SIRE

長部円

1 Unknown Stories Online L

ユーノス・エクリプス・エンタテインメント(EEE)からリリースされたVRMMORPG「アンノウン・ストーリーズ・オンライン(USO)」は大ヒットを記録し、今もなおサービス継続中である。

このゲームがきっかけで交際を始め、結婚したという者もいるが、その一方でゲーム内イベントと無関係のプレイヤーキル(PK)の応酬など、ゲーム内での男女の恋愛を発端としたいざこざも少なからず起きており、EEEには専用フォームやメールで改善要望が多数届いていた。


解決策の1つの形としてEEEは、USOのサービスを継続しながら、別の世界を舞台とするVRMMORPG「アンノウン・ストーリーズ・オンラインL(USOL)」をリリース。

プレイヤーを含めて、ゲーム内に登場するキャラクタを女性だけにして男女の恋愛を排除し、イベントでの対人戦などいくつかの例外を除いてプレイヤー同士による戦闘をできないようにすることで、ゲーム内での治安の悪化を防いだ。


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「エリ!」

「あーちゃん、待ってたよ…」

エリの家…宇都宮家にやってきた高崎明子がエリの部屋に入ると、エリは愛らしい笑顔を向けた。

エリの両親は共働きで、平日は夜遅くまで家にいないことがほとんど。

そのため、幼馴染みである明子に家の鍵を預けて、エリの世話を任せっきりにしてしまっている。

それでも、明子は大好きなエリの世話なら嫌な顔一つせずに続けてきた。


長身の明子が小柄なエリをぎゅっと抱き、その心地よさに少しの間酔いしれてから、2人はVRゲーム機の準備をする。

2人用のソファに並んで腰かけたエリと明子はほぼ同時にゲーム機を起動し、ホーム画面で予めダウンロードしていたUSOLのインストーラを実行した。


事前登録完了時に発行された"コード"を入力する画面が表示されると、ゲーム機に標準搭載されているメッセージボックスからユーザ登録完了のメッセージを開き、コードをコピーして入力画面にペーストする。


USOLは事前のユーザ登録が必須で、申し込みから登録完了まで2日ほどかかるという目安が示されていた。

エリと明子は事前登録も一緒に行ったが、登録申請フォームの入力欄にはキャラクターの名前などのほかアンケートも含まれており、最後の項目は"USOLでやってみたいこと"。

エリの回答は、"大好きな子と、ゲームの中で一緒に歩いたり、走ったりしたい"だった。


ユーザ登録完了のメッセージには"シュヴェスター"用のコードも記されており、初期設定の際これをお互いに入力することで、ゲーム内において"シュヴェスター"という特別な関係になれるという。

エリと明子がメッセージを交換して"シュヴェスター"用のコードも入力すると、2つのコードは有効なものとして認証され、初期設定画面がいくつか遷移すると、"パラメータ設定"の画面でプレイヤーの分身となるキャラクタの"初期パラメータ"が提示された。


"初期パラメータ"は、気に入らなければプレイヤーが一定の範囲でカスタマイズすることができる。

実際に、明子は自分の分身となる"メイ"を初期パラメータから大幅にカスタマイズしていた。

一方、エリは提示された"エリス"のパラメータを見て、そのまま確定するかカスタマイズするか、少し迷った。


"肉体"の耐久値(PH)最大2511、魂の耐久値(AH)最大660、敏捷性(AG)255、知性(IN)773は申し分なかったが、剣のスキルレベル(SK)と魔法各属性のスキルレベル(ZK)はいずれも0で、他のパラメータも0ではないがかなり低い。

何より、USOでは"剣と魔法の世界"がその通りの意味を持っており、戦闘における主な行動は剣による物理攻撃か魔法の行使。

一応、剣以外に物理攻撃をできる武器もあるが、SKの上昇によって使い勝手がよくなっていく剣とは比べるまでもなく、あくまで補助的な攻撃手段でしかない。

SKが0だと戦闘において剣を使うことができず、ZKが0だと魔法も使えない。

現時点で見えているパラメータでは、戦闘におけるエリスの役割は、剣以外の武器で攻撃しつつ敵からの攻撃を避け続けるしかなかった。


だが、特殊スキル欄に2つ封印されたスキルがあり、2つとも"特殊イベント達成で封印解除"という注記がされている。

"枠"も豪華な装飾が施されており、かなり有用かつレアなスキルであることを匂わせていた。


結局、エリはその内容でパラメータを確定させた。

特殊スキルが役に立つものであればいいが、そうでなくても、この能力値であれば大好きな明子と一緒に歩いたり走ったりするという望みは叶うから。


明子はパラメータのカスタマイズに時間をかけた分、エリよりも初期設定の進行が遅れたものの、初期設定の終了を待っていたエリになんとか追いついた。

「えへへ…いつもは私が遅れちゃうけど、今日はあーちゃんのほうが遅かったね」

「エリ…ゲームの中に入ったら、あーちゃんは止めてね…」

「わかってる…それじゃ、行くよ、メイ」

「いいわよ、エリ…」

2人はほぼ同時に、初期設定を終えて"ヴンダーライヒ"へ旅立つためのボタンを押下。


USOLのオープニング映像がしばらく流れた後、視界が切り替わると、エリスとメイは見慣れない小さな家の中に立っていた。

そして、目の前には2人より背の高い女性が立っており、ピンク色の瞳をエリスに向けた状態で声をかけてきた。

「あなたがエリスちゃんね。

 ゲームの開始前に、あなたへお願いしたいことがあるの」

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