私の攻略対象者は悪役令嬢です

仲仁へび(旧:離久)

私の攻略対象は悪役令嬢です



 私、マリア。


 乙女ゲームの主人公に転生して、毎日がうっきうきなの。


 だって、その世界は前世で大好きだった「ラブリー・スクール」っていうゲームの世界だもの。


 しかも、その「ラブリー・スクール」のゲームには、私がやった全ての乙女ゲームキャラクターの中で、一番好きなキャラクターがいるの。


「ラブリー・スクール」の世界に転生したなら、しかも主人公なら、必然的にそのキャラクターに会える!


 なら、これで喜ばない方がおかしいでしょ。


 私の心を独り占めした相手?


 それは誰か。


 もちろん攻略対象だって思うでしょ?


 残念、ハズレ。


 私が好きなのは、悪役令嬢のリリィ様よ。


 主人公を虐めて、攻略対象との仲をひきさくっていう、そういう役割の人物。






「リリィ様! 放課後にデートに行きましょう!」


 だから、私は毎日悪役令嬢のリリィ様に猛アタック。


 私達が通っているお金持ち学園の廊下で待ち伏せて、教室から出てきたところで、デートを申し込むわ。


 すると、リリィ様はドン引き。


「あなた、昨日私が文句をつけたばっかりよね。礼儀がなってないわって」

「はいっ、でも。それが何かっ?」

「普通は、そういう相手を遊びに誘ったりはしませんのよ」


 リリィ様は呆れた表情になってしまう。


 そんなにおかしい事かな。


 リリィ様は、私に当然の事を注意してくれただけなのに。


 昨日は廊下で急いでてちょっと走っちゃったんだけど、あれは危ないし、淑女にあるまじき行動だったわ。


 リリィ様にとがめられるわけね。


 きちんと反省しなくちゃ。


 いくら私は特待生で入学した平民で、そういうマナーにうといと言っても。


 けれど、原作のマリアはちょっとあれなのよね。


「ひどいわ、リリィ様。そんなにきつく言わなくても」って泣いちゃうの。


 そこで攻略対象が出てきて、悪役令嬢をかっこよく糾弾。


 一見すると、良いシーンに見えるけど、リリィ様は悪い事は言ってないわよね。ちょっと言い方はきつかったけど。


 そこのところ、マリアは被害者意識が高すぎるっていうか。

 好きになれなかったのよね。


 攻略対象からすると、そこが庇護欲をかきたてられるっていう話らしいけど。

 私には分からない魅力だわ。


「リリィ様は、貴族学校に特例で入学していた平民の私の事も、しっかりと気にかけてくれる良い人ではありませんか。嫌いになるわけないですよ」

「いっ、良い人だなんて。そっ、そんな事は(ごにょごにょ)」


 私が褒めると、リリィ様は頬をそめてもじもじ。


 ツンツンした態度でいつつも、いつも私のお節介を焼いてくれるリリィ様は、素敵な人だしかわいい。


 前世から好きだったキャラを目の前で拝めて、私は今とても幸せだ。







 リリィ様は、ちょっと褒めるとちょろい。


 表面的な態度がツンツンしてるし、名門の家の娘だから、今まで親しい友人がいなかったせいね。


 それだから、人から優しくされると、すーぐころっといっちゃう。ちょろいの。


 そこに付け込まない手はないわ。


 私は褒めたついでに、デートを申し込み。勢いでデートの良い所をまくしたて、三分後に見事、約束を取り付けた。







 そして数日後。


 リリィ様は私と一緒に、街を歩いてカフェでお茶したり、ショッピングしたりしてくれている。


 荷物の紙袋を持った私は、うっとりしすぎて心の声が駄々洩れだ。


「リリィ様、好きっ。一緒に結婚して、一緒に家に住んで、一緒のお墓に入りましょうねっ」

「重いですわ。嫌ですわ。却下しますわ」

「リリィ様ったら照れちゃって」

「そこは顔を赤らめる所ではありませんわよ」


 リリィ様はぶつくさ文句をいったりしながらも、私にずっと付き合ってくれる。


 私は普段からこんな調子で、ちょっとテンション高めだから、学校でも浮いてるのよね。


 ある意味リリィ様とお揃いってこと。


 でも、そんな私にも付き合ってくれる優しいリリィ様。


 これで、好きにならないわけがない。


 前世からもう好きだったけど。


「結婚指輪はいつ買いましょうかっ!」

「話の展開が早いですわ。そこまでの仲ではありませんわ。もしそうだとしても、段階をすっとばしすぎですわ」


 いいかげんいつものマシな状態にもどってほしいですわ、と肩を揺さぶられた。


 正気に戻ってと言わないあたり、私の事よく理解してるわねリリィ様ってば。







 そんな風に、私とリリィ様の甘い学生生活がつづられていったけれど、ちょっと困った事が。


 攻略対象達が私に惚れちゃったみたい。


 うーん、さすが主人公。


 大した事をやってなくても、好感度が貯まってしまうのね。


 それとも、彼等もちょろかったのかしら。


 ちょっと手伝いをしたり、ほんの少し親切にしただけなのに。


「俺の事だけ見つめてろよ」とか。


「僕の事、好きになってほしいな」とか。


「私の事を、どう思っているだろうか」とか、甘い言葉を言われちゃった。


 リリィ様を知る前だったら、どきっとしていたかもしれないけど。


 私はもう、世界で一番かわいい人の存在を知ってしまっているから。


 だから。


「私が見つめるのはリリィ様だけです」とか。


「ごめんなさい、嫌いじゃないけど特別な好意は抱けません」とか。


「普通の良い友人だと思っています」とか、言っておいた。


 けれど、彼等は諦めなかったらしい。


 ことあるごとにデートに誘ってきたり、偶然を装って一緒に行動しようとしてきたりする。


 そのたびに、リリィ様と過ごす時間が減っていくから、ちょっとげんなりしちゃってるのよね。


 イケメンが積極的に私に声をかけてくれてるわ!


 って喜べたらいいけど。


 私はそうじゃないし。







 今も、授業の終わりに攻略対象達が教室の外で待ち伏せていた。


 しかも、攻略対象達全員で。


 これ、絶対修羅場になる。


 今教室の外に出たら確実に餌食に、じゃなくて面倒な事になってしまう。


 でも、一生出ないわけにもいかないので、覚悟を決めるしかない。


 ため息をついた私は、席を立って教室の外に出ようとした。


 そしたら、攻略対象達に話しかけるリリィ様の声が。


「あら、マリア様ならもうお帰りになられたわよ。ちょうど玄関を出た所じゃないかしら」


 そしたら、ばたばたと「いつの間に!」とか「急がないと」とか「負けないぞ」とか言いながら走っていく、攻略対象達の足音。


 もしかして、リリィ様助けてくれた?


 この教室、窓ガラスがすりガラスになってるから、詳しい状況は分からないけど。


 外に出てみると、リリィ様が苦虫をかみつぶしたような顔で立っていた。


「困っている方に手を差し伸べないほど、狭い心の持ち主ではありませんわ。貴方、最近疲れた顔していたでしょう?」

「リリィ様、私の為に! ありがとうございます! 一生添い遂げる覚悟で恩を返します!」

「重いですわ、嫌ですわ、そういう話ではありませんわ」


 思いきって抱き着いてみると、嫌々ながらもなされるがままのリリィ様。


 これは、押せばいける?


 と、思いきやべりっと引きはがされた。


 ちょっと早かったか。







 さっそうと立ち去る悪役令嬢リリィ様。


 そのかっこよさは、前世で見つめていた時から変わらない。


 けれど、ゲーム画面で見つめていたように、もうその背中を見送らなくてもいいのだ。


 私は駆け足で、走り寄る。


「もう少しどこかで時間を潰してから下校した方がいいでしょうね。今外に出るとはちあわせてしまいますわよ」

「了解しました! じゃあ、一緒に図書室デートでもどうですか!」

「遠慮いたしますわ」

「そこをなんとかっ! そう言わずにっ!」


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