一〇章 真打ち登場
新しき
それも、一体ではなかった。二体、三体、十体、二十体、百、千、いや、それ以上……。新たな
その
金属の鎧をまとった
天を突く巨人のような
幾枚もの巨大な翼を生やした
その他、竜のような姿をしたもの、獣のような姿をしたもの、機械の体をもっているかのようなもの……。
一人ひとりの
――こ、これは……。ゼッヴォーカーの導師、これは一体どういうことなのです、
――説明しよう、マークスⅡ。私にもわからぬ。
なんと言うことだろう。あの機械的なまでに冷静で、深き英知に富んだゼッヴォーカーの導師。そのゼッヴォーカーの導師が理解不能な出来事を前にうろたえることがあろうとは。
しかし、事実、ゼッヴォーカーの導師の声、いや、思念にははっきりとうろたえた様子があった。これが人間なら後ずさり、目を見開き、脂汗を流しているところだ。それぐらい、目の前に展開された光景は衝撃的なものだった。
はじまりの種族ゼッヴォーカー。
そのゼッヴォーカーが見つめてきたこの世界の歴史。それは、数万年ではとうてい足りない。その永いながい歴史のなかで一度も起きたことのない出来事。それが、いま、起きているのだ。
通常であればその出来事に知的好奇心をそそられ、この上ない研究対象が出来たと喜び勇んでいたことだろう。しかし――。
しかし、いまはそんな余裕なぞない。もし、この新しき
滅亡から逃れるために
我々、人類のもくろみが外れたことで!
わしは大きな責任と、それ以上の
「駄目です、マークスⅢ! 新しい
決戦兵たちの悲鳴が響く。この戦いのためにすべてを懸ける。そう誓ったはずの決戦兵たちが思わぬ事態に怯む姿を見せていた。
「くっ……」
マークスⅢが歯ぎしりした。その手にもつ鬼骨をもってしても新しき
――斬れる。
そう断言することはわしには出来なかった。
「どういうことだ、なぜ、新しき
――だから、『勝ったつもりか』と言ったのだ。愚かな人間よ。
「な、なに……?」
――人類の凄さはかわれる凄さ、か。二千年前、騎士マークスとの戦いのときから聞かされてきた言葉だ。お前たちはたいそう、自分たちがかわれることを誇っているらしいな。だが、お前たちは大きな過ちを起こした。それは……。
すべての
――
「ふざけるな!
――それが、過ちだというのだ、人間よ。
「なに……?」
――
――お前たちの変化を取り込み、そうすることで、我らもかわる。
「………!」
――そう。お前たち人間は我ら
「くっ……。決戦兵、
――無駄だ。
「うわああっ!」
決戦兵たちの悲鳴が響いた。
極限まで鍛えあげ、肉体においても、精神においても、人間の限界を超えるまでに高め、決して動ずることのない金剛の精神を身につけた、そのはずの決戦兵たちが恐怖に駆られ、無様に悲鳴をあげたのじゃ。
決戦兵たちはマークスⅢに言われたとおり、密集隊形を取ることで機械の槍の穂先をそろえ、
――言ったであろう。我々はお前たちの変化を取り入れ、より強くなったと。お前たちの振るう力そのものを我が一部にかえたのだ。もはや、お前たちの力なぞ通じん。
「くっ……」
マークスⅢが歯がみしおった。そこへ、騎士マークスの悲鳴――騎士マークスともあろうものが悲鳴をあげたりすることがあるとするなら、このときがまさにそうじゃった――が届いた。
――マークスⅢ! 新しき
「騎士マークス……。わかりました」
マークスⅢは
そのときのマークスⅢの悔しさ、無念さは、わしには身が切れるほどによくわかった。
「決戦兵、一時、撤退だ! すぐに船団まで戻れ!」
マークスⅢのその指示に――。
決戦兵たちは我先にと大広間の出口に向かった。
あまりにもあわてたものだから、お互いにぶつかり、激突し、倒れ込む。倒れたその上に次の波が殺到し、背を踏みつける。足を取られ、転倒する。さらにその上に次の波が押し寄せ……。
互いにぶつかり、転倒し、なんとか起きあがろうとしたところを後続に踏みつけられ……そこにいたのはもはや、心技体すべてにおいて極限まで鍛えられた精鋭中の精鋭などではなかった。恐怖に駆られ、我先にと逃げ出す小動物の群れに過ぎなかった。
それほどの
じゃが――。
――無駄だ。
無慈悲なる
本来、
それ
このときばかりは『感情がある』ということの残酷さが骨身に染みた。
――逃がしはせぬ。
冷徹なる
決戦兵は、そして、マークスⅢと我々は、もはや、完全に
マークスⅢの苦し紛れの指示が飛んだ。
「円陣を組め! 密集隊形を作って
この期に及んでも決戦兵たちはマークスⅢの指示に忠実だった。言われるままに円陣を組み、身と身を寄せ合い、外に向けて機械の槍の穂先を向けた。穂先と穂先とを寄せ合い、
――無駄だと言った。
またも、
――お前たちの力はすべて解析した。もはや、我らには一切、通じぬ。
その言葉を証明するかのように――。
「うわあああっ!」
決戦兵の悲鳴があがる。
決戦兵の手が、足が、顔が、その全身が、
――見よ。かわる、かわって行く。お前たちは永遠にかわる! 嬉しかろう、誇らしかろう、かわることこそお前たちの自慢なのだからな。 望み通り、我らがお前たちをかえてやるぞ。
同胞たちが苦しみ、変異させらて行くのをただ黙って指をくわえて見ていることしか出来なかったのじゃ。
――もはや、これまでか。
そう思われたそのときじゃ。
「それで勝ったつもりか?」
声がした。
女性の声じゃ。若く、美しい声じゃ。そしてそれは――。
この二千年、誰も聞いたことのない声じゃった。
「
清らかなるハープの音色と共にその声の主はやってくる。
ハープを奏でる若く、美しい女性。
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