五章 運命を選びしもの
島のなかに
その
そう。これは戦いを告げる
勇者マークスⅢが進み出た。野外会場のその舞台へと。
「これより……」
マークスⅢは大きく息を吸った。思いきり胸を張った。肚の底から噴火するような勢いで熱く、激しい言葉を放ちおった。
「『最後の』戦いに向けての決意表明を開始する!」
会議ではない。
協議でもない。
そんな段階はとうに終わっておる。この場にいる誰ひとりとしてこの戦いの意義を疑うものはおらぬ。誰もがこの戦いの意味を知り、自分たちの世界を守るためには戦わなければならないことを知っておる。
千年前の、わしの時代の戦いとはちがう。
あの時代の人間たちは過去の戦いの記憶を受け継いではいなかった。人と人の争いに明け暮れ、騎士マークスとその仲間たちの戦いを忘れておった。ために、充分な準備も出来ず、人類が一丸となって挑むことも出来なかった。そのために――。
あの戦いでも多くの犠牲を出すことになってしまった。
じゃが――。
わしはとうに失った目頭が熱くなるのを感じた。人の身のままであったなら滝のような涙を流しておったにちがいない。
――わしはまちがっていなかった。
そう確信できた。
――あとにつづくを信ず。
その一言を残し、人の身を捨てて
わしはそのことがたまらなく誇らしかった。
マークスⅢが手にした剣を高々と突きあげた。
『最後の』戦いのための武器としてわしが作り出した剣。〝鬼〟の骨から削り出した
「勇者マークスⅢ! この場にて宣言する! この戦いに置いてただのひとりの犠牲も出さないこと、そして、この戦いを
マークスⅢはそう叫んだ。
そう。この戦いにおける『覚悟』とは勝つことではない。勝つなど当たり前。人類は過去に二度、
ただのひとりも犠牲を出さないこと。
この戦いを最後に、
その二点。そのためにこそ――。
この時代の人間たちは、千年の長きにわたり力を蓄えてきた。
「集え! 自ら運命を選びしものたちよ!」
マークスⅢが叫ぶ。
その声に応じ、会場の上に八つの鏡が現れた。
――説明しよう。はじまりの種族ゼッヴォーカー。あまたの世界の滅びと再生を見届けてきたその知識と経験にかけて。
――第二の種族メルデリオ。我らの魔導の力を捧げよう。
――第三の種族イルキュルス。運命を読み解き、伝えましょう。
――第四の種族カーバッソ。我らが鍛えし空前の武器を与えよう。
――第五の種族ゴルゼクウォ。我らが力を未来のために!
――第六の種族ハイシュリオス。戦士たるの誇りにかけて、
――第七の種族ミスルセス。
――第八の種族カーンゼリッツ。我らが蓄えしすべての英知をこの時代に。
空の彼方にぴったりとよりそう、霧で出来た巨人が現れる。
――
足音が連鎖し、幾人かの
「
「鬼を殺すもの。犠牲を強いるすべてのものを斬り捨てよう」
「『復活の死者』の末裔。我らが種族を生み出し、生きつづける機会をくれた恩義にかけて」
「『もうひとつの輝き』。二千年に及ぶ研究成果のすべてと共に」
二本足の翼の獣がやってくる。
「ダンテのリョキ! おれこそが最強の生命だと証明しよう!」
海を割って、幽霊船と巨大な
――騎士マークス。騎士として、全人類への責務を果たそう。……我が妻、サライサと共に。
――サライサ。母として、子供たちの未来を守るために戦いましょう。……夫マークスと共に。
続々と勇士たちが現れ、自らの決意を語る。
そう。この場にいるのは誰もが『自ら運命を選んだ』勇士たち。運命や、神を名乗る超越者に選ばれ、特別な力を与えられたものなどひとりもいない。誰もが、自ら自分の運命を選び、その運命を成就させるための力を、自らの鍛錬によって身につけたものたち。だからこそ、そこには揺らぐことのない断固たる決意がある。
むろん、わしも名乗りをあげる。他の勇士たちに劣らない決意と覚悟をもって。
――賢者マークスⅡ。千年の眠りのなかで鍛えし
わしのその一言を最後に――。
名乗りをあげる声は終わった。
残るはただひとり。人類最初の『運命を選びしもの』だけ。
全員の視線が一カ所に集中する。会場の中央。そこで、二千年前からまったくかわらぬ姿でハープをかき鳴らしつづけるその女性を。決して言葉を口にすることのないその女性、その女性の意思を、本人にかわって語る資格をもつものはここにはひとりしかいない。
幽霊船の身に魂を宿した騎士マークスが朗々たる声をあげた。
――
その決意表明を合図に――。
マークスⅢは再び吹き出すマグマのような叫びをあげた。
「天も
バチ、
パチ、
パチ。
マークスⅢのその宣言に答え――。
天から拍手の音が降り注いだ。
全員の目が天に向かった。そこに、予想通りの姿を見出した。
「……来たか」
ニヤリ、と、マークスⅢが笑って見せた。
「
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