暗い人工的に掘られたような通路の奥。何も見えないが、確かに何かの気配を感じる。
「いや、ガチでこええよ……」
自分で選んだとはいえ……こんな洞窟に一人っきりで放り出されて平気な奴なんていない。
俺は迷った末に、ナイフを抜いて進むことにした。
ここにいても埒が明かないことはなんとなく分かっていたからだ。
「探索者プレイはやったことなかったけど……いやこんなの現実では無理すぎる」
暗闇に何が潜むか分からないまま、壁に手を当てて俺は慎重に進む。
前からモンスターが来たらどうしようとか、こんなナイフで倒せるのかよ、とか色々考えていた。
だからこそ――足下には全く注意を払っていなかった。
「あっ」
何かが足に引っかかり、切れるような感触。
次の瞬間、天井から物音がしたので見上げると――
「ひっ!」
そこには金属性の棘がびっしりと生えた天井が剥き出しになっていて、それが勢いよくこちらへと落ちて来ていた。
「うわあああああ!!」
無意識で前へと逃げた俺の背後で轟音。天井が床とぶつかって耳障りな音を放ち、その衝撃で地面の砂が舞う。
間一髪避けられた俺はしかし再び天井から音が鳴るのを聞いて、鳥肌が立つ。
見れば、通路の遥か先まで棘天井になっていて、それが落ちてきている。
「は? いや、無理だろこれ」
その通路は五十メートル以上はあり、走れば間に合うような距離では決してなかった。
「ふざけんなよ!」
思わず叫んでしまう。ダンマスでは、プレイヤーの初期移動速度で回避不可能なトラップは、基本的に置けない仕様になっていた。例外があるとすると――避難場所や回避方法がキチンと用意されている場合だけ。
それを思い出しながら通路を見ると――左右の壁にそれなりのスペースの窪みがあった。
ゲーマーならきっとそれでピンとくるだろう。こういう系の天井トラップは、ああいうところでやり過ごすのが鉄板だと。
「うおおおおお!」
俺は夢中になって走って、右側の窪みへと滑り込む。後ろで棘天井が床へと落ちた音を聞いて、ホッと一安心したその瞬間。
「ギギギギギ……!」
俺は立ち尽くすしかなかった。
なぜならその窪みには、
「ギギャアアアア!」
「ああああああ!」
それは黒い小鬼――ゴブリンの上位種であるブラックゴブリンと呼ばれるモンスターだった。そいつは血まみれになった棍棒を俺の膝へと薙ぎ払った。
衝撃と痛み。そして浮遊感。
気付けば俺は地面へと転倒しており、ブラックゴブリンが俺に馬乗りになる。
「ゲギャギャ!」
その醜い顔に浮かぶのは愉悦。
「ああ、待ってくれ待って――」
俺の懇願を最後まで聞かず――ブラックゴブリンが棍棒を俺の頭へと振り下ろした。
何が潰れる不快な音。痛み。暗転。
「うわああああああ!?」
瞬きをしたと同時に――俺は自室に突っ立っていた。
「はあ……はあ……今のは……夢……?」
いや、そんなわけがない。あんな理不尽でリアルな体験が夢なわけがない。
「クソすぎる……なんだよあのクソダンジョン! 最初の通路でいきなり致命的なトラップを置くなよ! しかも避難場所にモンスターを配置する鬼畜っぷりはなんだ? 鬼かよ!?」
そう俺は思わず吼えてしまう。案の定、SNSを見ると、最初の通路で脱落した人々の怨嗟の声で溢れていた。
「だよなあ……あんなクソダンジョン、作るの俺ぐら……い……だ……?」
そこで俺は気付いた。
あれ。
あのトラップ配置とモンスター配置、さらに洞窟内の雰囲気。どこかで見た覚えがあるぞ。
俺は今度こそ本当に嫌な予感がしながら、慌ててPCを起動。ダンジョンマスターズ2のデモ版を立ち上げ、これまでに作ったダンジョンの中でも、比較的初期に作ったものの一覧をスクロールしていく。
そこで、一つのダンジョンが目に留まる。
俺が付けたダンジョン名は<ブラックゴブリンの洞窟>。
それは――最初の通路で針天井と、避難場所にブラックゴブリンを配置するという初見殺しを盛り込んだダンジョンであり……先ほど体験したものと全く同じだった。
「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! 偶然だ、たまたまだ!」
俺はそう叫ぶしかなかった。
当たり前だが、このダンジョンはどこにも公開していない。このデモ版だって、オンラインに繋いでやっているわけではない。
そう。偶然、俺が作ったダンジョンと、似たようなダンジョンがなぜか現実に現れただけ。
「なわけねえよな!」
別に俺だってそこまでオリジナリティ溢れる配置だとは思っていない。しかし最初の通路で、しかもブラックゴブリンを避難場所に配置する、という部分での一致はやはり見過ごせない。
「もしかして……とんでもないことになってる?」
そう俺が呟いたと同時に――スマホが着信を知らせる。
見慣れない番号。取らないという選択肢はなかった。
取った瞬間に、女性の声が俺の耳へと届いた。
『――
「……はい」
『大至急、お尋ねしたいことがあります。お時間をいただいても?』
その問いに俺は、はい、としか答えることができなかった。
こうして俺は、俺が作った鬼畜難易度のクソダンジョンを、我が身を持って攻略するハメになるのだった。
***
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